どか~んっ!
ピカっ!
それまで濃い灰色だった雨雲が突然明るく輝いた。そして備える事数秒、窓ガラスをビリビリと振動させるほどの轟音が響き渡った。
ゴロゴロゴロゴロ・・どか~んっ!
「きゃーっ!ポチっ!このポンコツ雷発生装置をなんとかしてっ!これじゃうるさくてゆっくりおちゃけも飲めないじゃないっ!」
「恋菜様、機械は正常です。ポンコツなのは恋菜様の機械制御です。なんでいきなり最大出力でカミナリを発生させるんですかっ!」
なにやら大きな制御盤の前でスコッチの入ったグラス片手に恋菜はあれこれとダイヤルをいじくっていたらしい。
そんな恋菜を見て、ポチは機械の出力ダイヤルを最小側に回し、更に別のスイッチをOFFにしながらため息混じりに苦言を呈した。だが、言われた本人は聞く耳を持たなかったらしい。
「いや~、ほら、機械ってどれくらいの性能なのか試してみたくなるじゃん。自動車だって買ったらまずどれくらい最高スピードが出るか確認するでしょ?」
「しませんっ!自動車の場合はまず慣らし運転をするもんです。」
「それは新車で買った場合じゃん。私は中古車しか買った事がないからそんな事した覚えはないわ。」
「えーと、冷蔵庫だって販売店から家に運び入れて貰った直後は、直ぐに電源を入れずに暫く中の冷却用冷媒が落ち着くのを待ってからコンセントに繋いで下さいって注意書きに書かれているでしょっ!」
「そうなの?むーっ、私が使っていた冷蔵庫って相当昔に買ったやつだから忘れちゃったわ。」
「あー、なら使用されている冷媒は特定フロン『CFC』か『HCFC』ですね。これらはオゾン層を破壊する性質があるので今は製造も使用も禁止されています。なのでちゃんとお金を払って業者に引き取ってもらって下さいね。」
「いや、引き取ってもらうも何も、私って死んじゃったんでしょ?無理じゃん。」
「くっ、ああ言えばこう言うで切り返すのはどうかと思うのですが、まぁいいでしょう。とにかく気が済んだのならばこれからはちゃんと説明書どおりに扱って下さい。」
「おっけぇ、おっけぇ。およ?なんか向こうからでっかくて平べったい飛行機が『変態』でやって来るわ。」
ポチの苦言をかわす為なのか、恋菜ははるか遠方の水平線上に現われた物体へと話題を変えてきた。
但し、その事でもやっぱりぽちから指摘を受ける。
「恋菜様、『変態』ではありません、『編隊』です。口頭だと判らないと思って漢字を適当に使わないで下さい。」
「ちっ、こまかいやつだな。どこぞの小説投稿サイトにいる『ぽっち』みたいだ。」
「何か言いましたか?」
「いーえ、なにも。と言うかあの飛行機、やたらと平べったくない?あんな形でよく飛べるわね?」
「あーっ、あれは米軍のB-2戦略爆撃機ですね。所謂尾翼を持たない全翼機というやつです。多分北朝鮮を爆撃した帰りなんじゃないですか。」
「えっ、米国と北朝鮮って戦争してたっけ?」
「いえ、ただ核開発に関する話し合いが頓挫したから米軍が秘密裏に北朝鮮の核施設を先制爆撃したのでしょう。米国はイランでも昔やりましたからね。」
「えーっ、米国って日本相手に『リメンバー パールハーバー』とか言っていたのに、自分も奇襲してるの?それって二枚舌過ぎない?」
「正義の為ならば許されるんですよ。但しその正義ば彼らにとっての正義ですけどね。まっ、戦争なんてどれもそんなもんです。」
ポチの説明に恋菜は理不尽さを感じたらしい。なのでそれを是正すべくとある行動に出ようとした。
「ふ~ん、よしっ!ならば私が爆撃に巻き込まれた人たちに代わって本当の正義というものを教えてあげるわっ!」
そう言うと、恋菜は雷発生装置の照準をこちらに向かって飛んでくるB-2戦略爆撃機の編隊にロックオンした。
そしてスイッチを入れる。
ピカっ!バリバリバリっ!ど~んっ!
