尋問 1
街の北に位置するエプ・ディディア神殿は最も古く権威のある教会だったが、神官の代わりに武骨な鎧を着込んだ兵士たちが門の前に並んで封鎖していた。
建物の中も兵士たちが我が物顔で歩き回り、花瓶の中までひっくり返して調べていた。
重要な役職についていた神官たちはもちろん、偶然居合わせただけの信者らしき者たちも部屋に閉じ込められ、兵士に見張られている。多くは取り調べが終わると家に帰されたが、神殿を占拠されたことに憤慨して暴れ出す者などは自由にする訳にもいかず、より厳重に閉じ込められていたのだった。
取り調べを手伝っていたが大した話も聞けなかった。
魔王に関する情報どころか、井戸の中で怪物を飼っていた事さえ知っている者は殆んどいなかったからだ。
「次の者を通せ」
兵士に合図を送ると次に連れてこられたのは若い娘だった。大勢の兵士に怯えていたのか部屋に入るなり床に膝をついて頭を垂れた。
「導師様、お助けいただき、ありがとうございます」
悪態をつく信者が多かったため驚いたが見覚えがある。生贄にされかかっていた娘だった。
まるで信仰の対象を入れ替えたような瞳を向けられて、妙ないたたまれない感情に苛まれたが、なるだけ平常心を装って椅子を進めた。
「そこにかけて……何と言うのかな? あの井戸で飼われていた怪物が何か知っていたのか?」
「イリウと申します。私も魂の井戸の部屋に入ったのは初めてでした。これまでは魂の穢れを払うために連れてこられた罪人の世話をしていたのです」
「罪人? どういう素性の者だ?」
尋ねながらも思い当たる節はある。もちろん正規の手順で罪を問われた者たちではない。となると、ラスカーニュ商会に集められた者が、この教会にも連れてこられていたのかもしれない。
「年は若い者が多かったのは確かですが、口を利いてはならないとの言いつけでしたので、どこの者でどのような罪を犯したのか知らされておりません」
「それで、どうして生贄にされそうになっていた?」
「神官様が、罪人と長くいたため、私も浄化せねばならぬと。魂の井戸の部屋へ連れていかれて、初めて、アル・バ・アランチェの生贄になるのだと告げられたのです」
商会を潰したため連れてこられる若者が途絶え、生贄に不自由するようになり、そして、世話係や信者まで怪物の餌にし始めたのか。
知らぬうちに、この娘が命の危険にさらされた原因の一端を担っていたと言えるのだろうな。そう思うと、同情的にならざるを得なかった。
「そうか。あれを、アル・バ・アランチェを見たのは初めてだったか」
その名前だけ書きとめると娘を下がらせた。何度も頭を下げながら部屋を出ていくが興味は別の方向へ向いていた。
やはり神官たちから聞き出さねばならないようだ。
簡単に口を割る相手でもない。
どのような秘術を使うかも分からない相手だからこそ、尋問を勇者・ロドニアスと大神官・ラミュエルに任せたのだったが……。




