魔物の手先
王宮内の生活は快適で申し分なかった。用意された個室は快適で食事は美味しく、必要な物は使用人に頼めば用意してくれる。不満を上げると言うならメイドが何度も用を聞きに来るため一人で落ち着ける気分にならないくらいだったが、変わった環境を楽しんでいる場合ではなく、机の上に置いた地図の周りを歩き回って何も思い浮かばない事に頭を抱えていた。
もちろん悩みの種は魔王討伐についてだ。
何度も催促に来る勇者・ロドニアスの協力を得て、街の周辺の地図を作るところから始めた。地図はあるにはあったが大きさや縮尺が戦略を考えるには不向きだった。魔物の軍勢は城壁に取りついているわけではなく、遠巻きにある森の中に潜んでいて、城壁から十分に離れたところを襲ってくる。魔物の習性で森に住み着いているのかとも思ったが、遭遇する種類や場所を検討していくうちに時間と場所で魔物の種類に偏りがあった。
種類ごとに縄張りのようなものを形成して、規則的に見回りをしている。それらがより強い個体に指揮されている事は分かったが、肝心の魔王の姿は全く見えてこない。
「やはり、包囲している魔物の指揮官を倒していくか。これだけ個体差に違いがあるなら、お互いに仲が良いとは思えないからな」
「確かに指揮官を倒せば、魔物の種類によっては争いを始めるかもしれませんね」
「今の所、こちらの方が仲間内で争いを始めてしまいそうだけどな」
軍の指揮官を倒すのは常とう手段だが、国王を暗殺されたこちらが後手に回っている。魔物が王宮に現れたと言う話も、厳重に緘口令を敷いていたが何時の間にか街中に広まっていた。不安と不満の充満した街では、噂は簡単に燃え広がる。
「王宮に入り込んだのは、手引きした者がいると考えるのが普通ですからね」
「やはり魔物の手先がいると思うか?」
「はい、身を隠す能力があるにしろ、あれだけの魔物が単独で潜入したとは考えにくい」
「攻めるにしても、それを何とかしないと、こちらの手の内は筒抜けか」
「王宮内を自由に動ける役職の高い者が関与してる可能性が高いですが、首謀者をあぶり出すためには末端から捕まえなければいけないでしょうね」
「末端?」
「噂を広めている連中ですよ。外出を控える連中が多い中、これだけ早く広まったのは誰かが故意に広めているはずです」
「なるほど。しかし、何の得がある?」
「魔王軍と戦うと言っても、全員が同じ目的を持っている訳ではありません。国王・アルバトスは、魔王の軍勢を国外に追い返せれば十分と考えていました。今の大神官はどう考えているか知りませんが、教会は魔物を一匹残らず殲滅させようと考えています。また、魔物と共存を望んでいる連中も……」
「だが、王政に不満があっても、魔王に支配されてしまえば生き残れないのだろう? 共存も両方の力がある程度拮抗していてこそ」
「生き残れる自信があるのか、逃げ延びる用意をしているのか。戦うにしろ、逃げ出すにしろ、不安を高め街が混乱してからなら扇動するのも簡単ですからね」
「布石の一つか……」
多少不利になっても簡単に王都が落ちる事はないと考えているのか。もしくは、勇者を街に釘付けにして、膠着状態を長引かせようとしているのかもしれない。
「噂の出処を調べるなら冒険者ギルドですね」
「冒険者?」
「腕に自信のある流れ者です。行商人や貴族の護衛として雇られるのにギルドに属していますが、英雄願望の塊りみたいな奴らですから不必要に騒ぎを大きくして手柄を吹聴したりする連中ですよ。噂を流すのにはぴったりです」
「今は一人でも兵士が欲しいだろう? 戦力になるなら城壁の防衛に雇い入れられたりはしていないのか?」
「兵士の代わりにはなりませんよ。奇策や個人技に特化した冒険者は自分の能力を人に見せたがらないので、大勢で協力して戦うには不向きなんですよ」
「そういう相手なら、調べるには手間がかかりそうだな」
「中には人前に姿さえ見せない連中も居ますが、ギルド長ならある程度の情報は持っていますよ。調べるなら商館からですね」
「正面から乗り込むのか?」
「奇策を弄する連中なら、その方が慌ててボロを出しますよ」
ロドニアスは、冒険者について随分詳しそうだったが、知っている事はそれだけではないと思える不敵な笑いをしていた。




