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第7話 猫小僧の排泄哲学

GOGOGO…

空気が重い。危険が集まってる。北千住の空は鉛色だった。ドブの匂いと魚の臓物の腐臭が混じって、肺の奥が ズキッ と抉られる。


「kekekekekeke」

俺は笑った。小せえ笑いだ。喉はカラカラで、音が割れる。さっき通った魚市場の前。あのセクハラ三人組、アグス・スギオノ・アリフが神乳短大のポスター見て鼻血噴いてた場所だ。懐かしいか?違う。胸糞悪い。


「……笑えねえ」


目の前で、ガリガリの子猫が蹴飛ばされていた。

ドカッ!

「邪魔だチビ!」

魚屋の親父が長靴で蹴る。子猫は ミャッ と鳴いて、濡れたアスファルトに転がった。肋骨が浮いてる。目は窪んでる。毛はベタベタで、ドブの水と何かの汁で固まってる。


誰も見ねえ。誰も飯やらねえ。

「人間ってのはな、自分のケツの穴より他人の腹が減ってる方が気にならねえ生き物だ」

俺の哲学第一条。排泄哲学・第一章・人間観察の項。


俺は距離を取った。二十センチ。

「近づいたら食われる。こいつ雑食だ。俺なんかトカゲの刺身だ」

震えながら、壁の染みに擬態して後を追う。


子猫はフラフラ歩く。最初は ニャーン と媚びてた。太陽みたいな顔してた。

だが人間の財布は開かねえ。

顔が変わる。目が死ぬ。口角が下がる。曇天だ。土砂降り五分前。


「ブッッッッ!」

腹の音だ。俺じゃねえ。あいつの腹だ。

あいつはゴミ捨て場に向かった。死臭がする。死の匂いだ。


「バカが。あそこは地獄だぞ」

俺は舌打ちした。心の中でだけ。


ゴミ捨て場は戦場だった。

一番奥にデカいオレンジの塊がいる。野良の茶トラ。傷だらけ。左耳は千切れてる。目はヤクザだ。ゴロゴロ じゃなく グルルル と唸ってる。


ザコ共が群がってる。

左に三毛猫。オレンジ・白・黒。肩書き 修羅場担当。隣のサバトラと毛を毟り合ってる。

右に白黒ブチ。痩せてるが目はイッてる。肩書き リストラ部長。

後ろに白猫。トロい顔だが爪は錆びたカッター。肩書き 天然記念ボケ。


子猫は震えながら進む。茶トラの前に魚の頭。目玉は白く濁ってる。蛆が ウネウネ 動いてる。


茶トラが振り向いた。

「グルァァァァアア!!」

声じゃねえ。地震だ。地面が揺れる。


子猫、漏らした。

しょぼしょぼ…ぷりぷり…

小便と下痢が同時に出た。恐怖の排泄コンボ。 生臭い 匂いが ブワッ と広がる。


「……美しい」

俺は思った。心の中で。

「恐怖と排泄は常にセットだ。Kamichichi崇拝者は便秘になる。恐怖を知らねえからだ。排泄哲学者・ミコ・第一定理」


子猫は逃げた。尻から茶色い水を撒き散らしながら。

俺は溜息をついた。 フーッ。


「弱肉強食。ダーウィンもマルクスも糞喰らえだ。ここにあるのは現実だけだ。強い奴が喰って、弱い奴が漏らす」

「ホモ・サピエンス?笑わせんな。人間はな、脳味噌じゃなくてケツの穴の締まりで進化が決まるんだ」


子猫はゴミの山を漁る。あった。鮭の切り身。いや、切り身だったもの。今は緑色だ。 プーン と死臭。蝿が ブンブン たかってる。蛆のマンション。


迷わず食った。生きるためだ。

「アホがぁぁぁ!!」

俺、叫びそうになった。声帯が無いから心の中で絶叫。


五分後。

子猫の目が グルン ってなった。

「オエェ」

吐いた。胃液と緑のドロドロ。次はケツ。

ビチビチビチィィィ!!

