街道の罠 1
半壊したラスカーニュ商会の建物からロミルたち冒険者が書類や証拠を掘り出し調査してくれたおかげで取引方法が判明した。後は取引相手を見つけるために、行商人のふりをして隊列を組み取引場所へ向かう事になった。
荷馬車を三台に六人の護衛の基本構成の隊列で、商人には見えないロドニアスと護衛に紛れ、御者は冒険者ギルドから雇い入れた。樽を積んだ荷馬車の荷物見張りとしてマカカイア・ジェストが新兵器と共に乗り込んでいる。台車ではなく回転盤の上に乗せられた新兵器は荷台の上からどの方向にも攻撃できるようになっているが、外見は他の荷物に違和感なく溶け込んでいた。むしろ気になったのは他の荷物の方だ。
「ラスカーニュ商会が用意していた商品まで持ってくる必要はなかったんじゃないか?」
死体入りの樽である。囮の隊列なのだから、取引するための商品を運ぶ必要などない筈だ。
「何を運んでいるか、遠くからでも分かる魔物がいるかもしれません。それに、どうせ街の外に運んで燃やしてしまうだけですから」
彼らには埋葬と言う文化はなかった。土の下は魔物の棲み処、空の上も水の中も魔物の棲み処。当然そのまま埋めるなど餌をやるようなもので、灰も残さず焼き尽くすのが彼らの弔いの仕方だった。そのためか、死体に対する敬意の払い方に違和感を感じる。
「確実に相手を見つけるためか」
「相手からしてみれば、誰が持ってきても同じですからね。それに商品を押さえていれば、他の連中が出し抜かれる事もありません」
「キートや他にも魔王軍と取引きしている者がいる可能性もあるのか」
魔物との取引も考える住民の意識の違いも気にはなったが、魔王軍の統一性の無さのも疑問を抱いていた。人間と取引できるような魔物と、巨大な怪物が同じ仲間として戦えるのだろうか。むしろ人間とよりも魔王軍内で争いが起こらない方がおかしい。
「まぁ、取引になっているのかどうか、ですけどね」
ロドニアスの含みのある言葉も少し引っかかった。
東門を抜けて、しばらくは牧草地か田園地帯のような風景が広がっていたが、前方に視界を遮る緑色の壁が広がっている。森を抜けると南へ下る街道と緩やかな流れの川が海辺のベリルの町まで続いていたが、魔物との取引場所は、その手前の森の中らしい。
「そろそろ、森に入りますから周囲に気を付けてください」
魔王軍に包囲されているのが嘘のように思える穏やかな景色だったが、木々の間の小道に入ると空気が一変した。急激に気温が下がったように皮膚がひりひりと痛む。日が遮られただけではないだろう。
「これは?……」
「魔物の領域の中に入りましたね。どうやら取引相手を誘い込む仕掛けがあったようですね」
商品に反応して、引き込まれたのだろうか。
「近くに魔物がいるのか?」
「まぁ、近くに居ると言えます」
とは言ったが、それからかなりの時間、真っ直ぐだが荒れた道を進んだ。特に何の変化もない木々の間を進んでいると同じ所を永遠に彷徨って居るような気になったが、そもそも距離が正しいとは思えない。地図で確認した森の広さからだと、そろそろ外へ出て川沿いの街が見えてくる頃だろう。先に何か見えないかと目を凝らしていると、突然、木々が途切れ、森の中の空き地に出た。
「取引場所……。料理場所でしょうかね」
ロドニアスが周囲を見て言い直した。雑草で隠れては居るが地面に黒く焦げた跡が残っている。これまでに運ばれた樽を焼いたと言う事か。
「相手も来たようです」
周囲を見回しても魔物の姿は見えなかった。だがどこかにいる筈だと目を凝らすと、視点の合っていない空中に影のようなものが揺れていた。黒い霧のように湧き立ったそれは人間のような形をかたどった。
「あれは……、キート?」




