「映像芸能史」
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## 閑話『当たり前は変わる』
第二十八代国王直人は歴史研究院の報告を読んでいた。
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内容は意外なものだった。
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「映像芸能史」
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古い記録を調べると、
テレビ黎明期の出演者達は現在とは全く違う扱いを受けていた。
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一部の地域では、
役者。
芸人。
歌手。
放送出演者。
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そうした職業は高い地位ではなかった。
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むしろ。
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「まともな職業ではない」
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「堅気ではない」
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「家業として認められない」
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そんな目で見られることもあった。
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現代の人々は驚いた。
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「信じられない」
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しかし記録は残っている。
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結婚を反対された者。
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親族から勘当された者。
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家名に傷が付くと言われた者。
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直人は報告書を閉じた。
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「なるほど」
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側近が尋ねる。
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「何がですか」
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直人は答える。
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「人間は思った以上に今を基準にする」
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今では。
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俳優。
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放送者。
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歌手。
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司会者。
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誰も特別視しない。
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普通の職業である。
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しかし昔は違った。
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さらに歴史家は続ける。
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印刷技術が出た頃。
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印刷工は奇異の目で見られた。
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蒸気機関が出た頃。
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機械工は下働き扱いだった。
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初期の電気技師。
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初期の飛行機乗り。
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初期の通信士。
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どれも似ている。
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新しい職業は最初、
理解されない。
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そして数十年後。
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普通になる。
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直人は国際交流連盟の演説でこう語った。
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「歴史を学ぶ理由の一つは」
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「昔の人を笑うためではない」
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「未来の人に笑われる自分を知るためだ」
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会場は静まり返った。
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今の常識。
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今の価値観。
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今の身分。
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今の職業観。
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それらは永遠ではない。
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だからこそ。
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人を職業だけで判断するな。
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時代だけで判断するな。
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という教訓が残る。
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後世の教科書には、
こんな一文が載せられる。
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**『テレビ出演者が半ば差別される時代があった。』**
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生徒達は驚く。
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「本当に?」
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教師達は笑う。
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「本当だ。」
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「そして今の君達の常識も、百年後には驚かれているかもしれない。」
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それが歴史という学問の面白さであり、空覚王国が大切にした「裏読み学」の出発点でもあった。




