第十四章『統一規格の王』
## 第十四章『統一規格の王』
篤史は軍の報告書を読んでいて、あることに気付いた。
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戦争で死ぬ原因。
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敵だけではない。
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武器の故障。
鎧の不適合。
補給部品不足。
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驚くことに、かなりの割合を占めていた。
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ある騎士は言った。
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「剣の柄が合わない」
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ある兵士は言った。
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「鎧の留め具が違う」
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補給官は頭を抱える。
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「同じ槍なのに部品が違います」
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篤史は昔を思い出した。
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義肢。
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部品が合わなければ修理できない。
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国家も同じだった。
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そこで王命が下る。
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## 空覚王国統一規格令
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全国共通規格制定。
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長さ。
重さ。
体積。
寸法。
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すべて統一。
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そして王都に設置された。
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## 王国標準局
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その中心には、
王国で最も正確な長さを示す棒が置かれた。
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「メートル原器」
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もちろん名前は違う。
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だが概念は同じだった。
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全国の職人がそれを基準にする。
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剣鍛冶。
鎧職人。
大工。
馬車職人。
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全員である。
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最初は反発もあった。
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「うちは三代前からこの寸法だ」
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「地方伝統を壊す気か」
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しかし篤史は強制しなかった。
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代わりに軍需契約の条件にした。
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「統一規格品は優先購入」
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すると職人達が自ら合わせ始めた。
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金になるからだ。
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三年後。
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王国軍の装備は激変した。
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壊れた鎧。
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留め具交換。
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数分。
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昔なら数日。
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補給も変わった。
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槍の穂先。
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どの工房製でも装着可能。
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剣の部品。
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全国共通。
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軍の維持費が大幅に下がった。
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さらに篤史は止まらない。
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## 装備三段階制度
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第一線装備
精鋭部隊用
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第二線装備
守備隊用
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第三線装備
予備兵用
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規格だけは同じ。
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性能だけ違う。
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結果。
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戦争時。
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第三線兵士へ第一線部品を流用できる。
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補給官達は歓喜した。
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「夢みたいだ」
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とまで言った。
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さらに軍改革は続く。
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## 軍教育統一計画
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剣術。
弓術。
槍術。
戦術。
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教本化。
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誰が教えても同じ基礎になる。
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属人的な軍から、
組織的な軍へ変わっていく。
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将軍達は最初反対した。
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「秘伝が失われる」
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しかし篤史は言った。
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「秘伝は残せ」
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「基礎だけ共有しろ」
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これが当たった。
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平均練度が上がる。
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事故が減る。
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訓練期間も短縮される。
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十年後。
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空覚王国軍は周辺国最強クラスになっていた。
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兵士の数ではない。
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補給力。
修理力。
維持力。
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それが圧倒的だった。
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ある外国将軍が視察で言った。
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「なぜこんなに故障が少ない」
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空覚王国の将軍は笑った。
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「部品が合うからです」
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外国将軍は意味が分からなかった。
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しかし篤史は知っていた。
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戦争は英雄だけで勝つものではない。
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兵站。
補給。
修理。
統一規格。
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そういう地味なものが勝敗を決める。
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夜。
王妃エレナが尋ねる。
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「陛下は軍を強くしたいのですか」
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篤史は少し考えた。
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そして答える。
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「違う」
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「弱く見られたくないだけだ」
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戦争をしたいわけではない。
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だが、
戦争を避けるには、
戦争に耐えられる力が必要だった。
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こうして第二十五代国王篤史は、
剣の名手としてではなく、
**『規格を統一した王』**
として歴史に名を残すことになる。
そして後世の軍事学者は語る。
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「空覚王国軍の強さは勇気ではない」
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「交換可能な部品と、交換可能な知識にあった」
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と。




