昇天
「あなた!ホント、バカじゃないの!」
「騙されててもいいから、僕…行かなきゃ!」
止める野村恵美を振り払って、
イルミネーション会場を後にする煌太。
「この埋め合わせは必ずするから!」
「そんなの、どうでもいいわよ!バ─────カ!」
野村恵美は呆れて物も言えない様子だが、
その瞳は涙で濡れていた。
バスと電車を乗り継いで一旦自宅に戻った時には
夜11時を回っていた。
ネットで調べたら、明日の日の出時刻は6:47───
今からなら十分間に合うはずだ。
ペコリンからの返事はまだ無いが
とにかく行くしかない!
水平線から昇る朝日を、絶対見せてあげるから…
いつか見れたらいいね。って言ってた
あの羊の公園で
海から昇る朝日を、一緒に見るから、、、
それまで待ってろよ!
煌太は圏央道を東へと、車を走らせた。
夜中の圏央道は、年末ということもあって、
大型トラックで混雑してるし
さらに、風が強くてあまり早く走れない。
途中でトイレ休憩を済ませ、
つくばジャンクションから常磐道へ入った頃には、
3時を回っていた。
このまま友部ジャンクションから
東関東自動車道へ入ろうとしたが
事故渋滞10キロの表示が出てたので
土浦北インターで降りる。
これは、ギリギリかな~
少し焦ってきたけど
国道354号線で霞ヶ浦を横断したら、
あと1時間くらいのはずだ。
『明日の朝、東の空が茜色に染まる頃、
一つの星が流れたら、
それがワタシだと思って下さい。』
急にペコリンの言葉が頭をよぎった─────
東の空が茜色に染まる頃って…
日の出前じゃないのか~?
ここまで来て、日の出を見ないで逝くなんて
絶対許さないからな!
もう少し頑張れよ!
そんな思いを巡らしていると
目の前に霞ヶ浦が見えてきた。
琵琶湖に次ぐ2番目の大きな湖だ────
さすがにデカい!
風に煽られながら霞ヶ浦大橋を渡る…
このまままっすぐ行って、海岸線に出たら左折だ。
もう、すでに夜の闇は薄くなりつつあった。
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「ゆう?ゆう?…ママはずーっとここにいるわよ」
日付が変わってから、脈拍も呼吸も少なくなって
いつ心肺停止になっても
おかしくない状態のゆう。の右手を握りしめて
母、美枝は呼び掛けた。
ゆう。の左手は、まるで恋しい人からの
連絡を待ってるかのように、
スマホを握りしめたままだ。
「よほど大事な人なのね…ママも会いたかったわ」
「ゆう?…あなたがパパとママの所へ来てくれて、
ママはずーっと幸せだったよ」
「パパがやっぱり癌で亡くなってからも
ゆう。がいてくれたから、ママは頑張れた」
「天国へ行ったら、パパのこと宜しく頼むわね」
意識が無いはずのゆう。が一瞬笑ったように見え、
その直後、ゆう。の心肺は停止した──────
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煌太が羊の公園に着いた頃は
東の水平線が茜色に染まり出していた。
羊のオブジェは半年前と変わらぬ愛くるしさで
迎えてくれていた。
『明日の朝、東の空が茜色に染まる頃、
一つの星が流れたら、
それがワタシだと思って下さい。』
再びペコリンの言葉が頭をよぎった。
東の空は綺麗な茜色に染まっていて、
今まさに日の出が始まる・・・
「ペコリン…見てるかい?」
「もう、日の出が始まるよ」
「一緒に見たかった、海から昇る朝日だよ」
スマホを録画モードにした時、
一つの星が東の空に流れた・・・
「ペコリン・・・?」
「間に合わなかったかもしれないけど、
この動画を贈るからね…」
こうして、
クリスマスの朝はゆっくりと、ゆっくりと、明けた────




