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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第三章 少しずつ変わる日常

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20/51

20.はじめての恋

 翌日。


 北棟の朝は、どこか穏やかだった。リシェルは薬草園で花の手入れをしている。最近、ここへ来る時間が少しだけ楽しくなっていた。理由は簡単だ。高確率でクラウスが現れるから。今日も来てくださるかしら?そう思いながらそれを自覚した瞬間、息をのんだ。


 自分で自分に驚いたのだ。会いたい、と思っている。その事実に胸が熱くなる。

     

「お姉様」


 セレナが後ろから顔を覗き込んできた。


「最近すごく顔が柔らかいですね」

「そ、そう?」

「はい」


 セレナはにやにやしている。


「クラウス様のおかげですか?」

「っ……!」


 リシェルは勢いよく振り返った。


「ち、違います!」

「でもクラウス様の話になると顔赤いですよ?」

「なってません!」

「なってます」


 くすくす笑いながら被せ気味にセレナが言う。


「〜〜〜〜っ!!」



 リシェルは真っ赤になって言葉に詰まる。そうなのだ…最近おかしい。クラウスを見るだけで落ち着かないし、声を聞くと嬉しくなる。近づかれると息が苦しい。でも会いたいと思う。これが何なのか、薄々気づいていた。でも…、認めるのが怖い。

     

 その時だった。


「クラウス様!」


 明るい女性の声が響く。リシェルが顔を上げる。庭園入口に、見知らぬ令嬢が立っていた。栗色の髪を巻いた華やかな美女。そして、その隣にはクラウス。

 

 令嬢は親しげに彼の腕へ触れている。リシェルの胸が、嫌な音をたてて鳴った。


「お久しぶりですわ!」

「ああ、久しぶりだな」


 クラウスも普通に返している。その様子が妙に自然で、リシェルは胸の奥がざわついた。



「お姉様?」


 セレナが不思議そうに顔を覗き込む。


「顔色悪いですよ?」

「……だ、大丈夫」


 大丈夫じゃなかった。知らない女性。

 綺麗で、明るくて、クラウスと並んでも違和感がない。


 …それに比べて自分は、北棟に閉じこもっていた陰気で、危険な令嬢。釣り合うわけがない。



     

 遠くから令嬢の笑い声が聞こえ、クラウスも珍しく柔らかい顔をしていた。その光景が妙に胸へ刺さる。


「……お姉様」


 セレナがそっと声を掛ける。


「もしかして嫉妬してます?」

「っ!?」


 リシェルが勢いよく立ち上がった。


「ち、違……!」

「分かりやすすぎる…」

「違います!」


 だが声に力がない。

 セレナは完全に確信した顔だった。


「恋ですねぇ」

「違いますって……!」


 でも否定出来ない。

 胸が苦しい、見ていたくない。なのに目が離せない。



 

「……で、何の用だ」


 クラウスは目の前の令嬢へ淡々と尋ねていた。相手は公爵令嬢ミレイナ。昔から付き合いのある幼馴染だ。


「冷たいですわねぇ」


 ミレイナは楽しそうに笑う。


「せっかく会いに来たのに」

「忙しい」

「その割には最近侯爵家通いしてるとか?」


 クラウスが眉を寄せる。…もう噂が広がっている?ミレイナはにやにやしていた。


「本当に恋人が出来たんですの?」

「恋人ではない」

「へぇ」


 だが否定の仕方が微妙だった。

 ミレイナは面白そうに視線を動かす。そして。


「あら?」


 少し離れた場所にいるリシェルへ気づいた。銀髪の美しい令嬢。けれどどこか儚く、不安そうにこちらを見ていたが、目が合うとわずかに頭をさげたが、すぐにそらされる。ミレイナは一瞬で理解した。



「あの子ですのね」

「……何がだ」

「貴方の本命」


 クラウスが黙る。

 それだけで答えだった。ミレイナは思わず吹き出す。


「本気なんですのねぇ」

「…悪いか」

「いいえ?」


 彼女は楽しそうに笑った。


「むしろ応援したくなりましたわ」



    

 

 リシェルがふらりとその場を離れた。クラウスはすぐ気づく。


「……?」


 表情が沈んでいた。何かあったのか。


「クラウス様?」

「悪い、また今度だ」


 クラウスは即座に踵を返した。ミレイナは呆れ半分、微笑ましさ半分でその背を見送る。


「分かりやすい男」

     

 



 庭園奥で、リシェルは一人でしゃがみこんでいた。胸が痛い。動悸がおさまらない。どうしてこんな気持ちになるのか…本当は、もう考えなくても分かっている。


でもーー


「……好きになってはいけない」


 ぽつりと零れる。

 その瞬間。


「誰を?」


 すぐ後ろから声がした。


「ひゃっ!?」


 振り返るとクラウスがいた。リシェルの顔が一瞬で真っ赤になる。


「ク、クラウス様……!?」

「具合悪いのか?」


 心配そうな顔。近い、近すぎる。

 リシェルは視線を逸らした。


「……大丈夫です」

「嘘だな」


 クラウスは彼女の顔を覗き込む。


「さっきから様子がおかしい」

「っ……」


 原因はあなたです、とは言えない。

 するとクラウスは少し考え込みーーふっと眉を上げた。


「……もしかして、ミレイナのこと気にしてるのか?」

「っ!!」



 心臓が止まりそうになる。

 図星だった。


たくさんの作品の中から読んでいただきありがとうございます…!

初心者なので感想やご意見、アドバイスなどいただけると大変嬉しいです。よろしくお願いいたします。

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