水下痢だ。止まらねえ。脱水コース確定。


「だから言ったろ。『毒を喰らわば皿まで』だよ。喰っちまったもんは仕方ねえ、最後まで喰らえってことだ」

俺は頭を抱えた。ヤモリに頭はねえけど、気分は抱えてる。


雨が降ってきた。 ザァァ。

冷てえ。世界が洗い流される音。神様が ジョボジョボ 立ちションしてる音だ。


「チッ」

俺は動いた。尻尾千切れてて痛え。体は子猫の25%サイズ。だがやるしかねえ。


ズル…ズル…ズル…

子猫の首根っこ咥えて引っ張る。重い。糞重い。俺の体重の四倍ある。

「この糞製造機が!重てえんだよバカ!」


俺は引きずった。段ボールの下へ。ここなら茶トラも来ねえ。


「よし、次は薬草だ」

ロジャリ博士の蔵書・第一二三巻『下痢に効く野草と呪い』を脳内で パラパラ 捲る。

ウコン。ニンニク。抗菌・抗寄生虫。ドブの近くの八百屋に落ちてたはずだ。


ダダダダ

俺、走った。ヤモリの全力疾走。時速0.3km。

雨粒が バチバチ 体に当たる。溺死しそう。


八百屋の隅。あった。ウコンの欠片。ニンニク一粒。口で咥える。苦い。 エグッ。

「配達員ナメんな。闇の出前屋でも俺には勝てねえ」


戻る。子猫は白目剥いてる。 ヒクヒク 痙攣。

「口開けろバカ!」

無理やりウコン突っ込む。ニンニクも。奥歯で グリッ って潰す。

「飲み込め!飲まなきゃケツから突っ込むぞ!」


一時間。 チク…タク…チク…タク…

二時間。雨が止む。

三時間。子猫の腹の グルル が止まった。


目が パチッ って開いた。俺を見た。


「……え、化け物……?」

「うるせえ。喋れるなら生きてる証拠だ。俺はヤマトの兄ちゃんみてえに命懸けでウコン配達したんだぞ」


俺は盗んできた。魚屋のスギオノの店先から。イワシ三匹。まだ目が キラッ としてるやつ。頬の青アザがまだ生々しいあのジジイの店だ。


「食え。お前、寄生虫と握手したんだ。栄養取れ」


子猫は泣いた。 ポロポロ 涙が落ちる。

「お前……なんで……他の猫は皆いじめるのに……」


「知るか」

俺はそっぽ向いた。照れじゃねえ。食われそうで怖えんだ。

「ロジャリ博士の教えだ。『弱きを助け、糞をせよ』ってな。後半は俺が付け足した」


「ワン!」

子猫、飛びついてきた。

「グエッ」

首絞まった。舌で ベロベロ 舐められる。

「うおおお!やめろ!唾液まみれになる!俺がメスだったらセクハラで訴えるぞ!」

「違う!ありがとうなの!」

「知ってるわ!でも距離感バグってんだよお前!」


「名前……ナナ。ママが付けてくれたの。車に……轢かれて……」

ナナが俯く。


「ミコ」

俺は短く名乗った。

「明日、ロジャリ博士の研究所に行く。お前はもう大丈夫だ。ここで野垂れ死ね」


「ヤダ!」

ナナが ギュッ って抱きつく。

「一人なの。皆いじめる。ミコだけ優しいの。一緒に行く!」


「はあぁ!?」

俺の脳内CPUが ジジジ って焼き切れた。

「聞けよ。ロジャリ博士の研究所へ行く道はコンビニに行くようなもんじゃねえ。障害だらけだ。トラックに轢かれて異世界転生する方がまだ楽なレベルだ。命の保証はねえ。あの傷だらけの茶トラのヤクザ猫よりヤバいボスが出るかもしれねえんだ。分かるか?お前を連れてくのは足手まといだ。お前、死ぬぞ」


「でも……」

ナナ、目が うるうる。必殺・子猫光線。


「……チッ」

俺は舌打ちした。心の中で。

「いいか、寝ろ。明日のことは明日考える。だが約束はしねえ。お前が死んでも葬式は出さねえ。墓標は俺の糞で終わりだ」


「……うん」


その夜、段ボールの中で。

北千住は雨上がりで ジー… ってネオンが鳴ってた。市場は二十四時間うるせえ。

俺とナナは寄り添って寝た。

温けえ。臭え。だが、一瞬だけ、平和だった。


「……排泄哲学・第二章・別れ」

「最高の糞ってのはな、未練なしで落とすもんだ。約束も同じだ。守れねえなら、最初から口にすんな」

俺は目を閉じた。


コケコッコー!

