十一章『篤史王の目覚め』
## 第十一章『篤史王の目覚め』
空覚王国 十代目ノグランルは、その生涯を静かに終えた。
八十三歳。
妻アカセラに見守られながら。
---
最期の言葉は短かった。
「少しは返せただろうか」
---
そして意識は闇へ沈む。
---
次に目を開けた時。
天井が違った。
身体が若い。
手に皺がない。
---
「……?」
---
部屋にいた侍女たちが騒ぎ出す。
「陛下がお目覚めになられました!」
---
そこで初めて理解する。
---
空覚王国
第二十五代国王
篤史
二十歳
---
転生していた。
---
さらに混乱した事実がある。
---
妃がいる。
---
二十二歳。
王妃エレナ。
結婚二年目。
---
篤史は天井を見上げた。
---
「……説明してほしい」
---
しかし説明より先に現実が来た。
---
ドサドサドサドサッ
---
秘書官たちが書類を運んでくる。
---
机の上。
山。
---
横。
山。
---
床。
山。
---
全部決裁書類。
---
「陛下、本日中に必要な案件です」
---
篤史は絶句した。
---
ノグランル時代ですらここまで酷くなかった。
---
百五十年。
---
王国は発展した。
---
通信網もある。
---
教育も広がった。
---
産業も増えた。
---
結果。
---
事務量が爆発した。
---
篤史は数日かけて調査する。
---
原因は明白だった。
---
誰も悪くない。
---
ただ、
「決裁権限が上に集まりすぎた」
---
だけだった。
---
地方役人は判断しない。
---
中央官僚も判断しない。
---
王に回す。
---
結果。
---
王が事務員になる。
---
篤史は頭を抱えた。
---
「これじゃ国王じゃなくて判子係だ」
---
その夜。
ふと昔を思い出す。
---
前世日本。
---
パソコン。
---
表計算。
---
検索。
---
データ整理。
---
そして思い出した。
---
かつて神の発言集を読んだ時。
---
「本星では買ったことになっている」
---
その言葉。
---
もしかすると。
---
まだ使えるのではないか。
---
篤史は試した。
---
王宮地下。
---
誰もいない場所。
---
前世で使ったことがある購入スキル。
---
祈るように発動する。
---
すると。
---
光。
---
そして机の上に現れた。
---
ノートパソコン。
---
事務用ソフト入り。
---
篤史は数秒固まる。
---
「本当に買えた……」
---
しかも電源まで入る。
---
前世日本仕様。
---
表計算。
---
文書管理。
---
検索機能。
---
予定管理。
---
全部入っている。
---
篤史は三日三晩かけて入力した。
---
予算。
---
人口。
---
物流。
---
農業。
---
軍事。
---
教育。
---
全て。
---
そして四日目。
---
結果を見て笑った。
---
「なるほど」
---
「そういうことか」
---
百五十年間。
---
王国は成功していた。
---
しかし成功しすぎた。
---
制度が積み重なりすぎていた。
---
誰も整理していない。
---
まるで修理を続けた義肢。
---
部品が増え続けている。
---
歩ける。
---
だが重い。
---
篤史は久しぶりに昔の感覚を思い出した。
---
義肢職人だった頃。
---
壊れた部分を探す感覚。
---
今度の修理対象は国だった。
---
王妃エレナが尋ねる。
---
「何を見ているのですか?」
---
篤史は画面を閉じる。
---
「王国の健康診断です」
---
「病気なのですか?」
---
篤史は微笑む。
---
「重症ではありません」
---
「ただ少し太りすぎています」
---
エレナには意味が分からない。
---
しかしその日から。
---
第二十五代国王 篤史は。
---
剣でも。
---
魔法でも。
---
軍でもなく。
---
一台の事務用パソコンを武器に。
---
百五十年積み上がった国家の無駄を整理し始める。
---
そして後に歴史家は語る。
---
「第二十五代国王の改革は奇跡だった」
---
だが真実は違う。
---
それは奇跡ではない。
---
昔、義肢職人だった男が。
---
また一つ、
壊れたものを修理し始めただけだった。




