街道の罠 2
黒くのっぺりした人影。見知ったそれは変身したキートの姿だった。
「中身が違います。それに、ほら」
黒い影は一つではない。揺れていた黒い霞が集まると、あと二つ、三体分の人影になった。
「あれも誰かが変身した姿なのか?」
「誰か……、何かが、でしょうね」
中に入っている者について考えを巡らす前に、それが言葉を発した。
「荷物を下ろせ」
合成した音声のような発音だった。中身を隠そうとしている、そんな印象を受けた。それが軽い思い付きを生み、御者たちが荷馬車から樽を下ろしている間に、ロドニアスにそっと耳打ちした。
「あれを捕まえられるか?」
「一匹で良いですか?」
「ああ」
「それでは、残りは私が」
返事をしたのは、マカカイア・ジェストだった。彼の方を向いて頷こうとした瞬間、ロドニアスが一番手前にいる黒ずくめの生物の両足を斬り飛ばした。それの上げた奇妙な悲鳴に驚く間もなく、少し離れた場所にいた残り二人が雑巾のように捩じられた。
「これをどうしましょう?」
足を斬られ仰向けに倒れた魔物を片足で押さえ、黒いヘルメットのような頭を剣の腹で叩く。それは簡単にひびが入り卵の殻のように剥がれると、中には大きな嘴を持つ一つ目の魔物の頭が入っていた。もう少し人間らしいものを期待していただけに、どうすべきか迷った挙句に、適当な言葉が口から出た。
「まるで、卵だな」
「そうですね。これは魔石ではなく、良くできた卵ですね」
マカカイア・ジェストの答えにいささか戸惑ったが、彼は気にせず話を続けた。
「これを体に埋め込めば、一時的に強靭な力を得られますが、それは殻の内側で肉体を維持するために分泌されている物質のためです。それを長時間、繰り返し吸収する事で中毒状態となり、やがては解除できなくなるのです。そうなれば、内側の肉体は消化され殻の本来の持ち主の栄養分になるのでしょう」
「それでは、こいつらも寄生されているだけだったのか?」
「そうでしょうね。より多くの生物にばらまけば新しい石が貰える等の仕組みで、相手かまわず広めていたのでしょう」
「他の生物は全て苗床か……」
「無駄足でしたね。寄生するだけなら魔力の調整や、生物ごとの拒絶反応なんかも気にする必要もない……」
魔道兵器の研究に役立つ知識がないとマカカイア・ジェストは落胆していた。悪気はないとは分かっていても街を守る使命を忘れているのではないかと心配になる。
「いや、この魔物が、これ以上、卵を撒き散らさないようにしなければ……」
魔物を片付けてしまったのは、早計だったかもしれない。
「しかし、紅い石を生む魔物がどんなものか分からないか」
「それなら、こいつで誘き出せばよいんじゃないですか?」
ロドニアスが下ろした樽を足で蹴った。
「これを焼けば、匂いに釣られて出てきますよ。取引した物を受け取るのは、どう考えても大元ですからね」
「なるほど」
と思ったが、樽の中身を考えると、とてもやりたい仕事ではなかった。しかし、他に良い案もなく、彼らがするに任せる事にした。