市場の軍鶏の鳴き声。夜明けだ。


俺は起きた。 キョロキョロ。

冷たい。段ボールの隣が……空だ。

ナナがいない。


「……は?」


心臓が ドクン。これは恋じゃねえ。糞みたいな予感だ。

俺は段ボールから這い出た。生臭い風が ブワッ と鼻を突く。


路地の奥、スギオノ爺さんの魚屋の前が騒がしい。爺さんの頬にはまだ青い痣。

市場のゴロツキ共が群がってる。

真ん中にナナ。引きずられてる。震えてる。


ボスが出てきた。茶トラ。デカい。顔から顎まで傷。体は刑務所で十年ベンチプレスしたみてえな筋肉。

奴は前足を上げた。 シャキン。

爪が出る。長い。曲がってる。錆びてる。まるでドンキの三百円ウルヴァリンだ。


「ニャ。」声が重い。アスファルトをローラーで踏むみてえな声だ。

「お前、新入りだな。ショバ代だ。生きたきゃ魚取ってこい。新鮮なやつ。あのスギオノ爺さんとこからよ」

奴は爪で指した。爪の先が ヌラッ と朝日に光る。


ナナは泣いてる。 うるうる。「で、でも……」

「でもじゃねえよ。この爪でお前のタマ潰すぞ」

ドゴッ! ザコの三毛猫がナナを殴った。転がる。


「おいナナ」俺は囁いた。だが遠すぎる。聞こえねえ。

「……」

千切れた尻尾の断面が ズキズキ 疼く。傷じゃねえ。怒りだ。


「……糞ったれが」

俺は呟いた。初めてだ。哲学じゃなく、誰かのために怒ったのは。

「排泄哲学・第二章・糞ったれ共への宣戦布告」


俺の手には何もねえ。俺は弱いトカゲだ。だがこの脳味噌には、人間を三日三晩下痢にさせる方法が千通り入ってる。


遠くで、スギオノの足音が聞こえた。 バタバタ。出刃包丁を手にしてる。


第7話、公開しました。


ご安心ください、作者はまだ日給250円で生きてます。はははは。


この話は、うちの庭に勝手に糞をしていく野良猫から着想を得ました。

毎朝起きると、寝ている間に奴が荒らしたゴミ置き場を片付けるのが日課です。

残飯を漁った後、忘れずに「痕跡」として糞を残していくんです。

まったく、私が作った「排泄哲学」にぴったりですよね。ははは。


ちなみに私は動物が大好きです。特に猫と犬が。

でも、子供の頃に野良犬に追いかけられて以来、少しトラウマでして……犬は中型犬までなら大丈夫です。

正直、今でも大きな犬は怖い。

昔、学校を卒業して初めて仕事に就いた頃、子犬を一匹飼っていました。可愛い奴でした。

でも、ある日いなくなってしまって……ここでは迷子の動物を探すのはとても難しいんです。

どうか、優しい飼い主に拾われていますように。

迷子の犬どころか、この国では盗まれたバイクを探すのさえ一苦労なんです。

そういえば、そのうち「法律」に関する話も書こうと思っています。お楽しみに。

別に政治の話をしたいわけじゃないんです。これはただの、私のボヤキです。


本当はまた猫を飼いたいんです。

でも、今の私には、一杯のカップ麺を二匹で分け合う余裕がない。

二人とも栄養失調になってしまう。はははは。


でも大丈夫です。皆さんからの「ブックマーク」「★評価」「コメント」が、動物を飼えない私の、孤独な心の友達になってくれます。


お願いです。画面下のボタンを押してください。作者、本当に嬉しいです。

あなたのブックマークが、作者をこの孤独から救う最初の一歩になります。


では、第8話でお会いしましょう。

ブックマーク、よろしくお願いします!

Trowy-San

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