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第十八章『見せる抑止力』

## 第十八章『見せる抑止力』


蒸気機関の普及から二十年。


空覚王国は大きく変わっていた。


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蒸気車。


蒸気工場。


蒸気鉱山。


蒸気揚水機。


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産業は成長した。


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しかし篤史は一つの問題を見ていた。


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周辺諸国も蒸気技術を手にし始めている。


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「平和は願うだけでは維持できない」


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それが長年の経験から得た結論だった。


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そこで王国工業院と軍務省へ命令が下る。


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## 統一火器計画


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目的は単純。


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銃そのものではない。


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規格である。


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篤史は職人達へ言った。


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「優秀な銃を一丁作るな」


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「同じ銃を十万丁作れ」


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職人達は最初理解できなかった。


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名工ほど唯一無二を目指す。


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しかし篤史は首を振る。


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「戦場で必要なのは芸術品ではない」


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「修理できる道具だ」


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そこで建設された。


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## 王立共通規格火器工場


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王都近郊。


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蒸気機械を利用した大量生産設備。


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寸法統一。


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部品統一。


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工具統一。


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検査統一。


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徹底的だった。


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さらに。


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## 蒸気弾丸製造ライン


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火薬製造。


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薬莢加工。


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弾頭成形。


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品質検査。


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全工程を分業化。


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一日生産量は過去の数十倍。


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しかも品質が揃う。


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軍部は驚いた。


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「どの銃にも同じ弾が入る」


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「どの工場の部品でも修理できる」


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篤史は満足した。


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義肢も同じだった。


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交換可能な部品は強い。


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しかし最も驚かれたのは次だった。


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普通なら秘密にする。


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軍事機密。


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工場は隠す。


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生産数も隠す。


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だが篤史は逆を選んだ。


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公開。


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外国使節を招待する。


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工場を見せる。


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生産能力を見せる。


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保守体制も見せる。


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軍務大臣は反対した。


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「情報漏洩です」


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篤史は静かに答えた。


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「違う」


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「抑止力だ」


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工場を見た外国将軍達は絶句した。


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巨大な蒸気機械。


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整然と並ぶ部品。


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共通規格。


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補給倉庫。


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修理設備。


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教育施設。


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彼らは理解した。


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問題は銃ではない。


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生産能力だった。


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一万丁失っても補充可能。


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部品不足にならない。


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補給が止まらない。


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戦争計画書を書いていた他国参謀達は、


静かに計算を修正する。


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「空覚王国は攻めにくい」


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「勝てても損が大きい」


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それが篤史の望みだった。


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戦争で勝つことではない。


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戦争を始める気を失わせること。


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王妃エレナは尋ねる。


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「怖がらせるためですか?」


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篤史は少し考えた。


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「違います」


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「安心して話し合うためです」


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弱い国は交渉できない。


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脅される。


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利用される。


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奪われる。


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しかし十分な力があれば、


選択肢が生まれる。


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断る自由。


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協力する自由。


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待つ自由。


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それらを守るための力だった。


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数十年後。


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空覚王国は周辺諸国からこう評される。


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「戦争好きな国ではない」


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「だが戦争を仕掛ける相手として最悪の国だ」


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その理由は兵士の勇猛さでも、


将軍の才能でもなかった。


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共通規格。


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保守体制。


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補給能力。


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教育制度。


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そして工業力。


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篤史はその報告を聞いて苦笑する。


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「ようやく伝わったか」


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義肢職人だった頃から、


彼の考えは変わっていない。


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壊れたものを直す。


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そして、


壊れにくくする。


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国家もまた、


一つの大きな機械だったのである。


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