第11話:小菅刑務所と、ツキだけ弁護士
「ただいま、エンプリトくん」
スズカがそう言って、壁から何かを引き抜いた。
「この鋼鉄嘴のバカツバメ!」マオゼウが毒づく。
ポンッ!スズカが壁から引き抜いたのは、音速で突っ込んできたエンプリトの頭だった。くちばしだけが、鈍く銀色に光っている。
「やべえよ、スズカ!ロジャリ先生を見つけた。東京拘置所の小菅だ」
エンプリト——ロジャリが作った突然変異のツバメだ。鋼鉄の嘴と音速の翼を持つ——が報告する。「看守が油断する度に、運動場の穴を覗いてたんだ。そしたらロジャリ先生が日光浴しててよ!」
「チッ、リチャードの仕業に決まってる!ハーバードの一件から全然懲りてねえ」アキオが証拠もなしに吐き捨てた。
「絶対に警察に金握らせて、この件をテレビに出さないようにしてやがる」アキオはさらに苛立った。
弾丸で滅茶苦茶になった実験室に、しん、と静寂が落ちる。怒りの気配が渦巻いていた。誰もがロジャリ先生を刑務所から救い出したいのだ。
ガチャッ!外から扉が開く音がした。
「よお!」
場の静寂を破って、クールな初老の男が現れた。口からは煙草の煙がゆらゆらと立ち上る。
「なんだ、みんな黙りこくって?」男は部屋を見回しながら気楽に尋ねた。
「スズカ、十万円貸してくれ」男は唐突にスズカに言った。
「ごめんね、デニスさん。この間のお金もまだ返してもらってないし、へへ」スズカは柔らかく断った。男の名は福・デニス。職業、ツキだけ弁護士とギャンブル依存症。
「ならアキオ……」デニスの言葉は途中で遮られた。
「いやだ!どうせまた賭けでスッたんだろ!ふざけんな、このジジイ!」アキオが怒鳴る。
「いつもは依頼人の事件に勝ったら返してるだろ」デニスはアキオの顔面に、ふう、と煙を吹きかけた。
「チッ!道理でいつまで経ってもモテないわけだ」デニスは侮蔑の笑みを浮かべて皮肉った。
「お前ってやつは……」アキオが詰め寄ろうとすると、スズカがその動きを止めた。「落ち着いて、アキオさん」
「で、ロジャリ先生の新しい情報は?」デニスは煙草を深く吸い込みながら聞いた。
「小菅の東京拘置所で見たって」エンプリトが繰り返す。
「ほう、拘留されてるのか。よし、俺に任せろ。おい新入り、俺と来い!ロジャリ先生を出所させるぞ」デニスはミコを鋭く見据えて誘った。
「アキオは留守番だ。スズカは借りていく」
「え、私も行くの?」スズカはきょとんと周りを見回した。
実験台の隅で、ミコは黙っていた。
『363756999……地下室の番号……今じゃない。まずは先生を助けるんだ』
[第11話 設定メモ]
エンプリト:ロジャリ製の突然変異ツバメ。鋼鉄嘴+音速。第十話の「生体弾丸」の正体。
福・デニス:ツキだけで生きてる弁護士。借金まみれだが、ロジャリを合法的に出す鍵。
リチャード:ハーバード時代からのロジャリの宿敵。今回の黒幕。
ミコ:「新入り」兼「相続人」。デニスが連れて行く理由。363756999の伏線も回収済み。




