裏路地
冒険者ギルドの商館を出ると、ロドニアスを追いかけた。普段から大股で歩く速度が速いが、いつにも増して速く歩いている。一刻も早く立ち去りたいとでも考えているのだろうかとも思ったが、元々多くない人の姿が途切れると通りの真ん中で立ち止まった。
「どうした?」
追いつきはしたが息が切れる。とりあえず質問をして呼吸を整える間を作ったが、ロドニアスは呼吸どころか髪の毛一筋乱れた様子はない。彼らとは肉体的な体力以上の差があるのではないかと感じる。
「上手く引っかかると良いんですがね」
「ん?」
「冒険者ですよ。ギルドが何かやってるのは間違いないですが、どの辺が動くかですよね」
「それじゃあ、わざと挑発していたのか?」
ロドニアスは含み笑いを漏らしただけで、その質問には答えなかった。そして、大通りから建物の間の路地に向かって歩き出す。
「知られちゃまずい事をしている自覚のある奴から動き出しますから」
石の壁が両側に迫ると、薄暗さより圧迫感を感じる。新しい建物の壁が途切れると表面の劣化した石壁が姿を現した。屋根がなかったり扉の無い開口部から行くあての無い階段が見える。
「この辺りは廃墟なのか……、魔物の襲撃があったのか?」
「百年ほど前の建物ですよ。古くなればなるほど建物は大きくて堅い石を使ってますから、最近の魔法じゃ解体するのも手間がかかるので、裏路地に捨て置かれているんですよ」
そう言われてみてみると、新しい建物の方はレンガのように小さな石がぴったちろはめ込まれているが、廃墟の方は大きな石を削って壁や階段の部品を作り、それを繋ぎ合わせたような構造だった。
「規格が違うと、合わないのか?」
「簡単に削れると、壁として機能しなくなるでしょ? だから、壊すには手順を踏むか、膨大な力で叩き壊すしかないんですよ。おかげで、この辺りには建国当時の地下道に通じてる建物が残ってたりしましてね」
石の床を踏み鳴らして歩きまわっていたロドニアスが足を止め、大剣を抜くと根元まで床に突き刺した。
「街の外とも繋がっているのか?」
「川から水を引き込んでいるのでどこかは繋がっていますが、人が通れる場所は限られてますよ。下に行くほど、穴が開けられませんしね」
そう言いながら床の穴から引き抜いた大剣の先には、血がついていた。刃先をなぞるように滴るが、血の量は少ない。相手の大きさ次第だが致命傷とは言えない傷だ。
「それは? 何を斬ったんだ?」
「大した物じゃありませんよ……。向かう先は……、南ですね」
ロドニアスは、両手で握った大剣を正面に構えている。風向きを感じるように斬った相手の向かう先が分るのかとも思ったが、地下道の配置をある程度知っていれば大体の見当は付けられるのだろう。
「下に入る入口があるのか?」
「調べるなら、城壁の地下からですね」
そう言われて南の方に目をやったが、建物に塞がれて城壁までは見通せない。記憶を思い起こしてみてもかなりの距離がありそうだった。
「この辺りに穴でも開けられないのか?」
ロドニアスは少し考えると、大剣を水平にして先の血痕のついた場所を指さした。
「ここの敷石の厚さは、これだけあるので、人の入れる大きさの穴を開けると、周囲の建物が崩れかねませんよ?」
「そうか……。それは止めといた方がいいな」
いつまでもこの場にとどまっていれば、一か八か試してみると言い出しそうで、さっさと城壁へ向かって歩き出した。




