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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第二章 閉ざされた真実

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17/17

17.甘い時間の裏で忍び寄る影

 翌朝、北棟は朝から妙に慌ただしかった。


「こちらへ棚を!」「窓辺の補強を急げ!」「結界石の配置も変更だ!」


 使用人達が走り回っている。昨夜の暴走で壊れた箇所の修復作業だ。リシェルは廊下の隅で小さくなっていた。


「……本当に申し訳ありません」


 近くにいた職人が慌てて首を振る。


「と、とんでもございませんお嬢様!」

「ですが……」

「むしろお怪我がなくて安心しました!」


 満面の笑みだった。リシェルは呆然とする。怒られない、責められない…それが未だに信じられなかった。


     ◇


「お姉様ー!」


 ぱたぱたと駆け寄ってきたのはセレナだ。

 今日は朝から妙に元気だった。


「見てください!」


 そう言って差し出してきたのは数冊の本。


「王都の人気お菓子店特集です!」

「……え?」

「今度クラウス様とお出かけする時の参考に!」


 リシェルが固まった。


「お、お出かけ……?」

「絶対するでしょう?」


 何故断定?

 セレナはきらきらした目で続ける。


「恋人みたいな雰囲気ですし!」

「っ!?」


 リシェルの顔が一瞬で真っ赤になる。


「ち、違います!」

「違わないと思うぞ」


 後ろから低い声がした。振り返るとクラウスが立っている。リシェルは完全に硬直した。


「く、クラウス様……!」

「おはよう」


 自然に微笑まれ、さらに混乱する。最近のクラウスは妙に距離が近い。いや、以前から近かった気もするが。今はさらに遠慮がなくなっている。セレナはにやにやしながら二人を見比べた。



「お姉様、顔真っ赤」

「セレナ!」

「クラウス様もお姉様見て優しい顔してます」

「セレナ」


 今度はクラウスが低い声で呼ぶ。だが全然怖くない、むしろ少し楽しそうですらある。セレナはくすくす笑った。


「お似合いなのに」

「っ……!」


 リシェルはもう限界だった。


「わ、私は部屋に戻ります……!」


 逃げようとした瞬間。

 クラウスが自然にその手を取った。


「待て」


 リシェルの呼吸が止まる。


「朝食まだだろう」

「……え」

「一緒に食べよう」


 さらりと言われる。

 リシェルは固まった。

 一緒に。食事?家族以外と?しかもクラウスと?無理だ。緊張で死ぬ。



「む、無理です……」

「何故?」

「落ち着きません……!」

「俺は落ち着くが」

「私は落ち着きません!」


 即答だった。

 クラウスは少し考え込み――ふっと笑う。


「なら慣れてくれ」

「…………」


 この人、最近本当に容赦がない。

     

 結局、リシェルはクラウスと共に朝食を取ることになった。北棟の小さな食堂で向かい側へ座るクラウスに、リシェルは全く落ち着かない。



「……」

「……」

「食べないのか?」

「た、食べます……」



 手元がおぼつかない。クラウスはそんな彼女を見ながら、内心かなり楽しんでいた。反応がいちいち可愛い。からかうつもりはないのに、つい構いたくなる。


「リシェル」

「は、はい」

「今日は少し外を歩かないか」


 リシェルが目を瞬かせる。


「外……?」

「庭園だ。結界内なら問題ないだろう?」



 リシェルは戸惑った。北棟周辺以外を歩くことは滅多にない。使用人達の目もあるし、怖い…でも、クラウスと一緒なら。


「……行きたいです」


 小さな返事。

 クラウスは優しく目を細めた。


「よし」


 その笑顔を見た瞬間。

 リシェルの胸がまた騒がしくなる。


     ◇


 一方その頃、王宮魔術院ではルヴァインが薄暗い研究室で資料を眺めていた。


『魔喰い』『高純度特殊個体』『暴走観測記録』


 彼は静かに笑う。


「ようやく見つけましたよ…!」


 十八年前から探していた、王家が取り逃がした最高位特殊体質。その価値は計り知れない。


「アルヴェイン侯爵家……」


 厄介な相手だ。

 だが。


「ふふ…、壊せないとは限らない」


 彼は机の上の封書へ視線を落とす。そこには王家の紋章。




ーーー既に何かが動き始めていた。



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