少女が会いたかった人
12月8日17時現在、異世界転生/転移 日間2位!週間11位!(総合でも日間16位?!)
たくさんの方に読んでいただき、更にブクマや評価まで本当にありがとうございます!
あまりの予想外の事態に、あわあわしています。
でも、「まだ読みたい」という嬉しい感想もいただいたので、御礼に新話を上げることにしました。
このように、おだてられればすぐ調子に乗ります。厳しいご意見、ご感想ももちろん真摯に受け止めます…が、豆腐メンタルなので少しオブラートに包んだ表現になっていると嬉しいです……。
時節柄、このテーマで書きました。ご笑納ください。(文字数多めです)
年の瀬も迫り、窓の外には真っ白な雪がしんしんと降っている。
飽きることなくその景色を窓際で眺めているアレクサンドラに、そっと上掛けがかけられた。
「おじいさま」
「ずっと窓のそばにいると冷えるぞ。少し暖炉のそばで温まりなさい」
「ありがとうございます」
にっこりとした微笑みと共に返ったお礼の言葉に、ニコライの厳つい顔がでろ~んと溶けた。が、一瞬で元に戻る。“おじいさま”は、いついかなる時も威厳を忘れてはならない。
―――今日は、息子のセルゲイが王宮で行われているパーティーに妻のヴェロニカを伴って出席している。なので、一人の留守番は寂しかろうとニコライがヴォルコフ家を訪れていた(ちなみに、ミハイルの存在はすっかり頭から抜け落ちていた)。
夕食を一緒に食べ(ここでミハイルを思い出す)、先ほどまでアレクサンドラに請われるまま昔話をしていた(もちろん、ミハイルも同席)。若いとき、二ヶ月ほどだが他国へ留学した話だ。
目を輝かせ、楽しそうに相槌を打ってくれる孫娘に、普段は無口なニコライとしては有り得ないほど喋ってしまった。おかげで途中からむせてしまい、少し休憩しましょうというアレクサンドラの提案に、今は各自温かい飲み物を飲みながら静かにくつろいでいる最中である。
長い間、一人で過ごすのが当たり前になっていたが……こうやって、黙っていても一緒にくつろげる相手がいるのは、とても心地よいものだとこの年になって初めて知った。幸せだ。
「何を考えておった?」
雪を眺めるアレクサンドラの宝石のような瞳が、少し悲しそうに見えたので、ニコライは心配になって尋ねた。何か憂いがあるのなら、全力で取り除きたい。
すると孫娘は、ぽっと頬を染めた。
「サンタクロースさんのことを考えていました」
「さんたくろー…?」
「姉さん、誰そいつ?!」
聞き慣れない名前に、ニコライもミハイルも一瞬で血相を変える。
アレクサンドラは、ハッと二人を交互に見た。
「あ、あの、遠い国の話なんです。いい子にしていたら、年末にサンタクロースという白いおヒゲのおじいさんが、プレゼントを持ってきてくれるって。でも、あの、遠い国の話だから、サーシャのところには来ないだろうな……って。それに、サーシャはずっと悪い子だったから……」
「な、何を言う!サーシャはいい子だ!よし、わしがさんたくろーとやらに掛け合って来よう!」
「ムリです、おじいさま。サンタクロースさんの国は遠い遠いところですもの」
瞳を伏せてふるふると頭を振るアレクサンドラ。ニコライは内心、激しく“さんたくろー”に悪態をついた。たとえどれだけ遠かろうと、アレクサンドラのためなら来んかーい!と。
夜遅くにパーティーから帰宅したセルゲイは、仰天した。
庭に、赤い服を着たあやしい男がいたからである。
一人だったら、即、護衛騎士に斬らせるのだが……男の周囲には、何故か数人のヴォルコフ家の家令とミハイルっぽい姿がある。男と一緒に窓を見上げては何やら頭を寄せ合って相談しているのだ。
(何をしているんだ?)
