『四十万年前の判決』
『四十万年前の判決』
宇宙常識が公開されて数年。
国際交流連盟と国連補助機関の共同研究班は、
遠隔観測による追加調査を続けていた。
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そしてある日。
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第二報告書が提出される。
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その内容は、
最初の宇宙常識以上に衝撃的だった。
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## 宇宙資源採掘禁止の起源
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人類の研究者は質問した。
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「なぜ資源持ち帰りは禁止なのですか」
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「なぜそこまで厳しいのですか」
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宇宙側の回答。
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「古いからだ」
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「どれくらい古いのですか」
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「約四十万年前」
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会議室が静まり返った。
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四十年ではない。
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四百年でもない。
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四千年でもない。
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四十万年。
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人類文明の記録をはるかに超えていた。
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宇宙側は説明する。
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当時。
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複数文明が宇宙進出を始めた。
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研究。
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観察。
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交流。
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ここまでは問題なかった。
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しかし。
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ある文明が考えた。
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「誰も住んでいない」
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「資源を持ち帰っても問題ない」
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最初は小規模だった。
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鉱石。
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希少金属。
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燃料資源。
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やがて他文明も始める。
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競争が始まる。
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そして起きた。
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所有権争い。
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採掘権争い。
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航路争い。
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領有権争い。
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宇宙側の記録では、
それが数千年続いたという。
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研究者が尋ねる。
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「何が起きたのですか」
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回答。
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「戦争」
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「大戦争」
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「何度も」
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沈黙が流れる。
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そして最終的に、
複数文明が滅亡寸前まで追い込まれた。
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その後。
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宇宙規模会議が開かれる。
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そこで採択された。
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## 四十万年前の宇宙協定
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研究自由。
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観察自由。
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知識共有自由。
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ただし。
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採掘禁止。
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所有禁止。
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植民地化禁止。
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基地化禁止。
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理由は単純。
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「争いの種だから」
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研究者達は驚いた。
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もっと複雑な理由を予想していた。
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哲学。
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宗教。
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超高度倫理。
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違った。
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極めて現実的だった。
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国際交流連盟で議論が始まる。
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ある代表は言う。
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「発展が遅れる」
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別の代表は言う。
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「資源不足になる」
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直人は静かに聞いていた。
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そして言った。
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「森林保護と同じだ」
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会場が静まる。
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「昔、我々は山を禿山にした」
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「だから植林した」
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「宇宙文明は惑星を禿山にした」
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「だから禁止した」
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理解しやすい例えだった。
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宇宙も特別ではない。
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資源がある。
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奪う。
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争う。
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人類史の拡大版だった。
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その後。
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国連補助機関は新たな宣言を採択する。
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## 宇宙観察宣言
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観察する。
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研究する。
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学ぶ。
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しかし。
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採掘しない。
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所有しない。
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占有しない。
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加盟国の大半が支持した。
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理由は単純だった。
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四十万年前の文明ですら失敗した問題を、
今の人類が簡単に解決できるとは思えなかった。
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歴史家は後に語る。
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篤史王は森林を守るために技術を広めた。
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直人王は宇宙を守るために採掘を急がなかった。
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二人に共通する思想があった。
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「使えるから使う」
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ではなく。
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「使って良いか考える」
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という思想である。
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そして国際交流連盟本部には、
新しい碑文が追加された。
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**『四十万年前に失敗した問題を、四十年で解決したと思うな。』**
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それは宇宙時代を迎えた人類への、
最初の警告として長く語り継がれることになった。




