覚醒⑦
⋯⋯それから⋯⋯
しばらく母さんの幸せそうな日々が流れる⋯⋯
その、幸せそうな日々は⋯⋯
時に甘くて時に優しくて⋯⋯甘ずっぱいような⋯⋯不思議な感覚だった。
きっと⋯⋯母さんの⋯⋯感情⋯⋯
私は深い眠りへ落ちていく⋯⋯母さんの幸せな気持ちとともに⋯⋯
⋯⋯
「アル⋯⋯実は⋯⋯」
私は顔を赤くしてアルを見つめる。
「どうした?ユリーナ?体調がわるそうだぞ?もしかして⋯⋯」
アルは私を見つめて慌てたようにつぶやく
「もしかしてなの⋯⋯」
私が小さくうなずくと
「なっ!ど、どどどどこが悪いんだ?魔界の水があわないか?!食物か?!」
アルは大慌てでオロオロしだした⋯⋯
えー⋯⋯
今さら、的はずれな心配をするアル⋯⋯
アルの側近のジンが
呆れたようにつぶやいた。
「気が付かないとは⋯⋯」
「んもー!アル?!どこも悪くないわよ!」
私が大声で言うと
「え?」
アルは首を傾げる。
「んもー!鈍いはねぇ!父親になるのに!」
私が言うと、アルは目を見開いて私を見つめる。
「な⋯⋯なんだと?!ジ!ジン!!!ユリーナが懐妊だ!す、すぐ、城の段差をなくせ!転ばないように整備しろ!あと、寒くないように城の設備を⋯⋯あとは⋯⋯」
ふふふふふ
「んもぉ〜大げさねぇ〜」
私はおかしくて笑ってしまった。
「そうか⋯⋯子どもが⋯⋯」
アルは私と私のお腹を愛しそうに見つめ微笑んだ。
「アル!愛してるわ!」
「あぁ。ユリーナ⋯⋯愛してるよ」
アルはそう言って私を優しく引き寄せる。
「いつ生まれるんだ?男かな?女かな?それとも両方か?!早く会いたいな⋯⋯」
アルはそう言って私を抱きしめる。
「ふふふふ。せっかちなパパね⋯⋯まだわからないわよ?早く会いたいわね!」
⋯⋯幸せだなぁって本当に思った。
「私とアルの子だからものすごい魔力がある子になりそうね!」
私が言うと。
アルとアルの側近が嬉しそうだけど、真剣な顔をして頷いた。
「壁をぶっ飛ばすかもしれないので⋯⋯倍の厚さにしたほうが⋯⋯」
とか
「扉をぶっ飛ばすかもしれないので三重扉にしたほうが⋯⋯」
とか⋯⋯
余計な心配もしてたわね⋯⋯
「やっぱ妊娠したからかな?魔力が不安定なの。だから、しばらくはゆっくり過ごすようにするね!」
私がニッコリ答えると
「「ええ⋯⋯それはもう」」
側近の皆さんの声がこだました。
んんんん?ちょっと今の失礼じゃない?!
「そろそろ国を上げてお祝いせねばなりませんな!」
ある日アルの側近であり相談役カルドスが嬉しそうに微笑んだ。
アルと、私と、生まれて来る子と過ごす楽しい日々を想像して⋯⋯
これ以上ないってくらい幸せな日だった。
――けれど。
その幸せは、長くは続かなかった。
『魔王が人間の大魔法使いを妻にし、子が宿った』
その報せは、魔界の平和を望む者たちには歓喜として迎えられたが⋯⋯
長年、人間を憎み続けてきた魔族の『守旧派』にとっては、激しい怒りと焦りの種となったのだった。
カルドスが険しい顔で報告書をテーブルに置く。
「⋯⋯王よ。一部の貴族どもが、北の人間どもと秘密裏に接触を図っている形跡がございます」
カルドスの言葉に、アルの瞳がスッと冷たく細められた。
「――それだけではないな、カルドス。裏で奴らを手引きしている主謀者がいるか⋯⋯」
アルが低く呟いたその時、会議室の重々しい扉がゆっくりと開く⋯⋯
現れたのは、アルの弟だった――。
「兄上⋯⋯ユリーナ様もこちらにいらっしゃいましたか。ユリーナ様、この度はご懐妊おめでとうございます」
丁寧に私達に頭を下げる。
優しいアルの弟⋯⋯
年が離れているからあまり会うことはなかったんだけど⋯⋯
久しぶりに見た顔は⋯⋯以前会った時と違う気がした⋯⋯
大人びた顔⋯⋯
「ユリーナ?少し疲れたか?」
え⋯⋯?
アルが突然私を優しく見つめ微笑む。
私のお腹を優しく撫で。耳元で
「ユリーナ⋯⋯愛してるよ⋯⋯」
そっとつぶやいた⋯⋯
え?
アル?
私が慌てて顔をあけた瞬間
⋯⋯
「カルドス、ジン、ユリーナを奥へ⋯⋯頼んだぞ?」
アルが2人を見つめる
「はっ。ユリーナ様こちらへ」
え?!
私は、いきなりジンたちに連れられてしまった。
「まって?私もアルと一緒に話を聞くわ?」
私が言うと。
「ユリーナ様。今はお体に何かあったら大変です。ひとまずこちらへ⋯⋯」
通された奥の部屋には
⋯⋯え?
「グリ!」
アルの可愛がっているグリフォンがいたの。
どうしたの?
「ねぇ?ジン⋯⋯これはどういうこと?」
私が聞くやいなや⋯⋯
「ユリーナ様⋯⋯失礼いたします⋯⋯」
私は何か甘い香りに包まれて⋯⋯
ゆっくり意識を手放した⋯⋯




