遠征①
目的地は馬車で2日くらい。
国境の近くの小さな村。
比較的平和なのどかな村。
私とジンさんは翌朝はやくに出発した。
ちなみにジンさんは遅刻しなかったの!
「ユーリ先輩!一緒に行けるなんて嬉しいですよ!」
遠征は、ルークの班とみたいなんだよね。
馬車は3台。
後ろの1台は荷物
先頭にマカロン主任とジンさんと私とルークの4人。
2台目にマカロン主任の部下が5人。
総勢9名だ。
場所が比較的落ち着いてるところとあって、少人数で遠征となったらしい。
「ユーリ先輩!魔族避けの結界!一緒に作れるなんて嬉しいです!!このままここにいていいんですからね!」
ルークがニコニコ笑いながら私を見る。
「いい加減うざいよルークちゃん。しつこい」
私の隣のジンさんがルークを呆れたように見ながらつぶやいた。
「ちっ。なんであんたまで⋯⋯」
ルークはなんかつぶやくとそっぽを向く。
「こら!仲良くしろ!ルーク!お前先輩に舌打ちはいかんぞ!」
マカロン主任がそう言ってルークに注意する。
「マカロン主任!さすがっす!ありがとうございます!」
ジンさんは調子良く答える。
「何マカロン主任って⋯⋯」
ルークが不満そうに言うと
「うむ!ジンとユーリに許可した呼び名だ!しかし!ルークは駄目だ!これはマカロン連合に入った者のみの特権だからな!」
⋯⋯え⋯⋯
マカロン連合⋯⋯
そうか、そんなのに入ってたんだ⋯⋯
「なんかむちゃくちゃじゃん⋯⋯」
ルークは小さな声でつぶやいた。
私は馬車から外を見る。
確か⋯⋯国立魔道具協会から2日くらい行ったところって言ってた。
国境の結界が薄れてきたから修復らしい。
『魔族避け』
とかよく言うけど⋯⋯
さっきもルークが言ってたけど⋯⋯
そもそも人間は魔族避けなんか作れない。
だって、魔族は人間より魔力が強いもの。
弱いものが強いものを遮断する付与は出来ない。
魔法はイメージの世界だから。
紙の前に、すごーくよく切れるナイフがあって、貫通しないって思わない人はいないよね?
それと同じ。
自分より遥かに強い物を通さない様になんかできないもんね。
そもそも⋯⋯
結界は自分の国や領土に、関所以外のところから勝手に入らないでねってするもの。
だから⋯⋯侵入者が入れないよ⋯⋯入りにくいような魔法の壁を作ったり、踏み入れた瞬間知らせる仕組みの魔法の壁を作ったり⋯⋯
そういうのになるんだよね。
なのに、魔族避けとか⋯⋯
なんか言い方がひどいよね⋯⋯
結界なんか魔族以外にも対象だし。
色々言うけど人間だって勝手だよねぇ?
とか思ってしまう⋯⋯
でも、人間と魔族にはそういう壁がある。
当たり前だ⋯⋯
自分より強いものに恐怖を抱くことは当たり前だもんね。
しかも、はるか昔から敵対し合ってる種族なんだし⋯⋯
そう思うと、絶対に私の正体はあかせないなぁ⋯⋯
何されるか分からないもんね⋯⋯。
つくづくそう思った。
私も父さんのことを聞かなければ魔族は危険なものって思っていたかもしれないもんね。
馬車は街を抜け森に入っていく。
この森を抜けて、さらにもう1つ村を抜けた先に目的地がある。
⋯⋯ん⋯⋯
ピン⋯⋯と何かの気配を感じる⋯⋯
これは⋯⋯
馬車の中を見回すと皆何も感じていないようだった。
?!何か⋯⋯来る!
⋯⋯3⋯⋯2⋯⋯1⋯⋯
心で数を数えた瞬間!
