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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第二章 閉ざされた真実

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16.むしろ望むところだ


「む、無理です!!」



 リシェルの悲鳴のような声が部屋へ響いた。


 グレイは眼鏡を押し上げながら淡々と言う。


「…ですが現状、最も安全なのは副団長が傍にいることです。万が一のことを考えても、あらよる意味でそれが最善の選択肢だと思われます。」

「いや、そ、それは分かりますけど……!でも…!」


 リシェルの顔は耳まで真っ赤だった。同じ棟で生活?毎日顔を合わせる?無理だ、心臓が持たない!クラウスはそんな彼女を見て、少しだけ口元を緩める。



「そんなに嫌か?」

「い、嫌とかではなく……!」

「なら問題ないな」

「あります!」



 クラウスが小さく笑う。その余裕そうな顔がさらに恥ずかしい。絶対わざとだ。なんなら楽しんでさえいる。

     

 グレイは咳払いした。



「副団長の魔力は、リシェル様と非常に相性が良いようです」



 クラウスが眉を寄せる。


「相性?」

「ええ」

 

 グレイは真面目な顔で続けた。


「普通、魔喰いは周囲の魔力を無差別に吸収します。しかし副団長の魔力だけは違う」

「……どう違うんだ」

「落ち着くのです」


 静かな言葉だった。


「リシェル様の暴走が止まったのも、それが理由でしょう」


 リシェルは驚いてクラウスを見る。確かに、彼に触れられると、不思議と安心した。熱が冷めるように魔力が落ち着く。


「非常に珍しい現象です」


 グレイは少し考え込むように言った。


「もしかすると、副団長の魔力特性が関係しているのかもしれません」

「俺の?」

「ええ。副団長は高純度の制御型魔力を持っていますから」


 クラウスは難しい顔をする。

 ……正直、魔術理論は専門外だ。


「つまり?」

「簡単に言えば。副団長はリシェル様の“安定剤”になっている可能性があります」


 リシェルが固まった。安定剤。そんな風に誰かと共存出来るなんて、考えたこともなかった。

     

「ですので」


 グレイはさらりと言う。


「出来るだけ傍にいてください」

「待ってください!」


 リシェルが慌てて立ち上がる。


「そ、それはクラウス様にご迷惑です!」

「別に迷惑じゃない」


 クラウスが即答する。


「え」

「むしろ望むところだ」


 リシェルの思考が止まる。



グレイは吹き出しそうになるのをなんとか咳払いで誤魔化した。望むところ…完全に口説いている…。だが当人達だけ気づいていない。


 笑をこらえて深呼吸をして言う。


「とにかく、これは旦那様の正式決定です」


 グレイは淡々と締めくくる。


「副団長のお部屋は北棟西側に用意します」

「用意が早いな……」

「皆かなり切羽詰まっていますので」


 王宮が動き始めた今、悠長なことは言っていられない。リシェルを一人にする危険性が高すぎる。



    ◇


     

 グレイが退室した後。室内には微妙な沈黙が落ちた。リシェルは俯いたまま。クラウスはそんな彼女を見ていた。



「……そんなに緊張しなくても」

「しますよ……」


 小さな声。


「だって、クラウス様ですよ……」

「俺がどうした」

「その、えっと……」


 上手く言葉に出来ない。格好いいとか、優しいとか、一緒にいるだけで落ち着かないとか…そんなこと言えるはずもない。


 クラウスは少しだけ首を傾げる。


「俺は君といると安心するが」


 さらりと言われ、リシェルが真っ赤になる。


「なっ……」

「だから傍にいたい」

「そ、そういうことを簡単に言わないでください……!」

「本音だ」


 さらっと言う。リシェルはもう限界だった。羞恥で頭が爆発しそうだ。クラウスはそんな彼女を見て、ようやく自分がかなり際どい発言をしていることに気づき始める。


 …まぁいいか。今さら引っ込める気もない。それに、こんなリシェルが見れるならーー、





     

 その夜。

 クラウスは北棟西側の客室へ荷物を運び込んでいた。窓の外には静かな庭園が広がる。ふと視線を向けると。向かいの窓からリシェルがこちらを見ていた。


「……」

「……」


 一瞬目が合う。

 リシェルはびくっとして慌ててカーテンを閉めた。クラウスは思わず吹き出す。


「……可愛いな」


 自覚した瞬間、胸の奥が妙に熱くなった。もう認めるしかない。自分は完全に、リシェルに惹かれている。


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