お誕生日会♪
遠征から帰ってから⋯⋯数日⋯⋯
なーんか最近体調が悪い。
疲れかなぁ?
私はぐーっと背伸びをして、第三の自分のデスクで靴の付与を続ける。
今日の付与は、一般靴の付与。
防水撥水の簡単な付与。
「ん⋯⋯? っとと」
バチッ、と指先から小さな火花のようなものが散って、付与中の革靴がほんのり焦げ臭い匂いを立てた。
あれ⋯⋯? おかしいな。力、込めてないのに。
私は慌てて魔法で焦げた箇所をこっそり直す。
なんか、おかしいなぁ⋯⋯
私は手に持った靴をデスクに置く。
防水撥水は普段なら息をするようにできる初歩的な付与。
魔力をほんの少しくらいに抑えて流し込んだつもりだったのに、なぜか魔力が指先から過剰に溢れ出てしまう。
なんか⋯⋯
体が重くて、体の奥がじわじわと熱い。
まるで、自分の中に納まりきらないなにかが、内側から壁を叩いているみたいな感覚⋯⋯?
「おいユーリ、顔色悪ぃぞ? 大丈夫か?」
隣のデスクから、カズが心配そうに覗き込んできた。
「あ、カズ。うん、大丈夫大丈夫! ちょっと遠征の疲れが残ってるだけだと思う」
「無理すんなよー? 体調悪かったら休めよ?お前遠征から帰ってからさっさと通常勤務にもどるなんて⋯⋯。ほら、ジンさん見てみろよ。だらだらして⋯⋯今も寝てるぞ⋯⋯」
カズは奥のデスクのジンさんを指さす。
本当だ⋯⋯ジンさんは椅子にふんぞりがえってうとうとしている。
私はそれを見ながら
「ふふ、気をつけるね」
笑って誤魔化そうと瓶底眼鏡のブリッジをクイッと指で押し上げる。
⋯⋯けれど、その眼鏡越しに見える景色が一瞬だけ、グラリと赤く揺れた気がした。
⋯⋯あれ⋯⋯気のせい、よね?
自分の手元を見つめ直しながら、私は小さく息を吐いた。
「それに今日はお前の誕生日だろ?大人の仲間入り会!オレはお先してたけどっ。ユーリは本日大人の仲間入りだな!で、うちら皆で帰りにメシ行こうって計画だけど、でも大丈夫かー?体調」
カズが心配そうに顔を覗き込む。
そうなの
今日は私の、18歳の誕生日。
おじいちゃんが
『18歳になったら、もっと世界が広がるぞ!』
なんて笑っていたけれど、まさかこんな風に熱っぽくてだるい誕生日になるなんて、思いもしなかった。
せっかくリキさん達みんなでお祝いしてもらうのに⋯⋯
「ユーリちゃん。これ⋯⋯疲れとれるから。飲みな」
突然起き上がったジンさんが
私に小さい瓶を渡す。
「?これはなんですか?」
「ん?栄養ドリンク。うちの直伝。すごく効くよ。すっきりするからさ。でも、今日は⋯⋯誕生日会やったらすぐ帰って寝るんだよ?」
ジンさんはそう言って瓶を私に渡すと微笑む。
ジンさんの家のって言うと⋯⋯短剣もそうだし、結構信頼できそう。
「ありがとうございます」
私はその瓶を受け取ると蓋をあけて。
飲み干した。
ん?
んんんんん!?
「ありゃ。すっごく効いた⋯⋯スッキリした⋯⋯」
私は辺りを見回す。
「マジか~!ジンさん!それ!オレにもください!!!二日酔いとかにききますかね?!」
カズが目をキラキラさせてジンさんを見つめる。
「あー?もうないんだよね〜。また今度な〜」
ジンさんはそう言ってまたウトウトし始める。
「こーらぁーじ!ん!ジン!寝ないで仕事しろ!」
打ち合わせから戻ったリキさんがぬっと現れ、ジンさんを怒鳴りつける。
ジンさんは
「サーセン!」
そう言って、靴の付与を始める。
んふふふ。いつものこと。
「はーい、みんな席ついたかしら? それじゃあ――ユーリちゃん、18歳のお誕生日おめでとーーーッ!!」
仕事が終わり、協会の近くにある行きつけの店に移動した私たちは、リキさんの豪快な音頭で一斉にグラスを掲げた。
ご馳走がテーブルにたくさんならんでいる!
「おめでとう、ユーリ! 大人の仲間入りだな!」
「ユーリちゃん、今日はあたしのおごりだから、好きなもの何でも食べなさいね〜!18歳はお酒もあるわよぉ〜?」
カズがジュースのジョッキを叩きつけるように合わせてきて、リキさんがお母さんみたいな温かい笑顔で私の皿にごちそうを盛り付けてくれる。
「ふふ、ありがとうございます! すごく嬉しいです!」
ジンさんの薬のおかげで体調はすっかり万全だ。
みんなのあたたかい祝福が心に染みて、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「ユーリ先輩!僕もいますからね!」
ありゃ、ルークもいたの。
今日は第三の私達の班だけかと思ってたのに。
「もう、どこからともなく聞きつけてきて。乱入よ〜仕方ないわよねぇ」
リキさんがルークを見て苦笑する。
「あったりまえじゃないか!まったく!ユーリ先輩!はい!プレゼントです!僕のを最初に受け取ってください!」
そう言って、綺麗にラッピングされた小さな箱を私の前に渡してくる。
「あ、ルーク! ありがとう、すごく嬉しい!」
「!!どういたしまして!喜んでくれるとうれしいです!て、ユーリ先輩、ちょっと顔赤くないですか!? 熱があるんじゃ――」
心配したルークが身を乗り出して、私の額に手を伸ばそうと顔をグッと近づけてきた、その瞬間。
「はいはーい、そこまで〜。ルークちゃん、主役をあんまり詰問して困らせないの」
ぬるっと間に割り込んできたのは、いつの間にか横に移動していたジンさんだった。ジンさんはルークの手を軽くいなすと、私のグラスにジュースを注ぐ。
「む、ジン先輩! 邪魔しないでください! 僕はただ先輩の体調が――」
「はいはい、ルークちゃんは、うるさい。ユーリちゃんも俺の言う通り、今日は早く帰って休む約束だもんね〜?」
ジンさんは黒縁眼鏡の奥で飄々と笑いながら、ちらりと私の顔を覗き込んだ。
でも、⋯⋯ジンさんの薬、本当にすごいや。さっきのだるさが嘘みたい⋯⋯
「今日からお酒オッケーだけど今日はやめとけよー?」
カズがそう言って私をみた。
そう!18歳は大人の仲間入り!お酒も飲めるんだけど。
今日はやめておいた。
次のお楽しみにとっておこう〜。
美味しくご飯を食べて、みんなにプレゼントをもらって、最高の18歳の誕生日。
――だけどこの時、私はまだ知らなかった。
ジンさんの気付け薬が、暴走しかけた私の魔力を
『一時的に押さえつけていただけ』
だったということを。
宴会が終わり、みんなと別れて夜道を一人でおじいちゃんの待つ家へと歩いていくうちに、私の体の奥で、ふたたびあの「熱」が静かに頭をもたげ始めていたのだった⋯⋯




