疑惑 2
冒険者ギルドの商館は何の変わりもない様だったが、ギルド長の部屋にはフマサーサの代わりにロミルが一人でいくつもの契約書の類を机に並べて格闘していた。
「次のギルド長はお前か?」
ロドニアスはそう言いながら開け放たれた扉を拳でコツコツと叩いた。ノックのつもりらしい。
「はい。いえ、仮の処置ですが……。冒険者の主だった者たちが急に姿を消してしまったので、他に代わりも居なく、私が引き受ける事になったのです」
「姿を消したのが、何人も?」
チーナが姿を消して面食らったことは察しが付くが、複数の冒険者とはどういう事だ? 他にも仲間が居て一緒に逃げ出したのだろうか。しかし、ロミルの話は別な理由を告げた。
「予定通り戻らない隊はよくありますが、気になるのは五日前戻る予定だった行商隊がまだ戻っていないのと、出発予定の行商隊が予定時刻になっても集合場所に現れなかったりしているのです。先に準備や打ち合わせに向かった者もいる筈なのですが……」
行商人の護衛など冒険者としての活動、その延長上での失踪。それで、これまでの契約書を順番に引っ張り出しているのか。ここも人手不足で、こちらの探し物を手伝ってもらう余裕はなさそうだ。
「所在が分からない行商隊に共通点はないのか?」
ロドニアスが机から並べられた契約書を手に取り、パラパラとめくり始める。
「多くの行商人を集めて行商隊を作るため、直接契約を交わした商会は別々なので確かとは言えないのですが、こちらに並べた商会はラスカーニュ商会と取引があるところなのです。情報を共有できるなら先に出た行商隊に合流する事も可能ですし、出発日時が違っても同じ行商隊になる事もありますし……」
契約書の数と向きを変えておかれた契約書の数から、他にも細かく分類してから共通点を探していたのだろう。それなら、こちらの探し物にも使えるかもしれない。そう考えた矢先ロドニアスがいくつかの契約書の順番を入れ替ええ始めた。
「これと、これ、これも。戻ってきてない者の中で、若く経験が少ない者。……探しているのは同じものじゃないですかね」
「それでは、ラスカーニュ商会が秘密裏に人を集め、物資を集めていると言うのか?」
「その可能性は高いですね。ラスカーニュの契約書はどこだ? 直接雇われた護衛がいれば、どこに何を運んだかも推測できるんだが」
契約書をロドニアスが動かすたびに、ロミルが元の場所へ並べ直す。
「大きな商会は護衛も自前ですので、詳しい情報は分からないのです」
「利益が出るだけの大規模な隊を組めば、自前の護衛だけでは足りないだろう?」
「その場合は、街の外で他の隊と合流しているのです」
「……やはり、忍び込んで調べる方が手っ取り早いな」
「どうも秘密があるのを前提で話を進めているような気もするが……」
「マカカイア・ジェストの極秘の研究も、行商人たちの行方不明も疑惑でしかありませんが、どこからか街へ入り込んだ魔王軍の手先は居ましたからね。そうなると、どことどこが繋がっているか調べておいた方が良いでしょう?」
「……そうだな」
「私もご一緒させてください。ギルドを預かる身として、知っておかなければなりません」
無断で立ち入る事を善悪の秤にかけない相手を何と言って諫めて良いか分からず、結局はロドニアスに押し切られるように承諾し、その上、ロミルまで連れてラスカーニュ商会の商館へ忍び込む事になってしまった。




