役目
皆の視線が一斉に集まった。その視線が、これから犯人を言い当てる事を期待しているのが分かる。導師としての初仕事、いや、最後の仕事になるかもしれない。僅かな手掛かりで常識の通じない能力を持つ相手から犯人を見つけなければならないのだから。
まず、犯行現場は密室だった。
犯人は、物音も立てず二人の兵士と国王を暗殺した。
凶器は、兵士から奪った長剣。
犯人は、この場にいる誰か。
これまでの会話や行動に手がかりがあるはずだ。例え常識を超えた能力を持っていたとしても、犯行に至る動機や感情は変わらないはずだからだ。
「国王を、殺した犯人は……」
マカカイエ・ジェストか、ゼイガスか、ラミュエルか、衛兵か、老騎士か、それとも、メイドか……。残された証拠から誰かを選ぶのは至難の業だった。たとえ言い逃れしようのない完全な証拠を用意できたとしても、その後はそれぞれ自分の潔白を自分の能力で証明し合う事になりかねない。
だが、その先の言葉を継いだのは意外な人物。いや、彼が口を開くのは当然だった。失敗する事の出来ない、後戻りする事の許されない選択肢を選ぶ事のできる者、だからこそ、勇者なのだ。
「犯人は、きさまだ!」
ロドニアスが背中の長剣を抜き放った。それは円盤のように回転し空を切って部屋の中を飛んだ。
壁に突き刺さった瞬間、硬い石が切り裂かれる音の上にグシャリと汁気の多い物が潰れるような音がかぶさった。
剣を伝って体液がしたたり落ちる。剣の貫いた何も居ない空間に、無数の足を持ち大きさは人間の三倍はある蜘蛛に似た魔物が姿を現した。その魔物は言葉を発するように口を動かしたが、青い液体を吐き出しただけで動かなくなった。
「……あの魔物が、国王を殺した犯人です」
謁見の間はかなりの広さがあるが、それでも同じ部屋の中にあれほど巨大な魔物が潜んでいたことが信じられなかった。いや、そうではない。初めから迷う必要もなかったのだ。勇者・ロドニアスは言っていたではないか、魔物の仕業だと……。
「初めから判っていたのか?……」
「はい、もちろん」
「それでは、魔物の潜んでいる場所を特定するために?」
「マカカイエ・ジェストの魔法の雷はゼイガスの鎧に弾かれ空気中に拡散し、ラミュエルの錫杖の音色は魔物には耐えがたく身じろぎせずにはいられない。そうなれば、帯電した空気に舞い上がった細かな埃は動く者に吸い寄せられ見えない者の形が浮かび上がらせる。相手の姿かたちさえ分かれば、急所を貫くのも容易ですからね」
「なるほど、……そういう事か…………」
初めから迷う必要などなかったのだ。選んだ結果を恐れる必要も、謎を解き明かす叡智も、正しく在り続ける公正さも、挫けぬ頑強な意思も、彼らが居れば必要なかったのだ。
求められていたのは、卓越した力を持つ彼らの剣をいつ振るうべきか。それだけだったのだ。
登場人物の紹介も済み、ついに魔王討伐の旅が始まる。
俺たちの戦いはこれからだ!




