魂の井戸 2
四角い穴の底で白い触手が日の当たらぬ場所を探すミミズのようにのたくっていた。
それがすべて同じ小さな穴から這い出ているのも生物的な不快を感じさせた。
無言でそれを見下ろしていたかと思うと、天井から垂れ下がっていた縄を掴んで飛び降りた。床に足をつく一瞬で剣を振り、全ての触手に切っ先で浅く切り傷をつける。
突然の刺激に、バラバラの方向へ伸びていた触手が一斉に鎌首をもたげた。
統一された意思で動く揃った動きだ。
攻撃してきた相手を捕らえるため傷をつけた相手が着地した方向に先端を向ける。
だが、それは生物に備わっている原始的な反射でしかなかった。
もし触手に知能があれば、攻撃者が無数の触手全てに、同時に、同じ深さの傷をつけた事に気づけただろう。
纏まって襲い掛かればどうなるかも。
一斉に襲い掛かった触手は、ロドニアスの手前で急停止した。
天井の滑車から垂れ下がった縄でまとめて縛り上げられて、毛糸の束のように天井から吊るされたからだ。
縄から脱出しようともがく前に反対側の縄を持つロドニアスに天井近くまで引き上げられ、伸びきったところを一振りで斬り取られた。白い肉の束は、トカゲのしっぽのように暴れる事もなく、重力に引かれるまま、だらりと垂れ下がった。
「こんなもんで十分でしょう」
ロドニアスは軽い足取りで手すりを跳び越えて戻ってくる。飄然とした物言いは、すっかり普段通りの、好意的なようで腹の底の読めない彼に戻っていた。
「かなりの長さではあるが、触手だけ斬っても生え変わるんじゃないのか?」
「クイス導師は、この魔物をご存じなのですか?」
「いや、よく似た生物を知っているだけだが……」
もちろん大きさは全然違うし、確かめる気にもならないが、たぶん触れた感触も違うのだろう。
「なるほど。クイス導師のおっしゃる通り、この大きさの魔物であれば、多少の傷は再生するでしょう。ですが、この触手をジェストに見せれば、駆除する魔術を組み上げてくれます。地下に潜んでいる本体も残さずにね」
強大な怪物退治も床下に湧いた虫を駆除するのと変わらないような話し方だった。




