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フェアリーリング・フェアリーテイル - 術界伝綺 -  作者: Cigale
ニューヨーク第六行政区編
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Report 33 サンダーバードと首無し騎士(4)

 ここは校務棟のアデラインの研究室。

 アデラインは、机の上に置いていたスマートフォンが振動したことに気づいた。見ると、タニアからのメッセージだった。


 ――白装束にさらわれた ケンジたち危ない


 ガタンッ。

 アデラインは驚愕して立ち上がる。


『白装束……、永久の集!!』


 彼女はすぐに部屋を出て、隣の部屋のハンセンの研究室に向かった。


『クイントン! タニアが、永久の集にさらわれたわ!』


 だがハンセンは慌てず、『わかってる』と平静に努めて言った。


『アッパー・ライト・サターンズの表通りで、白いワゴン二台による呪文乱射の現場写真や動画が、Wizperで出回りまくっている。そこにタニアやオウメたちの姿があった』


 だが平静なのは態度だけであり、たちまち声をすごめてこう言い放った。


『見ていろ、反社会的カルト宗教術師結社め……。協会ニューヨーク支部に連絡! インストゥルメンタルの出動だ!!』




   ★


 賢治は右後方ウインドウから覗き込み、驚愕の形相でエイヴォンを見つめる。

 だが、これまで何度も身近な人間が、敵勢力側の内通者だった経験から、努めて平静を取り戻そうとする。


『会堂に着く前に顔を見られてしまったか……、止むを得まい』

『エイヴォン先生……。あなたが指示を出している、この白装束たちは何者なんです! 何故オレたちを狙――』


 賢治が誰何していると、イソマツが『顔引っ込めて!!』と怒鳴った。


『――! くそっ!』


 賢治は顔を引っ込める。途端に、イソマツが急発進した。


『質問は、こちらに余裕があるときだけ。そうじゃないときの選択肢は、逃げるか戦うかの二択だよ!』


 ところが、であった。

 エイヴォンの右手に握られた光る剣が、いくつもの光る刃が数珠つなぎで連結したような形に変形した。

 右側の前輪と後輪をバッサリを斬り裂いた。


『――』


 イソマツのとっさの操作で、横転等することなく停車させた。

 しかし、白装束の部隊に取り囲まれてしまう。


『さあ……。一緒に来てもらおうか』

『待って!』


 エイヴォンに賢治が言った。


『オレたちだけをつれていけ! 撃たれた諒子さんは病院に搬送しろ! それが条件だ!』


 賢治がそう言うと、諒子は息絶え絶えに応答した。


『いけ……ません、坊ちゃ……ま』

『わかった。彼女の治療は保障しよう。――ローラ! ステファニー! 匿名で救急ダイヤルに通報するんだ』


 ドアが開けられる。


『オウメくん、イナバさん。他の二人も、彼女たちの後ろに乗って。もし途中で暴れたら、その場で昏倒させる。いいね?』


 賢治はしかたなく、エイヴォンの言う通りに従った。

 麻袋を被せられ、口のところで猿ぐつわをするように縛り付けられる。さらにパイロットの胴に手を回させられてから、手錠をかけられた。

 飛行箒が動き出した。会堂とやらに、つれていかれるのだ。




   ★


『ここに入っていろ』


 賢治たちは暗闇のなか、白装束に指示されたままなかに入った。

 ここで麻袋を外される。周囲を見ると、全てが白で包まれた空間だった。それはまるで、精神病院の閉鎖病棟のようであった。

 そして錠が閉まる音がした。監禁されたのだ。


『ゲンセ! みんな!』


 悲鳴が上がった方を見ると、タニアがいた。


『タニア……よかったケガとかしていないか?』

『うん。大丈夫だよ賢治』


 周囲を見渡す。天井の高さは四メートルほど。内開きの扉には、高さ十五センチ幅四十センチほどの鍵付きの食事受けがあるのみ。天井に通気口はあるが、四方三十センチといったところで、到底脱出できそうにはない。


