水晶の柱の遺跡 2
「そうはさせません!」
少女の声。ディナエルの声だ。
探していた相手が、自ら目の前に現れるとは。
広場の中心に近い石柱の上に立っているようだが、その姿は水晶の柱から発する光で空中に浮いているように見える。
印を結ぶように両手を合わせると、彼女の周りで短い笏がくるくると回り始めた。
「クイス導師、下がっててください」
ロドニアスが一歩前に出ようとすると、広場の両脇から床に敷き詰められた敷石が盛り上がった。見る見る山のように。
それは、無造作に盛り上がった訳ではない。はっきりと目的を持った形へと変貌していく。
四角い頭を乗せたブロックを組み合わせたような体から、捩じり合わせたように組み上げられた腕が伸びる。
人の形を模して積み上げられた石像――ゴーレムだ。
指が曲げ伸ばしするたびに擦れ合い、ごりごりと角がかけたような音がするが、その破片が隙間に吸い込まれるように体の一部を構成する部品へと戻っている。それが特性と言う事か。
「多少砕いても、再生するぞ」
声に出した時には、ロドニアスは宙へ飛んでいた。ゴーレムには目もくれず、真っ直ぐに、水晶の柱の側にいるディナエル目がけて。
だが、その動きを予測していたのか。
左右のゴーレムは、瞬時に腕を伸ばし、空中のロドニアスに襲い掛かる。
人間を楽に握りつぶせるほどの大きさの石の手のひらだったが、ロドニアスに触れる瞬間、空中でバラバラに砕けた。
遅れて。大剣が空を斬る音が聞こえた。
切り裂いた破片がさらに細かい破片を撒き散らし視界をふせぐ前に、空中に足場でもあるかのようにロドニアスは加速し、ディナエルに殺到した。
細かい音を立てて石畳の上に破片が落ち、舞い上がった砂埃を風が吹き飛ばすと、石柱の上で右手に抜き身の大剣を握ったまま、左手でディナエルの襟首をつかんでいた。
倍ほども背丈が違うため、頭が胸元へ来るように持っていても完全に吊り下げられた格好になっている。ロドニアスの腕に両手を添えてしがみ付いているのが精一杯の抵抗か。
しかし、これはディナエルと安全に話をする良い機会だ。もしかすると、考えもしなかった情報を聞き出せるかもしれない。
「ロドニアス、そのままこっちへ連れて来てくれ」
油断していたのか。
敵の首魁の一人を捕らえる、またとない好機が訪れた事に油断していた。
本来の目的を忘れていたのだ。
その脅威を軽んじていた。
一瞬にして天を衝く巨大な陰に覆われたように、地面に敷き詰められた石に穴を穿ち真っ黒な触手が無数に突き出し、背後からロドニアスの胸を貫いた。
そこへ殺到する触手が鋭くとがった牙で獲物を咀嚼する怪物の咢のようにかみ合った。
「やったぞ! ついに勇者を仕留めたぞ!」
雄たけびは冒険者キートの声だった。
だが、それは、地面からそそり立つ真っ黒なイソギンチャクの化け物の姿をしていた。




