ガッテムっ!スパイがお神酒を中性子爆弾にすり替えただと?
さて、順調に奉納ロケットの打ち上げは進み、今度は織田地区の番となった。その事をアナウンス譲が伝える。
「続きまして、エントリーナンバー22番。織田地区奉納ロケット。協賛国は中国で、ロケット名称は長征。お神酒は白酒 (バイジュウ)です。それではカウントダウン開始っ!」
だが、何故か放送はそこで中断した。そして割り込むように別の声がスピーカーから流れ出す。
「我々は世界平和秩序化協会だ。織田地区の奉納ロケットは我々がコントロールを奪った。更に弾頭は白酒 (バイジュウ)から中性子爆弾にすり替えてある。」
「おーっ!」パチパチパチ
お酒が回って頭が働かなくなった観客たちは世界平和秩序化協会の放送を何か別のイベントが始まったと勘違いしたのか歓声と拍手にて歓迎した。
だが、『べろんべろん祭』の実行委員たちと織田地区の氏子たちは大慌てである。しかし地区民に扮して紛れ込んでいた世界平和秩序化協会の武装エージェントたちに阻まれて奉納ロケットに近づく事すらできない。
そんな状況の中、世界平和秩序化協会は犯行声明文を読み始めた。
「我々は世界平和秩序化協会だ。そして昨今の米露による無秩序な武力による弾圧を糾弾する正義の使徒である。その手始めとして我々はこの神の名を騙り、酒などを偶像し崇拝する穢れた神事を止めさせるべく神の名の下、イカヅチをもって人々にしろしめす事にした。」
「おーっ!」パチパチパチ
何か難しい事を言っているなと思いつつも観客たちはノリで合いの手を入れてくる。まぁ、酔っ払いとはそうゆうものなのだろう。
と言うか先の説明で神事を邪魔しようとしているのは地球から16万8千光年彼方にある大マゼラン銀河帝国から地球を侵略する為に送り込まれた悪の組織『まお~ん』と言っていたはずなのだが?もしかして世界平和秩序化協会は『まお~ん』の下部組織なのか?
「但し神はおっしゃった。最後に改心の時を与える。下々の者たちよ、大マゼラン銀河帝国の治世の下にこれまでの行いを改めよっ!されば許されんっ!」
「おーっ!」パチパチパチ
あーっ、やっぱり黒幕は悪の組織『まお~ん』なんだな。そして相変わらず酔っ払いたちは状況を理解していない。
その反応に世界平和秩序化協会の者は苛立つ。いや、この程度で苛立っていては統治など出来ないのだが?
義を持って話せばみんな判ってくれるなどと言うのは世間知らずの理想主義者たちの幻想だ。人々を動かす一番手っ取り早い方法は『パンとサーカス』だという事を知らんのか?
まぁ、『まお~ん』は人類ではないからそこら辺のやり方が違うのかも知れない。だが、実行部隊である世界平和秩序化協会の者たちは人類だったので、あっさりと最終手段に打って出た。
そう、まずは『見せしめ』が必要と言う事で、中性子爆弾を積んだ奉納ロケットを発射したのであるっ!
いや、世界平和秩序化協会の者たちよ。その中性子爆弾の威力がどれくらいなのか判らないが、お前らもこの会場にいるんだろう?だとしたらお前らも中性子のシャワーを浴びるんじゃないのか?
えっ、義の為に死ぬのは『殉教』だから躊躇いは無い?あーっ、そっち系の洗脳がされているのかぁ。だとしたら説得は出来ないね。
しかしそんな危機的状況にも関わらず観客たちは相変わらず飲めや歌えやの大宴会だ。まぁ、一部の者たちはこの状況を理解して逃げ出そうとしていたが、既にロケットは打ち上げられている。
多分後数秒で中性子爆弾は爆発するはずだ。そして中性子爆弾は通常の爆弾と違いその威力は『圧力波』ではなく『中性子のシャワー』だ。
そして電荷を持たない中性子の貫通能力は非常に高く、コンクリートの壁や鉄板の陰に隠れてもあまり意味が無い。
ましてや野ざらし状態では、10km、20km離れても全然安全ではない。まぁ、途中に山とかを挟めば、中性子もかなり減衰するが長いスパンで考えると人体が被る影響は計り知れないものがある。
なので今から逃げ出しても手遅れなのだ。だが、ここは神様を崇め奉る神事の場だ。そして基本神様は『全能』である。
とは言え、ここで神様のチカラを全開にされると逆にそのあまりにも絶大過ぎるパワーで中性子爆弾が爆発した以上の被害が出てしまう。
なので神様は巫女に何とかしろと命じられた。それに対して既におちゃけを飲んでべろんべろんになっていた巫女は渋い顔をする。
とは言えここで神様のご機嫌を損ねてはタダ酒飲み放題な巫女の地位を剥奪されてしまいかねない。
故に巫女は面倒だなぁと思いつつもやおら上昇を続ける長征ロケットを見上げながら指をパチンと鳴らした。
すると、それを合図とばかりに打ち上げの順番を待っていた残りの地区のロケットたちが全基一斉に爆音を響かせて長征ロケットの後を追い始めた。
そして中性子爆弾が爆発するより前に爆弾を取り囲むと、搭載していたおちゃけを中性子爆弾の周りにぶちまけた。
どか~んっ!
おちゃけの瀑布の中で中性子爆弾が爆発する。だがその爆発で発生した中性子はその全てが悉くおちゃけの水幕に吸収されてしまい地上に到達する事はなかった。
そう、確かに水は結構効率よく中性子も含めた放射線を遮断するのだ。だから原子力発電所などでは核燃料棒を水で満たしたプールの中に沈めて管理するのである。
まぁ、それでもリアルな話をすれば、今回のおちゃけの瀑布程度の濃度では全然量が足りないし、そもそも爆発時の圧力波でおちゃけは吹き飛んでしまうはずなのだが、そこは神様の加護があるお神酒である。
なので中性子だけではなく、爆弾自体の爆発圧力すら外部に影響を及ぼす事が出来なかったらしい。
そう、神の名を騙る者たちの所業は所詮はパチもんであり、本物の神様の前では吹けば飛ぶような軽いものでしかなかったのだ。
かくして突然降って湧いた核爆弾テロも、その幕切れはあっけないものだった。あまりにもあっけなさすぎてニュースにもならなかった程である。
そう、世は押し並べて平和だったのだ。いや、一部では相変わらず争いが頻発しているが、少なくとも『べろんべろん神様』のテオトリーでは、みんな安心して暮らしているのである。
信じる者は救われるとは宗教における決まり文句だが、それがリアルに実感できるのがこの地だったのであった。