『ねえ……。門の『保有者』(ゲートホルダー)ってなんなの?』


 不意にタニアに訊かれ、賢治は言葉に迷う。


『あ、ゴメン。誰だって訊かれたくないことがあるよね』

『……ごめん』


 賢治は頭を下げる。そして、こんな状況に追い込んだ白装束の連中に怒りの矛先が向いた。


「ちくしょう……。こいつら一体何者なんだ!」


 するとイソマツが「『永久の集 E∴A∴』だよ」と応えた。


「永久の集……?」

「国際的な反社会的宗教術師結社、汎人界でいうところのいわゆる破壊的カルトに当たる術師結社さ。お布施を信者から回収するシステムや外部への霊感商法、信者の教育に伴う強力なマインド・コントロールなどなどが問題視されるようになり、日本では陰陽保安局からマークされている。ちょうど僕らが日本を発った日に、東京の支部が壊滅したって報道があったっけ。ちなみに本部は、円島自治区にあるよ」


 賢治が「本当か!?」と驚く。


「うん。隠水の森の向こうにある金長村(きんちょうむら)には行くなって言われているでしょ? そこには昔っから、日本国内でも特に大きい施設があって、村が二分するほどの紛争になっている」


 すると現世が「でも、そのカルトが何故『門』である現世たちを狙ってくるのだ?」と首を捻る。


「わからない。永久の集は連合はもちろん、同盟からも独立した勢力だからね」

「なあ、今は敵の素性とかいいよ。とりあえず、ここから脱出する方法を考えよう」


 そう割って入ったのは、桐野だった。


「……現世。昨日、召喚できるようになった精霊の中にいたよな。『怪盗伯爵』ってのが」

「おう! ラウムなのだな! 早速、召喚するぞ!」


 賢治と現世は展開する。

 新しく召喚できるようになった精霊は、以下の通りである。


 「4. サミジナ」「17. ボティス(伯爵) 」「29. アスタロト」「38. ハルファス」「39. マルファス」「40. ラウム」「43. サブナック」「44. シャックス」「47. ウヴァル」

 

「《怪盗伯爵ラウム――召喚!》」


 賢治の足許に、ひし形とそれを囲む四つの六芒星。六芒星を閉じ込める正円の周りをさらに四つの五芒星で取り囲む、独特の形をした円陣が浮かぶ。そしてその前には、三角の中に円が描かれた、もう一つの円陣が浮かび上がった。そこから煙が立ち上がり、目深にフードを被った黒装束の痩せぎすな男が出現した。


 【40. 怪盗伯爵ラウム Count of Gentleman thief, Räum】

  戦闘力 A(攻撃 A 体力 A- 射程 C 防御 E 機動 B 警戒 S)

  霊力 D 力場安定度 D 教養 B 技術 A+ 崇高 D 美 D 忠誠心 B 使役難易度 III


「よぉー、ご主人様。ここから出られりゃいいのかい?」


 甲高い声でそう言うラウムに賢治は、「ああ、頼む」と言った。


「合点承知!」


 するとラウムは、袖口から何の変哲もない針金を取り出した。


「〔開紐(オープン・ワイヤー)〕。こー見えても、立派な魔道具でさぁ」


 針金を扉の鍵穴に近づけると、自動的にぐにゃぐにゃと曲がりだした。吸い寄せられるように鍵穴に入ってゆき、ガチャガチャと音を立てる。

 するとイソマツが、扉の左右に分かれるようにハンドサインを出す。


「扉の向こうに見張りがいたら、開錠の音を怪しんでいきなり杖を突きつけてくるかも」


 左手にノブがついた扉の、左側の壁にイソマツと桐野が、右側に賢治と現世およびタニアが張り付くように着いた。

 ガチャン! 開錠された。

 まだ開けない。1、2、3……。

 ノブが回って、扉が開く。桐野とイソマツが、隙間に向かってすかさず、《スタン・フラッシュ》と火球を打ち込む。


『ぐわっ!』


 ドタン、と人が倒れる音がした。


『あ、開けられた! 保有者たちが逃げるぞ!! ――ぎゃっ!』


 もう一人の白装束も、桐野が《スタン・フラッシュ》で昏倒させた。

 

