魔法の条件 2
使い方によって多様性が生まれるのは、魔法に限った事ではない。だが、ロドニアスの説明を聞いていて、一つの疑問が浮かび上がった。
「セフィリア姫なら、ディナエルを呼び出せたんじゃないのか?」
「呼び出した瞬間、姫が殺されなければ」
ロドニアスは、軽く肩をすくめるようにして答えた。
「いや、今のディナエルじゃなく、行方不明になった直後に、召喚して呼び戻せば良かったんじゃないのか? と。会った事もない相手が呼び出せるのなら、居場所が分からない程度なら障害にならんだろう」
どうやって相手を見つけ、連れて来るのか分からなかったが、この世界の外から呼び出せるのだ。それが不可能だったとは思えない。
「その時は、使えない理由があったか……あったとしても、大神官の妹なら無理をしてでも呼び戻そうとするはず、そうしなかった理由があるという事ですか」
「あれほどの怪物を扱える者なら、どちらの陣営に付いているかで戦局が大きく変わるからな」
立場や身分以上に彼女の有用性を考えても探し出さない理由はない筈だった。ロドニアスも少し考え込んでいたが、自分の出した答えに納得がいったように話し出した。
「使えなかった、のでしょうね。むしろ使えるようになったのは、つい最近だと考える方が辻褄が合いますね。魔王軍に侵攻されて街を包囲された後ですから、我々が召喚されたのも」
その答えに納得しつつも、小さなため息をつき、別の可能性があったかもしれないと言う思いがしぼんでいくのを残念に思えた。魔法と言っても、都合よく好きな時に使えるものではないのだろう。しかし、ロドニアスの導き出した答えはその先があった。
「……ですが、それは、セフィリア姫にかぎっての事。姫の前に召喚魔法を使えた者がいるはずです」
「召喚の魔法は、王家の者しか使えないのでは?」
思わせぶりな言い方に、真っすぐ疑問を口にしたが、その答えをすぐに思い当たった。いや、分かってはいたが、あえて考えから外していた。
「ええ、ですから……」
「……王妃か?」
これまで会った事どころか、話にその名が出た事もない。この国の王妃は何処へ行ったのだと思わないでもなかったが、魔物との戦いの間に亡くなったのは想像がつく。あえてその禁忌に触れる事はしなかった。父親である国王が亡くなった直後に、セフィリア姫からその話を聞き出すのは酷だったし、他の者から聞くには、失礼に当たる気がしたからだ。
「魔王軍の侵攻が始まる直前に亡くなったと言われていますが、刺客によって真っ先に王妃が殺されたとも考えられます」
「なるほど……? 王妃に会った事がないのか?」
確かにセフィリア姫が召喚した連中が居なければ、守るのは住民から集められた兵士だけ、街は簡単に陥落しているだろう。逆に、王妃を暗殺されて勇者を呼べなかったため簡単に王都を包囲するまで攻め込まれたとも考えられる。
「ええ、まぁ。しかし、王妃の亡くなった原因が何であれ、ディナエルが行方不明になった時期には健在だった。探し出す事も出来たでしょうね」
「うむ……、だが、王妃が召喚魔法を使えたと言うのも推測の域を出ないのだろう?」
「そうですね。ですが、大きく外れてはいないでしょう。使えなければ、逆に、その話を知っている者がいるはずです。王家の者が王家たりうる魔法を使えない、そう言う噂は広まりやすいですからね」
「探せたが、探さない理由があったとするなら……」
「魔王軍の侵略以前なら戦力としての価値は必要ない。むしろ、王家を脅かす勢力として見ていたのかもしれないですね」
「それもあるな……、それなら、もっと積極的に事件にかかわった可能性が。ディナエルが姿を消した原因は王家にあるとも考えられるが……」
「不慮の事故で行方不明になったのではなく、王家の者の手から逃れるため身を隠したのが真相なら協力者がいるのでしょうね」
「協力者?……ラミュエルが協力していたと?」
それを考えていないわけでもなかった。その頃から協力関係であったのなら、これまでの出来事の全てを知っていた事になる。もしそうであれば、彼女と交わした会話が全て嘘になる。そう思いたくはなかったが、それを完全に否定する事も出来なかった。いくら見た目がそっくりだからと言って、何の準備もなしに正面から教会に入り、堂々と立ち振る舞えるものではない。事前に内部から手引きする者が必要だ。その方法を彼女たちが企てている姿を考えていると、ロドニアスが思わぬ言葉を出した。
「王宮に入り込んでいた魔物。姿を消せるからと言ってあの大きさの魔物が簡単に王の間まで入り込めるはずがないのですよ」
「王の暗殺を企てたと言うのか?」
驚いて彼をにらんだが、自分が思ったほど驚いていなかった事に驚いた。言われるまでもなく、誰かが手引きしたのは間違いないと考えていたが、それを特定しようとは、考えていなかった。魔物を退治しても、それは凶器でしかないと言うのに。
「セフィリア姫を一人にしているのは、危険では?」
当然湧いて出てくる疑問だったが、それだけに張り詰めていく緊張の高鳴りに胸を締め付けられた。




