第十五章『廃法年』
## 第十五章『廃法年』
篤史は国家健康診断表を眺めていた。
財政は良好。
軍も良好。
人口も回復傾向。
---
だが一つだけ気になる数字があった。
---
法律総数
7,842本
---
篤史は眉をひそめる。
---
「多いな」
---
法務大臣は慌てて答える。
---
「建国以来の積み重ねでございます」
---
篤史は数日かけて調べた。
---
すると妙な法律が出てくる。
---
・狼被害対策法
(狼は絶滅済み)
---
・木製荷車幅規制法
(百年前の道路基準)
---
・鳩通信独占保護法
(通信塔が普及済み)
---
・戦時緊急穀物徴発法
(百二十年間未使用)
---
まだある。
---
誰も廃止していない。
---
理由は簡単だった。
---
法律を作る人はいる。
---
法律を消す人がいない。
---
篤史は笑った。
---
「判子と同じか」
---
そこで新制度を作る。
---
## 廃法年制度
---
十年に一度。
---
国家全体で、
法律
規則
通達
許認可
慣例
を見直す。
---
目的は単純。
---
「今でも必要か?」
---
だけである。
---
---
法務大臣は驚いた。
---
「全部ですか」
---
「全部です」
---
「数千本あります」
---
「だから十年に一度やるんです」
---
---
こうして王国史上初の
廃法年
が始まる。
---
全国の役所。
---
裁判所。
---
軍。
---
商会。
---
教会。
---
全てが参加する。
---
まず三分類。
---
①絶対必要
---
②修正必要
---
③不要
---
---
すると面白いことが起きる。
---
地方役人達が喜び始めた。
---
「この報告書いらなかったのか」
---
「この許可制度まだ残ってたのか」
---
「誰も使ってないぞ」
---
---
十年間積み上がった不満が噴き出した。
---
結果。
---
法律
7,842本
↓
5,103本
---
約三分の一削減。
---
---
さらに驚くことが起きた。
---
行政速度向上。
---
裁判期間短縮。
---
商業許可迅速化。
---
軍補給改善。
---
---
財務大臣が報告する。
---
「歳出が減っています」
---
「なぜです?」
---
篤史は笑う。
---
「不要な仕事が消えたからです」
---
---
王妃エレナも感心した。
---
「法律を増やしたのではなく減らした」
---
「珍しい王ですね」
---
---
篤史は首を振る。
---
「法律は道具です」
---
「道具箱が重すぎると仕事できません」
---
---
その言葉は職人時代の考えそのままだった。
---
壊れた工具は捨てる。
---
使わない工具は倉庫へ。
---
必要な工具だけ手元へ。
---
国家も同じ。
---
---
そして十年後。
---
第二回廃法年。
---
さらに十年後。
---
第三回廃法年。
---
王国は気付く。
---
法律を作る文化よりも、
法律を見直す文化の方が重要だったことに。
---
---
後世の歴史家は記録する。
---
**「篤史王は改革王ではない。」**
---
**「整理王である。」**
---
道路を作った。
軍を強くした。
人口を回復させた。
---
しかし最大の功績は、
---
**『不要になったものを捨てる仕組みを作ったこと』**
---
だった。
---
そして空覚王国では、
十年に一度の廃法年が祭りのように親しまれるようになる。
---
役人達は笑いながらこう言う。
---
「次は十年後だ。」
---
「それまでに余計なものを増やしすぎるなよ。」