閃光と共に空気を引き裂く轟音が辺りを包みこむ。そして放出された電撃は狙いたがわずB-2戦略爆撃機に命中する。
しかし、何故かB-2爆撃機は平然と飛行を続けていた。
「あれ?命中したのに墜落しない・・。なんで?」
「恋菜様、今の航空機は金属製なのでカミナリは機体表面を伝わって空中に放電してしまい機体に大きな穴などは開かないんですよ。なので内部の人や電子機器ですら感電しないんです。
これは自動車なんかもでも同じで、カミナリが鳴り始めたら大きな木の下ではなく自動車の中に退避する方が安全なんです。
因みに地上の樹木などがカミナリの直撃を受けると裂けたりするのは超高温な落雷の熱により木の水分や樹液が一瞬で沸騰・膨張し、その圧力に木が耐えられなくなるからです。」
「くっ、ゼウス神の必殺技も現代兵器には無力なのね・・。よしっ、では第二次攻撃隊発進っ!喰らえ、雹 (ひょう)爆弾っ!」
恋菜は掛け声とともにとあるスイッチを押した。するとB-2爆撃機の進路を塞ぐように巨大な積乱雲が現れ、その中で無数の雹が形成された。
更にそれらの雹は積乱雲の内部で合体を繰り返し最終的には直径1m近い大きさにまで成長する。
だが、直径1mもの物体はちょっとやそこらの風では空中に留めておくのは勿論、落下進路を微調整する事すらままならない。
なので殆どの雹はB-2爆撃機に掠りもしなかったが、運よく?大量に形成された雹の内、1個がB-2爆撃機のエアインテークからジェットエンジン内に吸い込まれファンブレードを粉砕した。
「おっ、命中した。おー、エンジンから煙が出ているわ。むーっ、でもしぶといわね。エンジンが1個だけ壊れたくらいじゃ駄目なのかしら。」
確かにB-2爆撃機のエンジンは4基あるが空気取り入れ口は2ケ所なので実際に損傷したエンジンの数は2基だ。
まぁ、それでも空爆を終えて重量が軽くなった機体ならば半分のエンジンだけでグアムの基地まで飛べるかも知れない。
「恋菜様、現代の軍用機というものはダメージコントロールを幾重にも施されているものなのです。なのでちょっとやそっとでは撃墜できないんですよ。」
「へぇ~、昔のゼロ戦は銃撃されるところりと落ちたらしいのに時代は変わったのねぇ。」
「随分古い話を持ち出してきましたね。まぁ、初期の零式艦上戦闘機は軽量化の為にパイロットを守る防弾板を装備していませんでしたからね。また、搭載している燃料も発火しやすいガソリンでしたから、灯油の親戚であるジェット燃料を使う現代の軍用とは火災の危険性においても比べ物になりません。」
「へぇ~、そうなんだ。でもそんなに安全性能が高いと製造コストが高そう。なんか最近の自動車も安全装備はもりもりだけど高くなっちゃったのよね。」
「零式艦上戦闘機だって当時としては高額なシロモノだったんですよ?でも確かに今の航空機の値段は更に高額ですけどね。ほら、あのB-2爆撃機なんてとある試算では1機2千億円くらいするはずだと言われていますから。」
「2千億円っ!きゃ~、そんな高いのを墜落させて賠償請求されたら払えないわよっ!こら~っ!パイロットっ!根性でグアムまで辿り着けっ!」
「ん~、まぁ大丈夫でしょう。仮に墜落しても米軍も面子がありますから作戦行動中に撃墜されたとは発表しないでしょうから。多分事故として処理されますよ。」
「あっ、そう?ならいいや。だけど軍用機って頑丈なのねぇ。」
「いや、まぁ確かに頑丈に造られてはいますが、カミナリ被害に関しては民間の旅客機だってそれが原因で墜落したという事例はありませんよ?と言うか、飛行中の旅客機にカミナリが落ちるのなんて結構頻繁にありますから。」
「えっ、そうなの?」
「そりゃそうですよ。だって地上よりも雲に近いところを飛ぶんですから。高い木の天辺にカミナリが落ちるのだって、そこが地上よりも空に近いからですもの。」
「ふ~ん、そうなんだ・・。でもカミナリってもっと威力があるもんだと思っていたんだけどなぁ。」
「放電エネルギー量はべらぼうにありますよ?標準的な落雷は一般家庭が消費する電力1、2ケ月分とも言われていますからね。」
「おーっ、ならば12回落ちて貰えたら1年間電気代がタダ?」
「あくまで計算上の話です。そもそも電気を大量に蓄電する技術はまだ開発されていませんから。電気自動車だって1回の充電で走行できる距離はまだ200~400kmくらいですからね。」
「それって自動車ならば十分なんじゃない?」
「ですね、だから商品として販売されているんですよ。」
「あー、それもそうね。因みにこの機械があれば製氷機がいらないわねっ!と言うか夏場になったら氷の卸し業として商売出来るんじゃないかしら?」
「えーと、雨や雹って最初に空中に漂っている微細なコア、まぁ具体的には埃とか砂粒なんですけど、それらの周りに水蒸気が付着して大きくなるので、衛生的概念からはあまりお薦めしません。少しくらいならば影響はないでしょうけどお腹が弱い人が大量に摂取すると下しますよ。」
「成る程、確かに自動車の排気ガスや黄砂が氷のコアになっていると聞くと食べたくなくなるわね。」
「では、米軍機の後始末は私がやっておきますので恋菜様は定例会議に出席してきて下さい。でもくれぐれも太陽さんの担当者とはもめないで下さいね。何かと面倒なので。」




