今日も幸せ。多分明日も幸せだろうっ!
さて、世界平和秩序化協会の乱入によってケチが付いた『べろんべろん祭』であったが、まぁ、殆どの人たちは何が起きたのかすら気づかずに相変わらず酔っ払っていた。
そしてひのアクシデントにより各地区が奉納するはずだったロケットを全て使い切ってしまった『べろんべろん祭』は早くも最終イベントへと突入する。
そのイベントとは我こそはと名乗りを挙げた酒豪たちとべろんべろん神との飲み比べだ。ただ、べろんべろん神自身が降臨するとその凄まじい存在感から色々と影響が出てしまうので、代理として巫女が相手をする事になっている。
「にょほほほほっ!酒に関して我こそはと思う者は前に出よっ!いざ、尋常に勝負っ!」
この巫女からの挑発に、全国各地から集まった酒豪たちがグラウンドに下りてきた。そんな彼らに向かって巫女は上からの態度で次のように告げた。
「よろしい、我に挑むとは中々剛の者よ。だが、意気込みだけでは勝負にはならぬ。特に昨今は出オチ狙いの動画配信者とかがおるらしいからな。なのでまずは利き酒をして貰う。そう、真の飲兵衛とはただ量を飲むだけでは駄目なのじゃ。酒を愛し、深く理解しておらねば本物とは言えぬのである。」
巫女の言葉に多くの挑戦者たちはもっともだと頷いた。だが、数人だけは勢いでこの場に降りてみたものの、これはもしかしたらガチの勝負なのか?と今更ながらに気づき青ざめている。
しかしもう後戻りは出来ない。何故ならば酒飲みのフィールドは神聖且つ真剣勝負の場だからだ。なのでここで、やっぱり止めま~す、などと軽く口にしようものなら忽ち制裁の鉄拳がとんでくるのだ。
戻れば鉄拳、さりとて前に進めば急性アルコール中毒確定なこの状況に、勢いだけでこの場に降りてみた者たちは自身の愚かさに身を震わせ立ちすくむしかなかった。
とは言え、そのような者は数人である。殆どの者たちは自分が負けるなどとこれっぽっちも思っていない剛の者たちだ。
とは言え東北地方と九州地方から来た者たちは既にかなり酒が入っているようだ。それでも尚、酒を飲もうというのだからこれは巫女とて侮れないのではないだろうか?
だが、それは杞憂に終わった。何故ならばそれらの者たちの内、半数くらいは予選である利き酒会で脱落したからである。
まぁ、確かにあれだけ酔っ払っていては酒の風味も判らなくなっていてもおかしくない。
酷いやつだと焼酎の麦茶割りを、その見た目からウイスキーだと言う者までいたくらいだ。
ただ、これに関してはツーフィンガーショットグラスというウイスキーを注ぐ用に作られたグラスにて提供されたが故というところも大きい。
つまり雰囲気に騙されたのだ。まぁ、これはある意味引っ掛け問題ではあったのだが、飲めば普通は気づくよな?
しかしそんな半端者and飲み過ぎ野郎が脱落しまくった後に残った者たちは真の酒飲みたちである。
かくして『巫女and酒豪たち』による地獄の飲み比べ大会の火蓋が今切られたのであったっ!
「それではこれより本神事の余興として『巫女and酒豪たち』による地獄の飲み比べ大会を開催します。まず最初の競技は『飲んで走ってべろんべろん』であります。これはグラウンド外周に準備された全周400mのオーバルコースを5周する競技です。但しコース上には50m毎に補給所が設けられており、そこでは世界各地のおちゃけが参加人数-1人分、用意されています。勿論それを取らずに走りきっても構いませんが、それが出来ないのが酒飲みというものでしょう。それでは皆さんスタートラインにお並びください。」
アナウンス譲の言葉に促されて巫女と酒豪たちはオーバルコースのスタートラインに並び出した。そして彼ら全員の視線は、まず50m先の補給所に用意されている500ml入りの缶ビールに注がれている。
何故ならば用意された缶ビールは参加者の数より1本だけ少なかったからである。つまりビリはおちゃけが飲めないのだっ!
おちゃけを飲む為にエントリーしたのにビリになると飲めないっ!酒飲みたちにとってこれ程厳しいルールはあるであろうか?否、ないっ!
そうっ!酒飲みたちにとって人生とはおちゃけを飲む事なのだ。おちゃけを飲みたいからこそ、毎日働いているのである。
なのにビリになったらおちゃけが飲めないだと?そんな理不尽がまかり通っては世も末であるっ!
因みにこれらの説明はわざと論点を外してあります。そう、飲める飲めないの前に、そんなに酔っ払っているのに走ったりしたらゲロを吐くぞっ!
だが、それでもおちゃけを前にすると理性がぶっ飛んでしまうのが酒飲みなのだろう。
さて、この飲み比べでは全周400mのオーバルコースを5周する。そしてそのコース上には50m毎に補給所が設けられていた。
だが補給所に用意されているのは水ではなく様々なおちゃけだ。但しその数はコース上を走っている参加者数-1に設定されている。
仮に途中で棄権者が出た場合は用意されるおちゃけの数も減らされる。そう、この飲み比べレースとは、ビリはいつまで経ってもおちゃけが飲めないという無情なサドンデスレースなのだっ!
