水晶の柱
ロドニアスを連れて水晶の柱の調査に向かったが城からはかなりの距離があり到着したのは日も高くなってからだった。
軽く揺れて馬車が止まり石畳の通りに降りたが、近くに目的の遺跡は見当たらず、代わりに鉄柵が通りを塞いでいた。
「迷うと危険なので、この先は封鎖しているんですよ」
ロドニアスが柵に手をかざすと、光の輪がくるくる回って錠が外れる。ひとりでに開く柵に気も留めずに奥へ歩き出す。
後について十分ほど歩いた先に石畳の広場があり中心に水晶の柱が立っていた。無数の水晶が照明灯の様に周囲を照らしている。柱の上にひときわ大きな水晶の結晶体が乗っており、それが日の光を吸収して、柱の側面についている水晶を内側から輝かせているようであった。
「ほう、こいつは凄いな」
思わず感嘆のため息が漏れるほど、美しい柱だった。
「それより前に進むと、落ちますよ」
その言葉に足元に視線を向けると、焦点がずれたような錯覚に軽いめまいを感じた。
直ぐに、それが目の前の敷石がすっぽりと抜けて大きな穴が開いてるからだと分かった。そこから視線を辿ると、目の前の石畳の広場が起伏に富んだ立体的な構造になっていると気づくが、中央の水晶の柱に目をやると、発せられる強い光で地面は平らな石畳に戻った。
その仕組みは、同じ色だと思われた石畳が中央の柱の光に合わせて塗り分けられており、影となる部分が明るい色だったり、暗い色の部分に光が当たって中間色を作ったりしているし、同じ面、同じ色でも、光をよく反射する部分とあまり反射しない部分が並んでいれば、折れ曲がった二つの面であるかのように見えるのだ。
石材の色、光を反射する表面の違い、そして、時間と共に強さを変える水晶の柱からの光で、半径十数メートの広場の中に動く生きた迷路を作っているのだった。
「あの柱まで、簡単に行ける方法はないのか?」
「……あそこまで跳んでみても良いですが、上手く距離を合わせられるかどうか分かりませんね。着地する足場があるかどうかも分かりませんし、一人ならともかく、導師を抱えて跳ぶのは止めた方が良いと思いますよ」
「そうだな、まぁ歩いた方が無難だろうな」
階段として作られている訳ではないのだろうが段の高い階段として使える場所から迷路へ降り、頭が地面より下に来る辺りまで降りると、急に周囲の風景が一変した。足元は妙に暗く、さらに下へ続く穴が空いているようで、壁は天を衝くほど高く感じる。差し込む光の角度のせいだろうが方向さえ失ってしまう迷路と言うのも頷けた。
「どうしたものかな……」
僅かな距離だが簡単に辿り着けそうになかった。迷路という物は片側の壁に沿って進めば出口に辿り着けるが、ここでは広場の別の方向の出口へ出されるだけだろう。それに壁に沿って進もうとすれば、足元の穴にはまり込むだけに思える。ロドニアスに頼めば、壁に穴をあけてでも通路を作ってくれるかもしれないが、遺跡を調べる手がかりが無くなってしまえば元も子もない。
時間を掛けてでも慎重に進むこ事にした。
日が中天を過ぎ傾き始めると、迷路はさらに表情を変え始めた。
休みなく歩き続けていたが、少しも水晶の柱に近づいた気がしない。同じ所を回っていると言うのは簡単だが、別の場所をまっすぐ伸びる階段を延々に降りているような気分だった。周囲の壁も高くなったようにも見えるが、変わっていないのかもしれない。
疲労から大きく息を吐いて、壁の上を見上げると、天窓から覗くような小さく切り取られた空が急激に日が傾き始めていると告げ、迷路が地下に埋もれていくように影が広がり始めた。
「灯りをつけますか?」
「ああ、頼む」
何気なく答えたが、ロドニアスが灯りを灯すと周囲の壁の位置が変わった。錯覚だと分かっていても、どちらに進むべきか頭の中を整理し直さなければならない。
「思った以上に、厄介だな」
「上に出ませんか?」
狭苦しい迷路に飽き飽きしたような言い方だった。それも考えなくもなかったが、まだ何も見つけられてない。これだけの仕掛けを作っているのなら何かの意味があるはずだった。
もう少し先に進もうと壁に手を触れると、石壁の表面が妙に滑らかになっていた。磨き上げられた大理石のように。
それだけでも十分不思議だったが、石の表面を滑った指先が浅い溝に引っかかった。文字だ。石の表面に文字が刻まれていた。
知らぬ文字だったが指でなぞって形を覚え込むと、その文字列は、さらに下へと続いていた。つい先ほどまで歩いていたはずの地面よりもさらに下に。
「地上へ戻ろうと思った矢先に、地下への階段が見つかるとは、何の皮肉だ」
「偶然って、訳じゃなさそうですね」
そう言いつつ、ロドニアスの手のひらの上の灯りが光を強め地下へ通じる階段を照らした。




