魔法薬 2
入り組んだ坂の上にある工房の扉を何度か叩いたが、静まり返ったまま人の気配もない。まるで誰かが出てくる気配はなかった。
「留守って事はないよな?」
「そうですね、蹴破ってみますか」
「ちょっと待て」
扉に足を掛けようとするロドニアスを止めようとした瞬間、内側でがらがらと音がした。堅い者がぶつかり合うような音が段々と近づいて、扉の錠が外られた。
「ああ、すいません」
扉が開いて、やっと出てきたマカカイア・ジェストの弟子が赤くなった目を擦りながら頭を下げた。
「先生は、こちらです……」
部屋の中は、いつもに増して足元の荷物が増えた気がするが、その間を歩く足取りもふらついている。彼も徹夜続きだったのだろう。
壊れやすそうな容器が雑に並べられた机の横を抜け、前に訪れた奥の書斎に入ると机に向かっている背中が見えた。マカカイア・ジェストは机の上に突っ伏して、本に頭を挟んで眠っていた。
「どうやったら、こんな寝相になるのですかね? 頭を挟んでいると本の中身を覚えられたりするのですかね?」
「窓から差し込む光が眩しかったのだろう。遮るものを探す手間も惜しんだのだろう」
徹夜の後、自分でも思いもしなかったものを頭の上に乗せて寝た居た事はたまにあった。
ロドニアスに枕にしている本を足される前に、マカカイア・ジェストは軽くうなって本の間から頭を引き抜き、首を軽く振って目を閉じたまま部屋の中を見回した。
普段から表情の豊かな顔ではなかったが、そうしているとますます作り物の仮面でも着けているかのように見える。
「クイス導師……。来ていただけましたか、薬は出来ましたよ。後は、それを地下へ流し込むだけですが……」
大きなあくびをして指をさしたのは、両手で抱えても腕が回り切らない程の大きな瓶だった。その瓶に半分ほど液体が入っている。
部屋の中でははっきりと分からないが透明の水のような液体だった。匂いもない。
「ご苦労だったな。……毒、なのか?」
そう聞きながらも、巨大な地下迷宮にいる巨大な怪物にこの程度の量の毒が役に立つとは思えなかった。もし、そこまで強力な毒であるなら、街の地下に撒いて人々の暮らしに影響は出ないのだろうか。
「毒と言えば毒かもしれませんね……。使う場所は、水晶の柱からが良いでしょうね……。方法は、うん、私が行きますよ」
眠気を追い払うのに目頭を押さえていたが、椅子の上で伸びをしてから立ち上がると、普段通りのすっきりとした顔立ちになった。




