大神官の謎
大神官・ラミュエルと二人で教会に向かうと、咎められる事もなく簡単に中へ入れた。大神官と言う立場もあったのだろうが、すれ違う街の人たちが黙って頭を下げて見送ってくれる。どうやら彼女の人望は、勇者の肩書を持つロドニアスとは違うらしい。
教会の内部は、表から見たよりも広かった。建物の天井も奥へ行くほど高くなっているため、外からは低く小さな建物だが、中に入ると何処までも続く高い天井に自分が小人にでもなった錯覚にとらわれる。
「これは……、凄いな」
思わず感嘆の言葉を漏らしたが、厳かな静寂に包まれている建物の中に響いてしまうのではないかと慌てて口を閉ざした。
入り口のホールのような広い場所を真っすぐに進むと中庭に出た。十時に通路が走り、真ん中に井戸、通路の周囲には、大きな果物のなっている木が植えられている。中庭を取り囲む建物は、庭を迂回する通路と小さな部屋に分けられているらしく庭に向いた扉が並んでいた。
「遠方から来られた方々のための宿泊所になっているのです」
周囲を気にしているのを気づかれたのか、前を歩くラミュエルが振り返らずに呟いた。さらに奥に進んで中庭が突き当たる建物の扉を開けると、豪華な内装の部屋に出た。
「導師・クイス。ここでお待ちください。神官長を呼んで参ります」
ラミュエルが奥の扉から出て行くのを見送ると、柔らかそうなソファーに腰を掛ける。体が沈み込み過ぎたためか、高価な年代物に見えるテーブルのせいか、一人で座っていても落ち着かない。かと言って歩き回るのも気が引ける部屋だった。行き場のない視線を窓の外へやると、植え込みのから伸びた手が、手招きしている。よく見ようと窓に近寄ってみると、知った顔が出てきた。
「ロドニアス、何している?」
「しっ。見つかりますよ、……こっちへ来てください」
声を潜めて周囲を見回しながらもう一度植木の中へ潜り込む。どうやら、大神官と行き違ったロドニアスは、こっそり教会へ潜り込んだらしい。大神官と一緒なら問題ないだろうが、先に他の神官に見つかってもめる前に何とかしなければ。
「ロドニアスどこだ? 大神官の許可は取った、今から神官長・エバムに会うぞ」
植木に近づいて、小声で話しかける。
「こっちですよ」
声のする植木の奥を覗き込むと、地面からロドニアスの手が生えていた。驚いたが、よく見れば植木の下の雑草にカモフラージュされた地下への入り口だった。四角い井戸のような見た目で、石の間に横木を填め込んだ梯子がついている。
「こんな所から入って来たのか?」
「早く、見つかりますよ!」
隠れる必要はないと思うが、話を聞かないロドニアスを追いかけて梯子を降りるとひんやりした湿った空気が流れてくる。
「地下通路になっているのか」
「はい、ここから奥の聖堂まで行きましょう」
「ちょっと待て、今、大神官に神官長を呼びに行ってもらっているんだが……。勝手に入らなくても、待っていれば向こうからきてくれる」
「大神官がいる筈ありませんって、まだ城で寝てましたから」
「何言ってるんだ、城壁からここまで一緒に来たんだぞ。教会に入れているのも大神官のおかげだ」
「城に着いたら窓に大神官の姿が見えたので、声をかける代わりにクイス導師に貰ったヴィムの種を飛ばしたら鼻字を出して倒れたんですよ。その後、女官が担いで部屋に運んでいたので、いくらなんでもそんなに早く回復しないでしょう」
「何をやったんだ……」
軽い笑い話のように話をしているが、今ごろ城では、大神官が狙撃されてと大騒ぎになっているかもしれない。
しかし、それでは、さっきまで一緒に居たのは誰なんだ?
疑問を口にした瞬間、ロドニアスが教会中をひっくり返して大神官を捕まえかねない気がした。それならば、事の真実がはっきりするまでは、こっそり動くべきなのだろう。
「しかたない。無為に武器を出すなよ」
「分かりましたよ。クイス導師、これを持っててくれませんか」
ロドニアスが投げてよこしたのは、手のひらに乗せていた周囲を淡く照らす光の玉だった。慌てて受け取ったが、それは壊れ物でもボールのような物でもなく、手のひらから少し浮いた場所で重さもなく浮いている。光源が近くなっても、特に眩しいとは思わない光だが何が光っているのかはよく見えない。それが魔法というものかと感心していると、ロドニアスが床を蹴って走り出していた。
声をかける前に、一瞬で先に見える角まで移動し左手に跳んだ。遅れまいと灯りを持って追いかけたが、角に到達する前に押しつぶしたような悲鳴が上がった。
「ロドニアス、何処だ」
彼が戦闘を始めたと言う事だけは分かった。相手を確認できたわけではないが、教会の関係者であるのは予想がつく。戦闘を止めるため迷路のような通路を走ると、思ったより早く息が上がった。不慣れな地下通路だからだと疑問を飲み込んで、壁に手をついてでも先に進もうとしたがそこに穴が開いていた。




