天空の城『アポロニア』
「大丈夫っ!だってこの世で一番強いのはねずみの若者だからっ!そもそも太陽なんて雲には勝てない事になっているんだからっ!」
「その例えだと、雲は風に負けちゃうんですけどね。まっ、いいです。では今回の会議は太陽さんが議長なので会場はM79星雲のルミナス星です。なので改造したH-33ロケットに乗って行って下さい。」
「いつの間にか日本の打ち上げロケットの番号が増えていた・・。と言うか、ダウトっ!なんで太陽さんがわざわざ地球から1千600光年も離れた場所を会場にするのよっ!リアリティがなさすぎだわっ!」
「えーと、少しだけSF要素も入れようかなぁと思って。まっ、本当は富士山の上空に用意した天空の城『アポロニア』で開催されます。乗り物として航空戦艦『ゴリアテ』を用意しましたからそれに乗って行って下さい。」
「微妙になにかをパクっている気がする・・。」
「気のせいです。艦内にはちゃんとおちゃけとおつまみも用意してありますから会議が終わったら各担当者を招待して宴会を催して親睦を深めてくださいね。なんと言っても恋菜様は今回が初めての定例会議デビューなのですから。」
「わーい、おちゃけが飲めるぞぉ~。えーと、カラオケもあるのかしら?」
「ありますけど著作権が面倒なので表立っては歌わないで下さいね。まっ、鼻歌くらいだったら誤魔化せますけど、歌の歌詞に関しては『君子危うきに近寄らず』です。」
「むーっ、私の十八番である『日本全国酒飲み音頭』を披露できないのは残念だけど仕方ないか。」
「また、随分古い歌を持ってきましたね。因みに『安来節』は著作権が切れていますので歌っても大丈夫ですよ。」
「へぇ~、なら『黒田節』は?」
「『黒田節』も今はパブリックドメインなので著作権は存在しません。」
「河島英五さんの『酒と泪と男と女』は?」
「河島英五さんは2001年に亡くなられていますが、歌の著作権は権利者が亡くなられてからも70年は保護されますから継続中です。」
「そうなんだ。まっ、いいわ。ならば私のオリジナル曲でもてなすから。それじゃ行ってきま~すっ!」
そう言って恋菜はポチが用意した航空戦艦『ゴリアテ』に向かって雲の上を走り出した。そんな恋菜を見送りながらポチはぼつんと呟く
「オリジナル曲を持っているんだ・・。ある意味すごいな。でも酔っ払いの歌って壊れたレコーダーみたいにリフレインしまくるからなぁ。まぁいいか、どうせ相手も酔っ払っているはずだし。」
そう言うとポチは束の間の休息を取るべく安楽椅子に腰掛けてSF本を読み出したのだった。
で、その後初めての会議をなんとかそつ無くこなした恋菜は、ぽっちに言われたとおりに親睦会と称して各担当者をゴリアテに招待した。まぁ親睦会と言ってもその実体は宴会だ。
そして他の担当者たちも別段おちゃけは嫌いで無いらしく、恋菜の誘いを快く受けゴリアテの上面甲板にて宴会が始まった。
「えーっ、それではまだ駆け出しの新人ではありますが、この会合の主催者として皆さまにご挨拶と自己紹介をさせて頂きたいと存じます。」
そう言って始まった恋菜の挨拶を出席者たちはおちゃけを注がれたグラスを片手にそわそわしながら聞いている。
そう、この場合、長ったらしい挨拶は印象を損なうのだ。何故ならばみんなは早くおちゃけを飲みたいのだから。
そして恋菜もそれはこれまでの仕事で経験済みなので彼女のスピーチは1分ほどで終わり、プログラムはたちまち乾杯へと進んだ。
「それでは皆さまのこれからのご健勝と更なるご活躍を祈願して、乾杯っ!」
「おーっ!」
恋菜の音頭に併せてその場にいる者たちがグラスを高々と掲げて応じる。その後、一気にグラスの中身を飲み干すと、そこからは無礼講となった。
因みにこの宴会の出席者は先に言った『太陽』『海水』『大気』『地形』などの気候担当者だけでなく、富士山や信濃川などの土地神様たちも招待されており、その総数は八百万 (やおよろず)に達した。
もっともそれらの神々は各々ゴリアテの周囲に陣取り勝手に楽しんでいるので別に恋菜が気にかける必要はなかった。
おちゃけやつまみの補充も神々が連れて来たしもべたちが行なうので手間もかからない。つまり神様たちはおちゃけを飲む切っ掛け、または口実が欲しかっただけなのだろう。
とは言え、主催者としては常に場を盛り上げる事を忘れてはいけない。なので恋菜はポチから渡された宴会芸一覧表の中から『花火』の打ち上げを選択し、ゴリアテの艦長に指示を出した。
「艦長、まずは景気付けとして皆さまにこの航空戦艦『ゴリアテ』の主砲の威力を堪能して貰いましょう。まぁ、天空の城『アポロニア』の高出力熱線砲『アポロニアの雷』と比べたら見劣りするかも知れないけど、そこは演出でカバーして頂戴。」
「はっ、了解致しましたっ!」
艦長はそう言って恋菜に敬礼を返すと艦の戦闘指揮所に繋がっている伝声管に向かって予め予定していた祝砲を撃ち上げろと命令を下した。
その命令に対してゴリアテに装備されている4基の46cm3連装砲が砲の仰角を目一杯上に向け始める。
そして艦長の撃ち方始めっ!の号令により一斉射撃が始まった。
どか~んっ!ビリビリビリっ!