因みに巫女よりも先にゴールした者は特典として1年分のおちゃけが毎月分割して届けられるらしい。
ただ、この1年間分という量は、この飲み比べレースで飲んだ量から計算される為、多く飲んでおけばそれだけ贈られてくるおちゃけの量も多くなるという、酒飲みの欲望を沸き立たせる仕様になっていた。
なので補給所を無視して巫女よりも早くゴールすればタダで1年間分のおちゃけは手に入る。だからといって、全ての補給所を無視しては贈られる酒の量を計算する時のベースとなる酒量が『0』なので、当然贈られてくるおちゃけも『0』となる。
だが、巫女より遅れてゴールした場合は特典が貰えない。つまり、このレースの行方は巫女がどう動くかで変わってくるのだ。
因みに巫女にもちゃんとペナルティが用意されていて、巫女のゴール順位が全参加者数の半分より下だと、この神事を最後に巫女の座を罷免される事になっている。
つまり巫女とてだらだらと飲んでいるわけにはいかないのだ。とは言ってもこの巫女が補給所のタダ酒をスルー出来るとは思えない。
そう、この飲み比べは酒飲み特有の目の前にあるおちゃけには抗えないという心理状況を上手に天秤に掛け、誰しもが抜け駆けできないようになっていたのである。
まぁ、下戸の人ならば全員が示し合わせて各自が最大の対価を得られる全うな解を提示してくるだろうが、それは卓上の空論だ。
人間の集団において、そんなきれい事はあり得ないのである。何故ならば誰しも欲望には逆らえないからだ。
そしてとうとう決戦の火蓋は切られた。
どか~んっ!
号砲と共に参加者たちは一斉に50m先の補給所めがけて全力で走り出した。いや、何人かは周りを見ながらチカラをセーブしている。
おーっ、アホばかりかと思っていたらちゃんと戦略を練って参加している者もいたんだな。
つまりこいつらの戦略は次のようなものだろう。
我先にと先頭を切るやつらは数回のおちゃけ補給で潰れるはず。何故ならば飲酒をしながらハードな運動をすると血液中にアルコールが浸透しやすいらしいからだ。
なのでやつらはその徹を踏まないように、かと言ってビリにはならないように警戒しながら走り、尚且つ巫女の前でゴールしようと目論んでいるらしい。
そうすればビリ以外ならばおちゃけは飲めるし、副賞としての1年間タダ酒三昧も堪能出来ると言う訳だ。
そう、彼らが基準としているのは巫女である。巫女さえマークしておけば結果として1年間タダ酒が飲めるのである。そして巫女はどう贔屓目に見ても走るのが得意なようには見えなかったのだ。
だが、ここで彼らにとって予想外のアクシデントが発生した。なんと補給所に到達した巫女は、がばっと両手に缶ビールを掴み取るとその両方をグビグビと飲み始めたのだっ!
えーと、確かにルールには飲めるおちゃけはひとり一本『だけ』とは明記されていないが、普通はやらないよな?
だってこれはレースなんだぞ?目の前のおちゃけに目が眩んでそんな事をしたら後々に得られるはずの権利を失いかねないんだぞ?
だが、やっぱり酒飲みに理屈は通じないらしい。なので結構な数の先着参加者も両手飲みをしていた。
このアクシデントにより後方にて様子を伺っていた結構な数の者たちは補給所にておちゃけが飲めないという事態となった。
この事は後方で様子見をしていた集団に計り知れないプレッシャーを掛けた。なので彼らはそれならばと補給所をスルーし、次の補給所に一番乗りして全部飲み干してやるとばかりに最大戦速で駆け出した。
そう、アクジデントの前には事前の緻密な計画など意味をなさないのである。そもそもこのレースは飲み比べである。
なのに一滴も飲まずにゴールするなど酒飲みの矜持が許さないのであった。
なので参加者たちは補給所の間を殆ど全力疾走して、到着するや否や両手飲みをし、飲んでは走るをくり返した。
その結果、半数以上が途中でぶっ倒れた。特に300m地点の補給所にて提供されたキンキンに冷やされたウオッカはかなり効いた。
なんせウオッカは見た目が無色透明なので、走ってきた者たちは水と勘違いして一気にガブ飲みしてしまったのだ。
しかも今回用意されたウオッカはアルコール度数96を誇るポーランド産の『スピリタス』だったのである。
ごくご・・きゅ?きゅきゅきゅ?・・、かぁーっ!
喉を下り落ちるウオッカが、その96度という狂気のようなアルコール度数にて参加者たちの喉を焼いた。
また、次の350m地点の補給所で提供された南米原産のテキーラも容赦なく参加者たちの喉を焼く。
いや、ウオッカとテキーラは、どちらも本来はショットで飲むものなのだ。もしくはトニックウォーターで割って飲むのが普通である。
なので本来一気飲みなどする方が悪いのだが、何故か酒飲みは量を飲む事を誇るのだから始末に終えない。
結果、半数以上が脱落した。だが残った者たちは全て巫女よりも早くゴールしたので副賞である1年間タダ酒三昧の権利を手に入れたのであった。
因みに何故残った者たちが全員巫女より早くゴールできたのかと言うと、5週目の最終補給所にて提供されたおちゃけがマッカランの12年ものだったからだ。
そう、巫女はこのおちゃけに目がなかったのである。なので巫女はその場に釘付けとなり、参加者たちはその隙に全員が巫女を追い越してゴールしたのである。
もっとも参加者の半分以上が棄権した事により、巫女はビリでゴールしても巫女の座を罷免される事はなかったので、これ即ちwin-winという事だ。
因みにこの飲み比べて一番量を飲んだのは断トツで巫女だった。いやはや、あの小さな体の何処にそんなにアルコールが入る余地があるのだろう?
全くもって、酒飲みというものは不思議な生き物である。