とりあえず寒いので、不安そうなヴェロニカに「私に任せて中に入りなさい」と告げて屋敷に届け、剣を引っ提げて赤い男の元へ向かった。
「……ンドラ様の部屋は……足場がなく、危ないかと……」
「ここはやはり中から……」
「そこで何をしている?」
鋭く誰何の声を掛けると、ぼそぼそと小声で話していた男達は一斉にこちらを振り返った。
「セルゲイ!」
「……父上?」
赤い服を着て、あごまで届く白い付けヒゲをつけているのは……父親のニコライだ。
思わぬ姿に、ぽかーんとする。
「……大丈夫ですか、父上」
まさか、ボケ始めたか。
そんな息子の思いが通じたのだろう。ニコライは憮然と呟いた。
「サーシャのために、わしはさんたくろーにならねばならんのだ」
「は?」
「セルゲイ。お前も協力しろ。【トナカイ】とやらになるんだ」
「……はぁ?!」
アレクサンドラの話によると、とある国では1年間いい子でいると“さんたくろー”なる赤い服の老人がプレゼントを持ってきてくれるのだと言う。酔狂な老人もいるものである。他人の子供が1年間いい子でいるかどうか、どうやって見ているのか問い質したいところだ。
そして“さんたくろー”は、【トナカイ】という赤い鼻に角のある生き物に乗っていて、煙突からやってくるらしい。
「煙突から入るのは危険でしょう」
「うむ。だから、窓の外から入ろうかと考えていたのだが……」
「止めてください、父上。滑って落ちたら大惨事だ」
「……仕方ないな。普通に扉から入るか」
残念そうにニコライは溜息をついた。
ニコライの無謀を止めてホッとしたセルゲイは、その次に義理の息子に目を移した。
赤く塗った鼻。頭にはくるっと巻いた羊の大きな角。
「……それが【トナカイ】なのか?」
「たぶん……」
自信なさげにミハイルが答える。
セルゲイは眉根を寄せながら、唸った。
「サーシャが楽しみにしているんだな?」
「はい。今夜、きっと“さんたくろー”が来るよと言ったら、ぴょんぴょん飛び跳ねていましたから」
なんだそれは。
娘が可愛く飛び跳ねる姿など……自分も見たかった!
色々と逡巡していたセルゲイだが、すぐに決意した。
「よし。では、私も【トナカイ】をやろう」
小さな寝息が聞こえる。
男三人は、無言で顔を見合わせ、頷いた。
そっと足音を忍ばせ、室内に入る。
アレクサンドラへのプレゼントは、一抱えもある大きなウサギのぬいぐるみだ。新年にプレゼントしようと密かにニコライが用意して持って来ていた。思わぬ出番となったが、(持ってきて良かった!)とニコライは内心、胸を撫で下ろしていた。新年のプレゼントは、また、新たに用意すればいい。
抜き足、差し足。
三人はそろりそろりと少女が眠るベッドへ近寄る。
音を立てぬよう、ウサギのぬいぐるみを少女の隣に置く。
すると、アレクサンドラがぱっちりと目を開けた。
「!!」
「サンタクロースさん!」
恐らく寝たフリをしていたのだろう、少女はすぐに起き上がり、目を輝かせた。
「こんな遠い国にも、きてくれたんですね!奈々のときも、毎年、ありがとうございました!わたし、ずっとお礼がいいたかったんです。サンタさんも おうえんしてくれるから 辛い ちりょうも がんばろうって」
暗闇の中でも分かるほどキラキラした瞳で、サンタクロース(ニコライ)の手を握る。
「む……もご……」
「あの……あの、サンタさんにお礼を用意したかったんですが、急だったので……これだけなんですけど……」
少女は照れ照れしながら、ベッドの中からマフラーを取り出す。
「お空の上は、さむいでしょう?すこしでも あたたかくなりますように」
「もご!」
「トナカイさんは……えーと、トナカイさんですよね?二本足で立てるんですね。角も、かわった形……?あの、トナカイさんにもマフラーを……たくさん用意しておいてよかった~」
「…………」
室内が暗いからだろうか。アレクサンドラは三人の正体に全く気づかない。
サンタクロースとトナカイ(?)達に順番にマフラーを巻き、ふわっと笑った。
「もうちょっとしたら、サーシャは成人なんですって。おとなになる前に、サンタさんにあえて よかったです。これからも お仕事がんばってくださいね」
ベッドの上に正座し、深々と頭を下げる。
「むぐ!もごご!」
サンタクロースはぎくしゃくと右手を上げ、二匹の下僕を引き連れてそそくさとアレクサンドラの部屋を出ていった。
「……心臓が止まるかと思ったわい」
「ていうか、姉さん、なぜ気づかないの……」
「気づかなくていい!こんな父親の姿を見られてたまるか!」
無事にミッションを終えた三人は、メイド達に労われながら仮装を解いた。
ちゃんとアレクサンドラが寝ていた場合、仮装の意味は全く無かったことに気づいていない。
「まあでも、サーシャは喜んでいたな」
「かわいかった……」
「このマフラー、大事にせねばならん」
男達は満足感いっぱいの顔で見合わせた。
「「「来年は、もっとしっかり準備をしよう!」」」
※ ヴェロニカは礼装を解いて仮装するのに時間がかかるため、未参加となりました。
「わ、わたくしも参加したかったわ……!」
そして、サンタクロースがプレゼントを届けるのは“子供”だけと知り、大ショックを受ける男達……。(この世界の成人は16才。次のクリスマス前には成人になります)
実はあまりニコライじーちゃんは好きじゃなかったんですが、この話を書いて、ちょっと可愛くなりました。
書けば書くほど明らかになる事実。
この話、たくさん書いちゃうとアレクサンドラの周りの人達、どんどんお馬鹿になっていく……!