「GO!!」


 イソマツがそう指示を出すと同時に、賢治たちは一斉に扉から出て走り出した。

 

『いたぞ! あそこだ!!』


 角の向こうから、白装束の集団がわらわらと出てくる。

 

「《ヴォキート・デーポルト Vokito deporto》!」


 ピンク色の光線が何条も飛んでくる。

 

「な、何だ!?」


 そのうちの一つがラウムに命中する。


「うひゃあ! ご主人すまねえ……」


 ラウムの足下に円陣が出現する。そして煙となって強制帰還してしまった。


「サ、《サモン・ディポーテーション》か! アイツら、何語で唱えているんだ!? スペイン語か!?」


 するとイソマツが「No()」と言った。


「僕じゃわからない。それよりも重要なのは、その呪文が英語だと何と照応するかだ」

「わかんない言語に、数の暴力……ウザいな」


 白装束たちは「《スヴェーノ・ブリリロ》!」と唱える。

 迸る白い閃光。これは意味が分からなくても、霊力場の感じでわかる。《スタンフラッシュ》だ。


「《プロテクティブ・シールド:フォトンキネシス》」


 桐野が唱える。

 しかし、であった。


「《コントラゥ・ソルチュカント Kontraŭ sorĉukanto》!」


 誰かがそう唱えると、青い閃光が出て桐野の《プロテクティブ・シールド》に命中する。霊力場が収束していく。


「! 打消呪文(カウンタースペル)か!!」


 タニアが「《アブラカダブラ》!」と唱える。勁路負担率25。

 だが、また誰かが「《コントラゥ・ソルチュカント》!」と唱える。それがタニアの《アブラカダブラ》に向かう。


「ぐうっ!」


 桐野が腕を重ねたクロスガードで、《スヴェーノ・ブリリロ》を受ける。


「堺!」

「少し痺れただけだよ……! ――イソマツ!」

「¡Vale(バーレ)!(了解!)」


 桐野は呪文を唱えず敵の集団に突撃した。それを援護するようにイソマツが火球を乱射する。

 フローレンスから貰ったメリケンサック・ナックルガード付きの杖で、杖を向けてくる白装束をボコボコにしていく。特に、打消呪文や力場を収束させようとする呪文を唱えてくる相手を優先的に無力化していく。


「ぜえぜえ……くそったれ、キリがねえ!!」


 何人昏倒させても、次から次へと白装束は現れる。さすがの桐野も、息があがってきた。

 

「退いて! 交代だ!」


 今度はイソマツが出て、火球を連射する。


「¡Heyheyhey(エイエイエイ)heyhey(エイエイ)|――〔ホナタンズ・モンターニャ・ルサ Jonathans Montaña Rusa〕!」


 火球が数珠つなぎとなって、縦横無尽に室内を舞う。術解呪文や《プロテクティブ・シールド》を唱える余裕もなく、爆炎が彼女らを襲う。


「¡Guay(グァイ)! 敵が退いたぞ! Go, Go, Go!!」


 イソマツが全体に前へ進むよう呼びかける。


「くっ――隊長(カピターノ)! コティペルト隊長!」


 白装束の一人が後方で構える短髪の少女、コティペルトに呼びかける。

 彼女は杖を賢治たちに向ける。そして――

 バチ、バチバチッ――三つの白い閃光が迸った。《スヴェーノ・ブリリロ》を三連発、短縮詠唱したのだ。


「¡Ay(アイ)!」


 閃光がかすめたイソマツの右腕が、だらりと下がる。


「イソマツ!」


 ピピッ。

 賢治のマールボスの真眼鏡が、コティペルトの術師闘級を自動計算する。


  戦闘力 A(攻撃 A 体力 A 射程 A- 防御 A 機動 A- 警戒 A+)

