魔族と結界
翌日。
今日もいつも通りに出勤して⋯⋯
もちろん馬車でね?
午前中の仕事を順調にこなした私。
仕事もひと息ついて、ちょっと一服しようと、売店へ飲み物を買いに行った時のこと⋯⋯
給湯室のあたりから、何やらヒソヒソと会話する声が耳に入ってきた。
「⋯⋯なんか、国境近くの村で魔族が暴れたらしいわよ」
「魔族が?」
びくっ⋯⋯。
立ち止まる。
魔族って⋯⋯言った?
私⋯⋯え⋯⋯えっとなんかした?
いや⋯⋯ない。違う。
ここにいる人達に私の正体がバレるわけない⋯⋯はず。
ほかの魔族ってこと?
耳を澄ますと、給湯室の中にいる人たちが噂話を続けていた。
「それでね!なんか、国境に近い村に、魔族と人間が所帯を持っていたらしいの」
えっ!
「えー、それで?!」
「人間は魔族に食べられたんだって!」
「そうなの?!やだー!」
うそっ!
食べない! 魔族は人を食べないよ!
⋯⋯でも、私は純血じゃないから自信ないけど⋯⋯。
「ユーリちゃん? 顔、真っ青だけど⋯⋯」
ひっ!
突然、後ろから声を掛けられ、恐る恐る振り返ると——。
「ジ⋯⋯ジンさん⋯⋯」
ジンさんがいた。
「ユーリちゃん体調悪い?平気かなぁ?」
「ジンさん⋯⋯今、出勤ですか?」
「うん。さっきね〜。で、どうしたの?」
ジンさんが私の顔を見る。
私は何を言っていいか分からず⋯⋯戸惑って立っていると⋯⋯
「あー、あっちで話してる話?魔族は人なんか食べないでしょ。聞いたことないよ〜学校で習ったろうにねぇ。何言ってんだか〜はい!どうぞ」
ジンさんはそう言って私の手にジュースを握らせる。
「あ⋯⋯」
「やーしかし、今日も〜遅刻しちゃったなぁ〜また。主任に怒られちゃうなぁ〜」
ジンさんはそう言って歩き出した。
私はもらったジュースをひとくち。
そうだよね⋯⋯魔族は人は食べない。
でも⋯⋯人間は魔族を嫌う。
つよい魔力があるが為に⋯⋯
だからこそ隠さなくっちゃ。
目立たず、穏便に仕事をして、出世とかせず。
普通に⋯⋯
私は自分にそう言い聞かせた。
仕事場に戻り、のんびりと、傘に撥水の付与をつける。
モクモクと作業をこなしていると。
「ユーリ先輩!」
ドアの開く音⋯⋯
「なぁにーまた、ルークちゃんなの?」
リキさんがドアの方を向いて笑った。
「ルーク?どうしたの?」
私が傘に付与をかけながら振り返りもせずに声だけで答えると。
「ユーリ先輩。この靴。撥水防水じゃないですか」
⋯⋯
そりゃまぁ靴だからね?
空飛ぶ靴とかにしたほうがよかった?
「靴にはそれが一番でしょ?雨の日も大丈夫仕様だよ?」
私がそう言ってルークを見ると。
「すごく完璧に付与ついてますけど。何か他に変なのついてません?」
⋯⋯ギクッ
私は全く知らないふりをすると。
「?何もついてないけど?なんかあったの?」
「⋯⋯いえ、さっき、ジンさんにバナナもらったとき⋯⋯」
え⋯⋯
ジンさん⋯⋯バナナあげたの?
「それでバナナの皮を落としちゃって踏んじゃったんです」
えー
踏んだか!バナナの皮を
「それはそれは」
私は再び傘の付与を始める。
「踏んでからなんか変で⋯⋯なんか靴いじくりました?」
「シテナイヨ!」
私はそう答えると
「もう、仕事の邪魔です。お引き取りを!お支払いは月末までに!庶務課へ!」
お引き取りいただくことにした。
ジンさんもさぁ。まさかバナナを渡すとは⋯⋯てか、バナナの皮を踏むな!
だよ!
少し染み込んだのかもねバナナ⋯⋯
そんなこと思っていると
「それで第一から依頼です。僕たちの制服の撥水防水の付与をユーリ先輩にお願いします。期限は明日。よろしくお願いします」
そう言って、10枚ほどの制服が入った箱を
ドン!
と、私のデスクに置いた。
えー⋯⋯残業確定じゃん⋯⋯
私はまだ残っている傘を見つめてつぶやいた。
傘も今日中なのにい⋯⋯
「まず傘を終わらせないとね?残りはカズがやりなさいね〜」
リキさんがテキパキと指示をだしてくれた。
わーん、リキ主任様!さすがです。
「ユーリ、第一の制服に撥水防水と言うことは、任務で、外に行くから使うってことなんだと思うわ。だから早めに仕上げてね。」
リキさんはそう私に指示をする。
外にか⋯⋯
じゃぁ、きっちりかっちり付与をつけないと。
足が疲れにくいのもこっそりつけておこう。
でも任務で?第一が行くような何かがあったのかな?
少し心配もありつつ⋯⋯
私は制服を手に取った。
「なんか外に行く任務でもあったんすか?」
カズが傘を手に持ってリキさんに聞く。
リキさんは、手を止めてカズを見る⋯⋯
「んー。詳しくは分からないけど、魔族避けの結界が弱くなった所があったみたいよ?」
魔族避け⋯⋯
人間と魔族は表向きは和平を結んでいる。
もちろんうまくやってる国もあるみたい。
あまり仲の良くない地域もあるのも事実。
私のいる国は、適度に距離を取りつつって感じみたい⋯⋯
だから、重要な場所⋯⋯国境とか⋯⋯国の大切な機関とか?には結界を張っている。
それのどこかの結界が弱くなったのか⋯⋯
「でもさぁ、魔族魔族っていうけど⋯⋯
あ!おはよーございまーす!!
人間だってひどいもんだよなあ?国同士でくだらない理由でサクサク戦争始めるもんなぁ〜」
そうジンさんがの~んびりつぶやいた。
うん。
ほんとにそれ。
それは思う。
魔族だけがじゃないよね?って思う!
人間同士だって相当だよ!
「あーら!ジーン?!あんた!また遅刻!!何日連続だ!」
リキさんがそう言ってジンさんを睨みつけた。
怖い顔だ!!
「ひっ!しゅにーん!サーセン!!!」
ジンさんは慌てて、カズのデスクの大量の傘の付与を手伝い始めた。
私も制服の付与を終わらせないと!
残業にならないように!




