表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第三章 少しずつ変わる日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/50

19.氷の副団長、ついに恋に落ちる

 王都、王国騎士団本部。


「最近、副団長が毎日侯爵家に通ってるって本当ですか?」


 書類をめくっていた青年騎士が、にやりと笑って言った。その言葉に、執務机へ向かっていたクラウスの手が止まる。思いっきりにらみつける。


「…誰から聞いた」

「団内で噂になってますよ」


 にやにやしているのは第一騎士団隊長、レオルド。クラウスとは長い付き合いの悪友だった。


「『氷の副団長、ついに恋に落ちる』って」

「殺すぞ」

「図星か⁈」


 クラウスは即答だった。周囲の騎士達が吹き出す。普段のクラウスなら、こういう話題は一蹴するはずだが今日は違った。否定しない。それどころか…



「……まあ、否定はしない」




 一瞬、執務室が静まり返った。



「………はっ⁈」

「副団長が認めた⁈

「明日槍でも降るのか……?」


 騎士達がざわつく。

 クラウスは鬱陶しそうに眉を寄せた。


「騒ぐな」

「いや騒ぎますって!」


 レオルドが机を叩く。


「お前、女に興味ない説まで流れてたんだぞ⁈」

「失礼だな」

「だって夜会でも誰も寄せ付けなかったじゃねぇか!」


 実際その通りで、クラウスは容姿も地位も優れている。当然、令嬢達からの人気は凄まじいが本人が完全に無関心だった。結果、『鉄壁の男』として有名になっていたのである。

     

「で?」


 レオルドが身を乗り出す。


「どんな令嬢なんだ?」


 クラウスは少しだけ視線を落とした。脳裏に浮かぶのは、紫水晶の瞳。嫌な目にあっても誰を恨む事もなく、皆を傷つけてしまう、といつも怯える優しい少女。笑うと、花が咲いたみたいに綺麗で…放っておけなくて。気づけば目で追っていた。思い出すだけでいつの間にか表情が緩む。


「……優しい奴だ」


 表情を緩めたままぽつりと零す。

 騎士達がさらにざわついた。


「うわ」

「本気だこれ」

「副団長がそんな顔するの初めて見た……」


 我にかえったクラウスが不機嫌そうに睨む。


「仕事しろ」

「いや無理無理!恋バナの方が重要だろ!!」

「黙れ」


 冷めた表情で思いっきり睨むがレオルドはどこ吹く風だ。完全に楽しんでいて、それを隠そうともしない。


「で? もう口説いたのか?」


 にやにやしながらさらに追求する。


「…………」

「お、その沈黙はすでに口説いてるな?」


 クラウスは少し考え込む。…自覚はないが、周囲から見るとかなり分かりやすいらしい。


「……普通に接してるだけだ」

「ははっ!絶対嘘だなこれ」


 全員一致だった。



     ◇



 その頃。

 北棟では、リシェルとセレナはこんな会話をしていた。


「…セレナは、前からクラウス様のことを知っていましたか?」

「有名ですからね。知らない人はいないんじゃないですか?」

「……クラウス様って、いつもあんな感じなんですか?」

「ん?」

「その、自然に……恥ずかしいことを言うというか……」


 わずかに赤い頬のリシェルに、セレナが吹き出す。


「あー、確かにちょっと特別かも」

「特別?」

「騎士団ではめちゃくちゃ怖い人ですよ?」


 リシェルが目を丸くする。


「え……?」

「副団長って『氷の騎士』とか『鉄壁の男』って呼ばれてますし」

「……あのクラウス様が?」


 氷…?

 

 全く想像出来ない。リシェルが知っているクラウスはいつも優しく穏やかで、真っ直ぐに自分の気持ちを伝えてくる。あまりにも直球で困ることも多いが、それはどう反応していいか分からないだけだ。いつも救ってくれて、リシェルの心ごと包み込んでくれるような、あたたかい存在。


 

 セレナはにやにやしながら言う。


「お姉様限定なんじゃないですか?」

「っ……!」


 リシェルの顔が真っ赤になる。


「ち、違います……!」

「違わないと思う」

「違います!」


 確かにクラウスはいつも甘い。それが、もし自分限定だとしたら…。


 クラウスの優しい眼差しを思い出しながらそれを意識すると、胸が苦しくなった。嬉しいはずなのに、妙に落ち着かない。


 この感情は何だろうーーー。




    ◇



 夕方。

 

 クラウスが北棟へ戻ると、リシェルが薬草園にいた。白いワンピース姿で花に水をやっている。

 夕陽に照らされる横顔が、息を呑むほど綺麗で、クラウスは思わず立ち止まる。


「……」


 胸が妙に熱い。会いたかった、と思った。たった半日離れていただけなのに。


 リシェルが彼に気づく。


「あ……お帰りなさい」


 嬉しそうに微笑まれた瞬間、心臓が跳ねた。

 そんな自分に驚く。重症だ…完全に。


「ただいま」


 自然と口元が緩む。

 リシェルは少し驚いたように目を瞬かせた。


「……クラウス様、なんだか嬉しそうですね」

「そうか?」

「はい、何かいい事があったのですか?」



 自分では気づいていないらしい。

 リシェルは小さく笑った。その笑顔を見た瞬間、クラウスははっきり自覚する。



 ーーああ、駄目だ。自分はもう…完全に惚れている。そして、その事実からは逃れられそうになかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