第十七章『蒸気の時代を迎える王』
## 第十七章『蒸気の時代を迎える王』
篤史は南方諸国の報告書を閉じた。
そこには蒸気機関の研究が記されていた。
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だが篤史は知っていた。
蒸気機関そのものより重要なものがある。
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「運用知識だ」
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発明より難しい。
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維持管理。
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安全。
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教育。
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規格。
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これがないと事故だらけになる。
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その夜。
篤史は久しぶりに「本星購入」を行う。
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購入したもの。
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・石炭蒸気車設計図
・蒸気ボイラー保守本
・排気改善技術書
・騒音低減技術書
・振動対策技術書
・石炭採掘技術大全
・坑道安全管理書
・炭鉱換気技術書
・労働災害防止技術書
・森林保全と植林技術書
・鉄道保守技術書
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山のような知識だった。
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翌朝。
王妃エレナが驚く。
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「また本が増えています」
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篤史は苦笑した。
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「今回は国ごと変わるかもしれません」
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## 蒸気技術院設立
まず王国に作ったのは工場ではない。
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学校だった。
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蒸気技術院。
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鍛冶師。
大工。
鉱夫。
職人。
技術者。
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全員を教育する。
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篤史は知っていた。
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技術は人が使う。
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人が育たなければ技術は事故になる。
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## 炭鉱安全法
次に制定された法律。
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炭鉱換気義務。
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避難路二重化。
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坑道地図管理。
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定期点検。
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児童労働制限。
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王国の鉱山主達は驚いた。
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「まだ事故も起きていないのに?」
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篤史は答える。
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「起きてからでは遅い」
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## 植林百年計画
さらに篤史は別の問題を見ていた。
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蒸気時代。
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大量の木材。
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大量の炭。
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結果。
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禿山。
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前世の知識が警鐘を鳴らしていた。
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そこで王命。
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伐採一本。
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植樹三本。
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国有林創設。
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苗木育成所設立。
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山岳管理局創設。
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王宮は驚く。
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「まだ森林は十分あります」
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篤史は首を振る。
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「禿山になってから植えても遅い」
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これはノグランル時代から変わらない。
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問題が起きる前に直す。
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## 蒸気車試験運行
十年後。
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空覚王国初の蒸気車が完成する。
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黒い鉄。
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白い蒸気。
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巨大な車輪。
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人々は驚いた。
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「馬がいない!」
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「煙を吐いている!」
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子供達は大喜びした。
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だが篤史が見ていたのは別だった。
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騒音。
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振動。
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燃費。
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整備性。
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部品交換。
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全て記録する。
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試験運転は三年続いた。
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そして改良。
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また試験。
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また改良。
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その結果。
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事故率が極めて低い蒸気車が完成する。
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## 王国標準蒸気規格
ここで篤史は再び得意分野へ入る。
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規格統一。
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ボルト。
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ナット。
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配管。
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圧力計。
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車輪径。
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全て標準化。
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職人達は笑った。
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「また陛下の規格病だ」
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しかし十年後。
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その規格が王国を支える。
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どの工房でも修理可能。
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どの都市でも保守可能。
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どの炭鉱でも部品供給可能。
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## 二百六十年目の空覚王国
かつて通信塔を作った国は、
今や蒸気の煙を上げていた。
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炭鉱は安全になり。
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森林は維持され。
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道路は広がり。
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物流は何倍にも増える。
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外国の使節は驚く。
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「なぜ蒸気時代なのに混乱が少ない」
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王国の役人は答える。
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「陛下が事故の本を先に読んだからです」
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もちろん本当の意味は誰も知らない。
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篤史は夜、王宮の窓から蒸気車を眺める。
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義肢職人。
王子。
王。
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何度姿が変わっても考え方は同じだった。
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壊れてから直すより、
壊れないようにした方が安い。
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その思想は蒸気の時代になっても変わらず、
空覚王国を次の時代へ押し上げていくのだった。




