覚醒④
「アルは⋯⋯今のこの人間住む地と魔族の住む地が別れてること⋯⋯どう思う?」
不意に私が聞くと
アルはチラッと私を見て口を開いた。
「人間界と魔界の共存か?」
「!そう!そうなの」
身を乗り出す私に、アルは呆れたように小さく鼻を鳴らしたけれど、その赤い瞳は遠くの夜空の向こうを見つめていた。
「⋯⋯魔界は厳しい土地だ。鉱石や特殊な魔力を秘めた素材は豊富だが、食べられる作物は限られている。人間界のように、豊かな場所ばかりではない」
アルは手首のブレスレットにそっと触れ、静かな声で言葉を続ける。
「強者が弱者を踏みにじるのが今の魔界の⋯⋯世界の理だ。だが⋯⋯俺は、強い者が弱い者を守る世界の方が、ずっと健全だと思う。人間界にしかない穀物や技術、魔界にしかない資源。お互いが奪い合うのではなく、価値を認め合って貿易でもできれば⋯⋯奪い合いで流れる血など、最初から流さずに済む⋯⋯」
「アル⋯⋯」
19歳の青年が語るには、あまりにも大きくて、けれど温かい理想。
それは、人間界の愚かな権力者たちの誰もが口にしない、本当の意味での『優しさ』だった。
私もずっと思っていた。
本当の世界の在り方⋯⋯
私もギルといつもそんな話をしていた⋯⋯
まさか、魔界にも同じ考えを話せるなんて⋯⋯
私はじっとアルを見つめる。
「⋯⋯ふん、どうせお前も『魔族のくせに青臭い理想を』と笑うのだろう」
アルは気まずそうに横を向いたけれど、私は首を横に振って、彼の両手をギュッと握りしめた。
「笑うわけないじゃない! すごいわ、アル! 私、そんな風に本気で未来を考えてる魔族の人に会えて嬉しい!」
「っ⋯⋯! お、お前、急に手を握るな⋯⋯!!」
「ありがとう!アル!大好きよ!」
突然の私の言葉に耳まで赤くして狼狽えるアルを見て、私の胸の奥が、月光草の光よりも温かく、強く高鳴っていたのだった――。
「な⋯⋯なんだ⋯⋯」
アルは驚いた目で私を見る。
「ん?本当にその考え!素晴らしいわ。大好き!そういう考えをみんなが持てば世界は平和になるのにって思う」
「あぁ⋯⋯考え方が⋯⋯か」
アルは小さな声で、残念そうにつぶやいだ。
出会って⋯⋯赤い瞳を見た瞬間⋯⋯
恋に落ちていたなんて、悔しくて言わないわ⋯⋯
私は心の中で小さくつぶやいた。
目の前の淡く光る月光草⋯⋯
美しい光の世界を2人でしばらく並んで眺めていた。




