街の中での暗殺
大急ぎ冒険者ギルドの商館に戻ると、何人かの冒険者が入り口に立ち、人の出入りを制限していたが、勇者・ロドニアスの顔を見ると、無言で脇によけ道を開けた。
「大勢で襲撃された訳じゃないんですね」
ロドニアスの言葉は、少し悔しそうに聞こえた。しかし、彼の言う通り、建物の内部は特に荒らされた様子もない。それは、ギルド長の部屋も同じだった。
「喉を一刺し。外傷は、これだけですね」
仰向けに倒れているフマサーサの喉にペーパーナイフのように薄い短剣が突き刺さっている。死因は明白だが、ロドイアスはやけに念入りに死体を調べている。
「どうかしたのか?」
「……かすり傷一つないとなると、相手はこんなちっぽけな短剣で、フマサーサに抵抗もさせずに倒したと言う事です」
「フマサーサは、強いのか?」
「ギルド長ですから、それなりに……」
もちろん、鍛え上げられた肉体以上にと言う意味だったが、この世界でも規格外の強さの勇者が、それなりと答えただけで十分だろう。
「不意を突いたにしても、相手はかなりの使い手か」
「……近づいても警戒されない相手か」
呟くように付け足された言葉を廊下を走る足音が消し去った。急いで部屋に入って来た足音の主は冒険者のロミルだった。死体の第一発見者と言う事で呼んでおいたのだ。
「勇者様。ギルド長が……」
少なからずショックを受けているようで顔色も悪い。無理をして駆けつけてくれたようだが、ロドニアスは話を始めようとはしなかった。仕方なく、代わりに彼女の話を聞く事にした。
「犯人に心当たりはあるか? 私たちがここを出てから大して時間が経った訳ではない、怪しい物は見なかったか?」
「はい、何も……。それどころか争う物音も聞いておりません。勇者様がお帰りになられた後、神官長・エバム様がいらっしゃいまして、私どもは退出し、お二人で話をされておりましたので」
「神官長が来ていたのか?」
「まさか、エバム様が?」
「いや、疑ってる訳ではないが……」
聞き返したのがまずかったのか、ロミルの頭の中でエバムが犯人である筋書きが組み立てられているのは見て取れた。彼女はギルド長の補佐のように控えていたことからギルドでは重要な地位を占めているのだろう。いらぬ疑惑を持たせ、冒険者と教会が対立するようになれば、目も当てられない。
「他には誰か見かけなかったか?」
不自然ではあったが強引に話題を変えた。
「はい、他には……来客もありませんでしたし、怪しい者も……。部外者がここまで入ってくれば、誰かが気づくはずです」
「こいつは、誰の物だ?」
ロドニアスが薄い短剣を指でつまんでロミルの目の前にぶら下げた。刀身や鍔に模様が入っているが横を向ければ複雑な形をしているとは思えないほど薄い。
「それは、オロード・バリシュの短剣ではありませんか?」
「誰だ? それは」
「冒険者たちの英雄ですよ。クイス導師」
「はい。数年前、発見された英雄の遺品です」
「価値がある物なのか?」
「オリジナルは、王宮で保管されていると思います」
「魔法の複製ですよ。武器なら本物とそん色なく複製を作れますが、これは七割と言ったところですね」
「オロード・バリシュの短剣ですよ? 七割でも復元できたのなら相当な使い手です」
ロミルが驚いたように付け加えた。
「まぁ、作れる訳か……」
凶器が手掛かりにならないとなると、やはり、目撃情報が決め手になる。
「結論を出す前に、神官長に話を聞きに行った方が良いな」
「会えますかね?……」
珍しく後ろ向きなロドニアスの言葉だった。




