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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第二章 閉ざされた真実

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13/18

13.やっと会えたのに


 アルヴェイン侯爵家は、深夜にもかかわらず騒然としていた。本館には次々と使用人や護衛が集まり、緊迫した空気が漂う。

 

 北棟では、リシェルが不安そうに両手を握り締めていた。


 打開策もなく、永遠にも感じられる長い沈黙。破ったのはリシェルだった。


「…………私、行きます」


 ぽつりと零した言葉。

 侯爵夫人が顔を上げる。


「何を言っているの…?」

「私が王宮へ行けば、皆に迷惑を掛けずに済みます」

「駄目よ!」


 即座に否定したのはセレナだった。

 彼女は姉の腕へしがみつく。


「絶対駄目!」

「でも……」

「でもじゃない!」


 セレナは泣きそうな顔で叫ぶ。


「やっと会えたのに!」


 リシェルが息を呑む。その言葉が胸へ刺さった。そうだ、やっと会えた。たった今、やっと、家族と向き合えたばかりなのに。でもーー、

     



 侯爵は重苦しい顔で窓の外を見ていた。遠くに松明の光が見える。王宮騎士団だ。思ったより早い。


「……来たか」


 低い声。

 侯爵夫人の顔が青ざめる。


「そんな……」


 クラウスは静かに前へ出た。


「俺が対応します」


 侯爵が振り返る。


「相手は王宮だぞ」

「だからです」


 クラウスの群青の瞳は真っ直ぐだった。


「俺は王国騎士団副団長です。少なくとも時間は稼げる」


 侯爵はしばらく彼を見つめていた。

 やがて深く息を吐く。


「……頼む」


     



 屋敷正門。王宮騎士団十数名と、魔術院のローブ姿が並んでいた。中央に立つ男が冷たい目を細める。王宮魔術院所属ルヴァイン、特殊魔力研究の第一人者。その名を聞くだけで貴族達が顔を曇らせる人物だった。


「夜分に失礼します、侯爵閣下」


 丁寧な口調。

 だが瞳は笑っていない。


「先ほど非常に強力な異常魔力を観測しました」


 侯爵は表情を崩さない。


「こちらでも確認中だ」

「ほう?」


 ルヴァインは口元だけ笑った。


「では北棟を調査させていただけますね?」


 空気が張り詰める。


「断る」


 侯爵が即答した。

 魔術師達の目が鋭くなる。


「何故です?」

「家族の私室だ」

「ですが国家安全保障案件の可能性があります」


 冷たい圧力。侯爵は奥歯を噛み締めた。そこへ低い声が割って入る。


「夜中に随分騒がしいな」

 

 クラウスだった。王宮騎士団の顔が強張る。この国の騎士で、彼を知らないものはいない。ルヴァインだけは目を細めた。


「……クラウス・ヴァルツェン卿」

「久しぶりだな」


 クラウスは侯爵の前へ立つ。


「アルヴェイン家へ何の用だ」

「異常魔力調査です」

「証拠は?」

「観測記録があります」

「それだけで侯爵家へ踏み込むつもりか?」


 鋭い声だった。王宮騎士達が僅かに動揺する。クラウスは王国でも屈指の実力者だ。正面から逆らえる相手ではない。

 ルヴァインは不快そうに眉を寄せた。


「副団長こそ、何故アルヴェイン家を庇うのです?」

「友人だからだ」


 さらりと言い切る。

 侯爵が少し驚いた顔をした。


「それに」


 クラウスは一歩前へ出る。


「根拠もなしに貴族の私邸を荒らす趣味はない」


 ルヴァインの表情が冷えた。


「……なるほど」


 彼は意味深に笑う。


「ではお聞きしますが、北棟には誰がいるのです?」


 侯爵夫妻の表情が強張る。

 クラウスだけは変わらない。


「病弱な令嬢だ」

「名前は?」

「リシェル・アルヴェイン」


 その瞬間。

 ルヴァインの瞳が細くなった。


「表に出ない幻の長女、ですか」


 知っているーー以前から疑われていたのだ。クラウスは直感する。こいつは最初からリシェルを狙っている。

     

「一応忠告しておきます」


 ルヴァインが静かに言った。


「もし危険存在を隠匿しているなら国家反逆罪ですよ」


 侯爵夫人が息を呑む。セレナはリシェルの手を強く握った。リシェルは青ざめている。クラウスは一歩も引かなかった。


「脅しか?」

「事実です」


 ルヴァインは笑みを浮かべる。


「“魔喰い”など特にね」


 その瞬間、場の空気が凍り付いた。侯爵の拳が震え侯爵夫人の顔から血の気が消える。リシェルの瞳が大きく揺れた。知られている。

 


ーーついに、長年隠し続けた秘密が、王宮へ。

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