魔道兵器
聖堂の瓦礫の跡をいくら掘り返しても、ディナエルやチーナの居た痕跡は何一つ見つからなかった。しかし、街の中に魔王軍の幹部が入り込んでいた事実は、街の防衛計画の見直しを迫る結果になった。
以前から、より強力な魔道兵器の開発に取り組んでいたマカカイア・ジェストが新兵器の導入とそれに伴う開発費や人員の増加を求めて来たのである。
その是非を問うために、新兵器のお披露目のため城壁へと主だったメンバーが集められた。
「これが、魔力共振増幅装置で……、反射と収束によって、より高次元の魔力にへと変換し…………。それでは、これらの理論を実証してご覧に入れます」
マカカイア・ジェストの科学だか魔法だかよく分からない説明が延々続いていたが、やっと、デモンストレーションが見れるようだ。簡単にまとめると、魔力を増幅して打ち出す大砲のような物らしい。従来の戦闘方法では、魔物一匹を追い払うのに数人から数十人の兵士が必要だが、新兵器を使えば一人で何匹もの魔物を倒す事が出来るらしい。それだけ高性能でありながら国王が開発を許可しなかったのは、魔力を使えるものなら誰でも使えると言う問題があったからだ。それが人でなくても……。
目の前に運び出された新兵器は樽に釘を打ち付けたような不格好な砲身が枠組みの台車の上に乗ったような形だった。樽の片側に棒のようなハンドルと反対側に小さな銃口が空いている。樽から無数に突き出た鉄の棒は何らかの調整ネジで、それの締り加減をしきりに気にして何度も締めたり緩めたりしていたが、マカカイア・ジェストが深呼吸してハンドルを握ると、周りの風景が震えた気がした。
聞こえるか聞こえないかの甲高い音が鳴ったような気がすると、突然、耳を押さえなければならないほど不快な金属同士をすり合わせる音が鳴り響く。その轟音と言ったら、街の外の森から鳥が飛んで逃げだすほどだ。
不快さに誰かが叫び声を上げた瞬間、青白い光が放たれた。光は銃口の大きさから言っても数センチ程だったが、その周囲十メートル余りを生木が炭になって崩れ落ちるほどの高熱で焼き払った。後には、どこまで続いてるのか分からない黒い穴が森に残されていた。
「凄い威力、だが……」
驚嘆に言葉が続かない。正直ここまでの物とは思っていなかった。見た目からして中世の大砲のような物だろうと思っていたのだ。
「そうですね。耳がおかしくなるかと思いましたよ」
つまらなそうに答えたのはロドニアスだ。
「俺も音で追い払うもんかと思ったぜ。おいときゃ、警報代わりにはなるかもしれんな」
城壁の守備を取り仕切っているゼイガスも新兵器に大した興味を持っていないようだった。彼らにとって、砲撃の威力は驚嘆に値するものではないのだろうか。
「多少の扱い辛さも、城壁の防衛だけと割り切れば、使えるんじゃないのか?」
「飛び道具の欠点は、跳ね返されるって事ですよ。いつどんな攻撃が来るか分かれば、どれだけ威力のある攻撃でも跳ね返すのは簡単なんですよ」
「その程度の事、既に改良案は出来上がっております。願い出た通り、魔道工房に人員の増員を認めてくだされば、直ぐにでも新しい兵器をご覧に入れましょう」
「いくつも、似たようなガラクタを作られてもな」
「なんじゃと! いずれは個人の力など、話にならんほどの兵器が作り出せる。その時になってもまだガラクタと言えるかな」
ロドニアスたちの言い争いを止めるため、セフィリア姫が皆の前に進み出た。
「お待ちなさい。事は慎重に検討しなければなりません。城に戻り、改めて話を進めましょう」
城に帰って話し合っても答えが出る訳ではない。それはマカカイア・ジェストの要求を拒否する返事でもあった。それが分かっているからこそ、誰もそれ以上話をしようとはしなかった。バラバラに解散する皆に合わせて城壁を後にしようとすると、セフィリア姫の視線がこちらに向けられているのに気づいた。




