遺跡の地下
強い光は石段に反射して地下へと伸びて行ったが、底は深く照らし出す事は出来なかった。ちらちらと光を反射している壁は骨組みのようで合間に闇を挟んで余計に全体の構造を把握しにくくなっている。
「広いな……」
声が反響した。それは思った以上に地下深くに広がっていく。真っすぐ底に降りるだけでもかなりの時間が掛かりそうだが、これまでの道順に自信が持てないため後日改めてと言う訳にもいかなかった。
「踏み外すと危険ですよ。底は水ですが……」
「底が見えるのか?」
「いえ、音の反響で大体の構造なら分ります」
石の階段は均等に並んでいない。時折、飛び石のように間が抜けていた。跨げる程度の幅だったため、踏み外すとどこまで落ちるか分からない緊張感も直ぐに薄れていた。
「街の他の場所も、地下にこれだけの空洞があるのか?」
「入り口があればですがね。殆んどは人の入れない幅の水路にしか繋がっていませんが、さらに下に潜る入り口を見るけられれば古代都市遺跡に入れますよ」
――古代都市?
地下に都市があるのか?
「ここも、そうなのか?」
「入り口の一つって事でしょうね。下にある古代都市の遺跡の方が街より広いって話ですし」
思っていたよりもはるかに広大だ。それだけの広さがあるのなら、城壁を守ったところで仕方ないんじゃないのか?
「魔物が侵入する通り道になっていないのか?」
「地下都市を?……」
少し考えたような間があった。
「街を包囲している魔物は、北から侵攻してきた魔物ですから古代都市には入れないと思いますよ」
「結界、のような物でもあるのか?」
「先住者が居ますからね」
「魔物が住んでいるのか? 街の下に?」
思わず足を止めた。このまま下に降りれば、おびただしい数の闇の中をうごめく魔物と戦闘になるのかと。
「魔物と言うか……。かつて人だった者、遥か昔この土地に住んで居た者のなれの果てです。つまり、我々の先住者ですよ」
「黄泉の国でもあると言うのか?」
冗談めいた問いを投げかけたが、妙に的を射ているような気がする。足元に広がる静寂、闇の中に吸い込まれて行く石段は、地の底の死者の国を連想させるに十分だった。
「黄泉の国? 肉体を失った者も、別の物質へと変化している者もいますが生きていますよ。人間とは呼べませんけどね」
「ディナエルは地下へ降り、そいつら――先住者の仲間になったのか?」
「どうですかね。それなら魔王軍の魔物たちとつるんでいるのは、おかしい……」
珍しく考え込んでいる。ロドニアスにとってもディナエルの行動は異質らしい。地下に住む者たちがどのような姿をしているのか興味がわいた。気を取り直し石段を下り始めると、いくつかの独立して立っている柱に文字が刻まれているのが見えた。
目印だろうか。近寄って調べたかったが、そこへ繋がる石段はなく、遠くから光の反射の違いでわずかに浮かび上がる文字に目を凝らすしかない。共通した形が使われていないか注意を向けていると、気づかぬうちに石段の終わる底が見える所まで来ていた。
何かが居るのかと、気を引き締めて注意深く当たりを見回した。拍子抜けするほど何の気配もなかったが、床は平らではなく石のキューブが積み重なったように、おうとつを作っている。地上の水晶の柱の遺跡を思わせる構造だった。
「何かいるか?」
「近くには、何も」
ロドニアスに確かめたが答えは同じだった。下まで降りると床に積み重なった石段に視界を遮られるため、手近なピラミッド状になっている石段の山に登った。
不揃いな段差は思ったよりも上るのに手間がかかり、頂上までは十メートルほどもなかったが息が切れた。
ゆっくり息を吐きながら石の小山の頂上から周囲を眺めると、同じような山をいくつも作りながら波打った床が続いている。端まで行くには骨が折れそうだ。
ここを調べても労力の割に合いそうもない。引き帰そうかと地上のある上に視線を向けたが、天井は光の届かぬ闇の中で一塊の石柱群が夜空に伸びる高層ビルのように光に照らし出されていた。
「降りて来たのも労力に合わないな」
ため息交じりに呟いて石の山を下ろうとすると、足の下の石がゴロゴロと振動を伝え、それを周囲の数本に伝播させながら地面の中へ引っ込んでいく。
石の山を作っていたパーツが次々と地面に吸い込まれるように穴をあけ始めたかと思うと、その穴から水が噴き出した。