ドスンッ!!という凄まじい衝撃とともに、馬車の目の前に大きな影が躍り出た。
「なっ!?」
御者の悲鳴と同時に、馬が荒々しくいななき、馬車が激しく横揺れする。
現れたのは、通常の3倍はある巨大な黒毛の魔狼だった。
真っ赤な目をギラつかせ、鋭い牙からは粘り気のある唾液が垂れている。
完全に馬車を『獲物』として狙っている顔だ。
「⋯⋯マジか⋯⋯こんな街道のすぐ近くに魔狼が出るなんて⋯⋯」
ルークが驚いたようにつぶやく。
⋯⋯やっぱり⋯⋯ 国境の結界が緩んでるから、森の奥にいるはずの魔物がここまで降りてきてるんだ⋯⋯
あの気配の違和感はこれだったんだと、私は確信する。
「ふん! 不審物か! ルーク!ジン!いけるか?!」
マカロン主任の豪快な大声が馬車内に響き渡る。
そして、飛び出すように外に出ると
「全員武器を持って馬車の外にでろ!戦闘準備!行動開始!」
大きな声で指示をした。
魔狼は一頭だけではなかった。
ガサガサッ!!と茂みが大きく揺れ、左右からさらに二頭の魔狼が飛び出してきたのだ!
全部で三頭!
一頭が凄まじい速度で、2台目の馬車の扉へ——
「なっ!?」
後ろの馬車から声⋯⋯
血生臭い風が顔を撫でる。
まさか!怪我を?!
「問題ありません!剣で対抗します!」
後ろの馬車から声。
良かった!
じゃぁ、残りは二頭!
残りの二頭が、低く唸り声を上げながら先頭の馬車——私とジンさん、ルーク、マカロン主任を取り囲むように迫ってくる。
速い!
「ユーリ先輩、僕の後ろから離れないでください!」
ルークが素早く剣を抜き、私の前に割り込むように立ちはだかった。いつものニコニコした顔は消え、鋭い眼光で魔狼を睨みつけている。
その時、一頭の魔狼が地を蹴り、ルークの頭上へ跳躍した!
巨体からは想像もつかない俊敏さで、鋭い爪がルークの喉元へと迫る!
「ルーク!」
「チッ、甘いねぇ。ルークちゃん」
ルークが剣を構え直すよりも速く、ジンさんがすっと前に出た。
ジンさんが腰の短剣を抜いて一閃させる。その刃には、ジンさんの魔力のあの匂いが纏っていた⋯⋯
ガキィィンッ!!
激しい火花が散り、跳躍した魔狼が力ずくで弾き飛ばされる。
「ジンさん⋯⋯!?」
すごい!
「ユーリちゃん見とれてる場合じゃないでしょ〜こっちはまかせて!もう一頭がくるぞ!」
ジンさんの言葉通り、弾き飛ばされた一頭と入れ替わるように、もう一頭の魔狼がこちらに向かってくる!
そして⋯⋯死角である私の横腹を目がけて地を這うように襲いかかってきた!
「ユーリ先輩っ!!」
「ユーリ!!」
ルークとマカロン主任の叫びが重なる。
血生臭い風と、牙の圧迫感が一瞬で目の前に迫る。
やばっ⋯⋯
避ける時間はない。
仕方がない!
私は咄嗟に、足元の太い枝を手に持ち身構えた。
頭の中にイメージが駆け巡る。
⋯⋯硬く⋯⋯削れないように⋯⋯衝撃を全部外へ受け流して⋯⋯!
そのまま受けた勢いをすべて相手に反射させる!
バシィィィィッ!!!!!
凄まじい衝撃音が森に響き渡った。
「グ⋯⋯ッ!?」
目を見開いたのは、襲いかかってきた魔狼自身だった。
強固な岩石をも噛み砕く魔狼の牙が、私の持つただの枝に触れた瞬間、まるで巨大な鉄壁に激突したかのように一弾きに弾かれ、巨大な体が地面をゴロゴロと転がった。
そして、意識を失うように崩れ落ちた。
「ふぅ⋯⋯」
私と、枝には傷ひとつついていない。
「ヒュウ〜⋯⋯」
ジンさんが小さく口笛を吹く。
「うむ! 見事な防御だユーリ! よし!これで終わりだぁぁッ!」
隙だらけになった残りの魔狼に向かって、マカロン主任の巨体が弾丸のように飛び出した。
大剣が一閃し、凄まじい風圧とともに魔狼が一撃で沈む。
残ったもう一頭も、体勢を立て直したルークの鋭い突きによって一瞬で仕留められたのだった。
「ユーリ先輩!さっきのは!?」
ルークが駆け寄る
私はあわてて持っている枝の付与を解除し、硬くなる付与を付け替える。
「ん?枝に、カチカチになる付与をつけただけだよ?」
私は適当に誤魔化した。
「長居は無用!馬車に乗り込め!出発!」
マカロン主任の掛け声とともに
馬車に乗り込み出発した。