  霊力 A 力場安定性 A 教養 B 技術 A 魅力 C 統率力 A+


  総合評価 A級術師


「気を付けて、今までのヤツとは違う! ――賢治くん、現世ちゃん! 僕らが時間を稼ぐから召喚を!」


 現世が「わかったのだ!」と応答する。

 

「現時点で一番戦闘力の高い精霊……アスタロトを召喚だ!!」

「うむ!」


 賢治が杖を前に掲げて、「《堕天公爵アスタロト――召喚!》」と詠唱する。


 足許に、ひし形とそれを囲む四つの六芒星。六芒星を閉じ込める正円の周りをさらに四つの五芒星で取り囲む、独特の形をした円陣が浮かぶ。そしてその前には、三角の中に円が描かれた、もう一つの円陣が浮かび上がった。その周囲に暗雲が漂い始めたが、どこからともなく光が差し込んだ。

 まばゆい光の中に、黄金に輝く長い髪をたなびかせて白い翼を生やした、長身の美しい女性が現れた。紫色をしたレオタードのような衣装を着て、右手にはハルバート、左手には大盾を装備している。両腕にはオペラグローブのような長手袋、両脚は膝まであるロングブーツといった出で立ちだった。


 【29. 堕天公爵アスタロト Duke of fallen angel, Ashtaroth】

  戦闘力 A+(攻撃 A+ 体力 A 射程 A+ 防御 A- 機動 A+ 警戒 S1)

  霊力 S1 力場安定性 S1 教養 A+ 技術 A 崇高 S1 美 S2 忠誠心 C 使役難易度 II


「貴様が主人か。用命は?」


 厳かな口調でアスタロトが問う。

 その威厳に、賢治は少したじろぎながらも命令を下す。


「あ、アイツらを無力化してくれ。ただし、絶対に殺すな」


 そう言うとアスタロトは「承知した」と言って――目にも止まらぬ速さで敵陣に突っ込んだ。


「――」


 息を呑む賢治。

 白装束の少女たちが為すすべもなく、次々とうめき声をあげて倒れていく。かろうじて見えるのは、石突の部分で適格に首筋や鳩尾を叩いているところだ。

 そしてついに、コティペルトに鈍い銀色のハルベルトが迫る。

 コティペルトの杖先にピンク色の光線――《スヴェーノ・ブリリロ》の短縮詠唱だ。


「《アブラカダブラ》!」


 桐野が挿し込み、コティペルトの《スヴェーノ・ブリリロ》を打ち消す。勁路負担率75。

 ガツン! ハルベルトの矛の平の部分で、コティペルトの左脇腹が打たれた。床を転がり、二、三回咳き込んで悶絶する。


「おい! アスタロト!」

「案ずるな。あのぐらいで人間は死なん」


 賢治はアスタロトの扱いづらさを感じた。「忠誠心 C」「使役難易度 II」は伊達ではないということだ。強力な仲間だが、信頼関係を築くには苦労しそうだと思った。


『ぐっ……』


 コティペルトがうめいた。賢治たちに緊張が走る。


『……行け。……だが、お前ら程度では、到底司祭には適わない……』


 それだけ言って、また倒れ込んだ。


「一旦クリアだ。気にせず進もう」


 イソマツがそう言った。彼の先導で、一行は廊下を右に曲がると、大きな扉があった。

 開くとそこは、礼拝堂のような大きな部屋だった。

 どうやら祭壇側の扉のうちの一つのようで、かたわらには祭壇があった。地球の上に母親が赤ん坊を抱いた彫刻が鎮座している。その正面の通路に――エイヴォンが光る巨大な両手剣を手にして立っていた。


『ようこそ、礼拝堂へ……』

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