23.好きだから
なかなか進まないです…
本日もう1話投稿しますのでよかったら見てみてくださいm(__)m
王都の喧騒は、リシェルにとって刺激が強すぎた。人の多さに、絶え間ない話し声。向けられる視線。クラウスが手を握ってくれているおかげで何とか平静を保てているが、それでも胸がざわつく。
「少し休むか?」
クラウスが気遣うように覗き込む。
「……大丈夫、です」
何とか答えたが、
「ねえ、あれ副団長様よね?」
「隣の人、恋人?」
「すごい綺麗……」
通りすがりの令嬢達の声が耳に入る。リシェルの肩がびくりと揺れた。見られている、噂されている。その感覚が、一気に恐怖を呼び起こした。
幼い頃の記憶。遠巻きに囁く使用人達。
『危険なお嬢様』
『近づくな』
『また暴走したら』
冷たい視線、怯えた顔、こちらを見ながらヒソヒソ話す光景が一気にフラッシュバックする。
「っ……」
呼吸が浅くなる。視界が揺れた。クラウスがすぐ異変に気づく。
「リシェル?」
「……だ、大丈夫……」
全然大丈夫じゃない。人混みが急に怖くなった。誰もが自分を見ている、責めている気がする…。
その時。
不意に子供が走ってきた。
「わっ!」
小さな男の子がリシェルへぶつかりそうになり、一瞬で彼女の身体が強張った。怖い、傷つける…また暴走する。銀色の魔力が微かに滲む。
クラウスは即座に彼女の肩を抱き寄せた。
「大丈夫だ、落ち着け」
男の子の母親が慌てて駆け寄ってくる。
「す、すみません!」
「気にするな」
クラウスは短く答えたが、リシェルの震えは止まらない。周囲の視線が集まり始める。
「何かあった?」
「副団長様?」
その音がどんどん恐怖へ変わっていく。
「リシェル」
クラウスは彼女の顔を覗き込んだ。青ざめている。限界が近い。
「こっちだ」
彼は迷わず彼女の手を引いた。人混みを抜け、細い路地へ入る。喧騒は少し遠ざかったが、リシェルはまだ震えていた。
「……ごめんなさい」
「謝るな」
「でも、また……」
「何も起きてない」
クラウスは彼女を壁際へ誘導し、自分の外套で周囲を隠すように覆った。狭い空間。距離が近い。だが今のリシェルには、その閉ざされた安心感がありがたかった。
「俺を見ろ」
低く穏やかな声。リシェルは震えながら顔を上げる。群青の瞳。真っ直ぐで、揺るがない目。
「呼吸を合わせろ」
クラウスは彼女の手を握ったまま、ゆっくり息を吸う。
「……吸って」
リシェルも真似する。
「吐いて」
少しずつ。
乱れていた呼吸が整っていく。
「大丈夫」
クラウスは静かに言った。
「誰も君を責めてない」
「…怖かった。また皆を傷つける気がして……」
クラウスは少しだけ眉を寄せる。
「リシェル」
そして。
彼はそっと彼女の額へ額を合わせた。
「っ……!」
リシェルの目が大きく見開かれる。
近い。
息がかかる距離。
「俺がそばにいる」
低く甘い声だった。
「君が怖くても、俺が支える。君が暴走しそうになったら俺が止める。だから、大丈夫だ」
リシェルの胸が熱くなる。安心する…不思議なくらい。さっきまで荒れかけていた魔力も、心の中も凪いでいた。
「……どうして」
「ん?」
「どうして、傍にいてくれるんですか」
「好きだからだろ」
あまりにも自然に言われた。
「…………え?」
リシェルの思考が止まる。クラウスも数秒遅れて、自分が何を口走ったか理解する。
「……」
「……」
沈黙。
リシェルの顔がみるみる赤くなる。
「えっ、あの、い、今……」
「…………」
クラウスは珍しく視線を逸らした。完全に本音だった…無意識に出た。誤魔化そうか一瞬迷いーー
「……訂正はしない」
拗ねたような顔で視線をそらし低く告げる。
リシェルの心臓が跳ねた。
「ク、クラウス様……」
その時だった。
ぞわり、と嫌な気配が走り、クラウスの表情が一変した。
「ーー誰だ」
鋭い声。
路地裏奥に黒ローブの男が一瞬だけ姿を見せてすぐ消えた。クラウスの目が険しくなる。
今の気配はただの尾行ではない。明確な監視だった。