合計12門にもなる主砲の一斉射撃により、ゴリアテの上層甲板の空気はビリビリと震え、その衝撃波にてゴリアテの近くに陣取っていた神々がコロコロと吹き飛ばされた。
これが人間だったら鼓膜は破れ、眼球なとが飛び出すなどの影響が出るはずなのだが、そこは神様たちなので次の瞬間には何事もなかったかのように元の場所に戻り、この粋?な手荒い歓迎に喝采をもって応えたのだった。
因みに人間界での祝砲は何門か用意された大砲を1門につき1発づつ次々と発射して合計24発続けるのが最上級の礼とされている。
だが、コリアテの砲撃はあくまでアトラクションなので派手さを狙って12門同時の一斉射撃が続いた。
そのせいで数回繰り返されただけで周囲は発射時の硝煙で視界が利かなくなるほど煙が立ち込めた。だが、そこは自然現象を操る者たちが集まって会場なので、風の担当者がごにょごにょと呪文を唱えると忽ち風が発生し、あっという間に垂れ込める硝煙を吹き飛ばした。
しかしここでアクシデントが発生した。なんと会場としていた天空の城『アポロニア』から続々と飛翔ロボット兵が飛び立ち、ゴリアテを攻撃し始めたのだ。
そう、天空の城『アポロニア』にはここで宴会をすると事前に伝えてあったのだが、祝砲の事までは言ってなかったのだ。
なので天空の城『アポロニア』の自動防衛システムが作動してしまい、ゴリアテを排除すべくロボット兵が送り出されてしまったのである。
その光景を見て恋菜は狼狽する。そう、恋菜の中では某アニメ映画の影響でゴリアテは無数のロボットにボコボコにされて海上に墜落するイメージがあったのである。
だが、そのイメージの元となった映画と違い、今回恋菜が乗っている航空戦艦『ゴリアテ』は主役側の艦艇である。つまり宇宙戦艦『ヤマト』的ポジシヨンだ。なので撃沈される事などあり得ないのである。
実際、飛翔ロボット兵の出現に対しても艦長は冷静に対処した。
「対空戦闘準備っ!但し88ミリ砲の砲弾からは信管を外せっ!準備が整った砲より各個自由射撃っ!」
この命令により88ミリ対空砲は対応に追われ射撃開始が遅れたが、他の40ミリ機関砲などはレーダー照準と高速コンピュータを駆使して的確にロボット兵の未来位置を割り出し片っ端から命中弾を送り込んでいた。
しかしロボット兵も負けてはいない。ロボット兵たちはゴリアテの兵器配置において防御が薄い下部を集中的に攻撃し始めたのだ。
そう、航空戦艦『ゴリアテ』は空を飛ぶくせに、海に浮かぶ戦闘艦のように、その装備する兵器類は全て上部に集中していたのだ。
ピカっ!ぶ~んっ!
何機ものロボット兵が、その頭部とおもしき箇所から赤いビームをゴリアテの下部に放つ。このビームは強力で、厚さ十数センチの鉄製の扉ですら一刀両断にする威力があった。
因みに便宜上ビームの色を赤いと表現したが、実際には横から見た場合ビーム自身は視認できません。
但し雲などが途中に存在するとビームが若干乱反射してビームの航跡が見える場合があります。
これはアルコール蒸気を満たした箱の中に放射性物質を置いておくと、放射線が発生した時にその航跡上にアルコールの霧が発生して結果的に放射線の発生を視覚出来るのと似た原理です。
だが、そんなすごいビームが命中したにも関わらず、ゴリアテは殆どダメージを受けていなかった。
その理由はゴリアテの艦体に施されていた『テフロン加工』がビームを跳ね返してしまったからだ。
いや、実際に艦体に施されていたのは『テフロン』ではなく、通常でも反射率98.5%を誇る銀に希少金属『魔石』を融合させて反射率を99.99・・%、つまり小数点以下11桁まで高めた、『イレブンナインシルバー』なのだが、何故か『テフロン加工』という名称で呼ばれていた。
まぁ、『テフロン加工』はフライパンなどで馴染みがあるので引っ張られてしまったのかも知れない。
因みに『テフロン加工』を施したフライパンが焦げ付かないのは、主にPTFEと呼ばれる物質を金属表面にコーティングする事により、フライパン表面が非常に滑らかになり他の物質が付着しにくくなっているからだ。




