『宇宙常識』
## 『宇宙常識』
第二十八代国王直人の時代。
世界は大きく変わっていた。
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蒸気機関は過去の技術になりつつあった。
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電力網。
通信網。
国際研究機関。
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そして。
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六十年間にわたる研究成果が現れる。
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## 遠隔観測学
(リモートビューイング)
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最初は疑似科学扱いだった。
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占い。
迷信。
思い込み。
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そう言われていた。
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しかし研究者達は諦めなかった。
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統計。
再現実験。
二重盲検試験。
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六十年間。
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世界中の研究機関が検証した。
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結果。
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九十九%以上。
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極めて高い精度で遠隔観測が可能。
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世界は衝撃を受ける。
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観測者は訓練される。
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医師。
学者。
軍人。
調査官。
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新たな学問分野として確立された。
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そしてある日。
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一人の研究者が言った。
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「月を見たい」
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そこから始まった。
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月。
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火星。
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木星圏。
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次々と観測される。
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映像。
地形。
環境。
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データが蓄積される。
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やがて。
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ある観測者が挑戦した。
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「もっと遠くへ」
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いて座方向。 それを観測した研究者はいきなり冥王星から観測しだした
そして少し遠いだけの70光年先の宇宙へ
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銀河中心方面へはまだまだ先、まだビューイングでも到達してない。
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---それでも以前から見れば
常識外れの距離だった。
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しかし観測は成功する。
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そして。
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そこで初めて遭遇する。
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人類ではない存在。
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観測者は後に語る。
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「彼らはこちらを知っていた」
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驚いたのは観測者だった。
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相手ではない。
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まるで来ることを予想していたように。
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自然に会話が始まる。
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「ようこそ」
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「観察者達よ」
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それが記録された最初の言葉だった。
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数年間にわたり、
遠隔観測による交流が行われる。
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そして彼らは、
宇宙文明共通の考え方を教えた。
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## 宇宙常識
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1 研究は許される
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知ることは自由。
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2 観察は許される
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見ることも自由。
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3 映像資料・研究データの持ち帰りは許可される
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知識共有も問題ない。
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4 拠点化・基地化は論外
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誰の土地でもないからこそ、
勝手に占有してはいけない。
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5 資源を持ち帰るのは禁止
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利益目的の採掘禁止。
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6 無人地の所有禁止
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誰も住んでいないから自分の物、
という考えは認められない。
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世界中の学者が混乱した。
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「なぜそんな規則がある」
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すると宇宙側の回答は単純だった。
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「争いになるから」
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それだけだった。
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直人は報告書を読む。
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数百ページ。
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検証記録。
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会話記録。
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統計資料。
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そして最後の一文で手が止まる。
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『宇宙文明の多くは、土地問題で滅びかけた経験を持つ』
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直人は苦笑する。
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「人類と変わらないな」
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宇宙人だから特別賢い訳ではなかった。
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失敗もする。
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争いもする。
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だからルールができた。
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国際交流連盟でも大議論になる。
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これを公開するか。
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隠すか。
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最終的に公開が選ばれる。
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理由。
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検証可能だから。
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研究は自由。
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観察も自由。
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再現実験が可能だった。
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そして世界は、
初めて地球の外を考えるようになる。
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だが直人は慎重だった。
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王国演説。
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「宇宙を見つけたからといって」
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「急いで宇宙へ行く必要はない」
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「百六十年待てる文明なら」
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「十年くらい追加で待てるだろう」
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会場は笑った。
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それは空覚王国らしい考え方だった。
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急がない。
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観察する。
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研究する。
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理解する。
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その後で決める。
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こうして世界は、
宇宙進出競争ではなく、
**宇宙理解時代**
へ入っていく。
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そして後世の歴史家は記す。
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**「人類が宇宙人から最初に教わったのは、超技術ではなかった。」**
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**「土地の取り合いをするな、という極めて古典的な知恵だった。」**




