地下道の暗殺者
見た目に反してなかなか乗り心地は良かった。前足と後ろ脚のバランスの悪さも速度がついた時に体勢を崩さなくて済む。歩いて向かった時より、ずいぶん楽に城壁についた。
強引に連れて行こうとする兵士に、勇者を待っていると文句の一つも言えなかったのは、彼が一緒に乗らず手綱をもって地面を走っていたからだ。先導する優雅な姿ではなく、四足動物はかなり加減して走っていたのだろうが、兵士は全速力で走っても少し遅れそうになるくらいの速度だった。とても話しかけられる状態ではなかったのだ。
到着すると息を荒げている彼の代わりに別の兵士に案内されて地下へと降りた。
地下には複数の兵士が灯りを持って待機していたが、ロドニアスと二人で入った時より薄暗く見通しがきかない。足元の水路は墨を流したかのように黒い。
「足元に気を付けてください」
先導する兵士の声が緊張で微かにうわずっている。地下道と言う独特な雰囲気にのまれそうな気分になったが、落ち着いて周囲を見ても兵士たちの他に何かが潜んでいると言う事はない。
「ラゴリュートは、何に襲われたんだ?」
「それが、分からないんです。突然悲鳴を上げてあおむけに倒れられたと思うと、既に……」
水路をまたいで飛び石を進んでいくと、床の上に倒れている派手な鎧が見えた。鎧の隙間、首の裏辺りから少量の血が床に零れていたが、よく見なければ分からない程度だった。
顔を覗き込むと喉あてとあごの隙間に薄い金属のプレートが刺さっている。ギルド長を殺したのと同じ、オロード・バリシュの短剣だった。しかし、それ以上、死体からどんな手掛かりを得られるのか分からなかった。ロドニアスが居れば何か見つけられるのかもしれないが。
「お前たちで、ラゴリュート隊長の遺体を上へ運べ」
「導師・クイス。貴方も来られてましたか」
兵士に命じて立ち上がった時に、背後から聞こえた声は大神官・ラミュエルだった。水とを跳び越えるのに苦労しながらこちらに向かってきていた。
「大神官、ここには一人で?」
「はい、相次いで、有力者が暗殺されたとの報告を受けまして」
「ええ、おそらく犯人も同じ。ギルド長のフマサーサも、ラゴリュートと同じ凶器・オロード・バリシュの短剣が使われていましたから」
「この狭い足場では、姿を消していても近づくのは難しいでしょう。投擲してとしても、出口は階段ひとつ身を隠す場所もありません……」
「周囲には、兵士たちも居たと言いますし」
「この地下道で、ラゴリュートたちは何を探していたのですか?」
「えっ、それは、街へ通じる隠し通路がないかと」
急に話題を変えられ思わず正直に答えた事が正しい判断だったのか迷ったが、大神官に嘘をつく必要もない。どうせ彼女にも隠し通路があるか聞くつもりだったのだ。
「私の知る限りではこの辺りにはなかったはずです。城壁と繋がるような重要な通路は、念入りに調べ上げられてますので、見つかっていない物はないと思います……ですが、人ではなく、その短剣が通る隙間なら、無数に」
そう言われて壁を伝って流れる水の入り口を思い出した。シュレッダーの出口のような薄い石の隙間。指も入らない隙間だが短剣の薄さなら難なく通る。
「しかし、短剣が通っても壁の向こう側からどうやって狙いをつけるのです?」
「空中の短剣を自在に操る技術があれば、必要なのは目標の相手がいる場所ですね。この場合、狭い飛び石の上と言うのが暗殺者に場所を教える事になったのかもしれません」
「なるほど……」
ギルド長・フマサーサも部屋の中にいるなら同じ椅子に座っている。ラゴリュートを襲った相手なら部屋の外からでも暗殺できるだろう。しかし、どちらも同じ犯人が狙ったとなると、神官長・エバムが絡んでいるのか。
「ラミュエル殿は、誰から事件の報告を受けたのですか?」
「もちろん、神官からです。各教会の情報は逐一大神官である私の元へ届けられますので」
「フマサーサが殺される前に、神官長・エバム殿にお会いしてたと言うので、その時の話を聞きたいのですが」
「南の神官長ですね。私も南の教会まで、ご一緒しましょう」




