転生・転移の間
さて、予想の斜め上をゆく展開に恋菜がビビったのを見計らい、コロンディーナ・コロンデールは説明を始めた。
「ここは東京と名がついているにも関わらず、実際に立地されているのは千葉県だという某ネズミーランドの上空、3千333メートルの空の上です。だからほら、見てみて。人間たちが蟻のようでしょ?」
「えーと、その台詞って『ゴミのようだ。』じゃなかったっけ?」
コロンディーナ・コロンデールの言葉に何故か突っ込む恋菜。いや、本来問い質すべきはもっと他の事なんじゃないだろうか?
しかし、コロンディーナ・コロンデールは恋菜の指摘を無視して説明を続けた。
「ここは世のラノベ読みたちに『転生・転移の間』と言われている場所です。ほら、ラノベに出てくる『転生・転移の間』って一面白っぽいのが定番でしょ?」
「そっ、そうなの?ごめん、私ラノベはあまり読まないからよく知らないの・・。」
「えーっ、あなたラノベを読んだ事がないのぉ?あらら、随分暗い中学生時代を過ごしたのねぇ。」
「ほっとけっ!全ての中学生がラノベに罹患するなんて思うなよっ!少なくない数の中学生はホラーに嵌まるんだからねっ!」
「あーっ、思春期ってそうゆうモノにも興味を持つわよねぇ。後は『SF』?でもそれを論じていると話が進まなくなるので話を戻すけど、恋菜、あなたは乗っていた飛行機が山に激突して死んだの。ただ、なんかその際に天国を賞賛する歌を頭の中でリフレインしていたらしく、神様から人生をやり直す恩赦が出たのよ。なのでやり直しの選択の一つとして生前あなたが望んでいたおちゃけに関する仕事として私のサポートをして貰う事にしたの。」
「あなたの仕事のサポート?と言うか死ぬ間際に私って賛美歌でも歌っていたの?全然記憶にないんだけど?」
「そお?ほら、あの歌よ『パライソしゃんしゃんっ!うんちゃらなんちゃらっ!』ってやつ。」
「それはザ・フォーク・クルセダーズの『帰って来たヨッパライ』だっ!と言うか歌詞が全部間違っているっ!でもその歌って私が生まれるずっと前に流行ったやつだよっ!なのになんで私はそんな事知ってるんだぁ~っ!」
「あはははは、そうよね。でも歌の内容は今あなたが置かれている状態とぴったりじゃない?」
「確かにあの歌って酔っ払い運転で死んだ男が天国でおちゃけ飲み放題な自堕落をして神様に怒られる内容だったけど、私の性別は女だし酔っ払い運転はしていないっ!」
「まぁ、そうなんだけどあなたがおちゃけ絡みで死んだのは確かなんだから諦めてここで働いて頂戴。因みに報酬はおちゃけ飲み放題よ?」
「えっ、マジ?」
「ちゃんと仕事さえこなしていれば、仕事中でも飲酒は認められます。しかも世界中のおちゃけを選び放題っ!」
「やるっ!やりますっ!やらせて下さいっ!」
もう一度言うが、恋菜は仕事中におちゃけ絡みで死んだのだ。しかしそれでもおちゃけが絡むと平静ではいられないらしい。
それこそ餌の缶詰をパカンと開けた音を聞いた時の猫のように食いついてきたのである。
「では契約は成立と言う事で。因みに仕事内容は雲の管理です。つまり必要なところに雨を降らせたり、季節によっては雪を降らせたり、場合によっては甘露を降らせたりして貰います。」
「雲の管理?甘露を降らせる?むーっ、甘露ってなに?」
「甘露に関しては色々な説があるのだけど、ここではおちゃけの事ね。」
「おちゃけを降らすんかいっ!勿体無いだろうがっ!」
「いや、これはモノの例えだから。単に酒飲みの願望です。実際には『福音』や、天からの祝福の『マナ』とかです。」
「あーっ、結婚式で振りまくライスシャワーや花びらみたいなものなのね。」
「そうね、因みに別の担当者は我侭な統治者に対しては隕石やミサイルを降らせています。」
「それってゴモラとソドムの火みたいなやつ?」
「昔はね。今は自爆ドローンやMk.48無誘導航空爆弾が主流かなぁ。」
「キナ臭くなるからリアルな実名を出さないで下さい。」
恋菜は昨今の中東情勢を鑑みたのか眉をひそめた。そう、これはたまたまの一致なのかも知れないがゴモラとソドムも場所は中東なのだ。
「まっ、そっちはあくまで専門のエージェントがいるからあなたがやる事はないわ。でもカミナリはあなたの担当になります。」
「おーっ、それってギリシャ神話のゼウスの持ち技だったはず。わーい、私ってゼウスと同等のチート持ちになれるのかぁ。」
「カミナリはチートではないわよ?純然たる物理現象だから。つまり雲の中のあちこちで微細な氷の粒同士が擦れあって電荷が発生し、そのプラスとマイナス電荷の偏りがある一定以上になると互いに打ち消そうと引かれあって放電がおこるのよ。その際のデートコースによっては地上に向かってまっしぐらとなる事もあるの。」
「迷惑なデートね・・。でもその場合、雲が『大きなひとつの塊』で、その雲を構成している微細な氷の粒が『いくつもの小さなかけら』なのね。」
「恋菜・・、その元ネタが判る人ってあまりいないと思う・・。」
「そっ、そうかなぁ、結構作品は集まったらしいんだけど?」
「メタな話はやめて頂戴。で、あなたには日本国周辺の雲を管理して貰います。ただ、知っていると思うけど雲は単体では存在し得ません。なので関係各位との打ち合わせと調整が大事です。」
「えっ、そこも物理現象に則らなきゃ駄目なの?魔法系の物語だと普通は無視するもんだと思うのに。」
「魔法はあくまで人間が編み出した空想の産物です。そして空想では原理やエネルギー保存の法則は無視されます。でもあなたがやる仕事は『リアル』だから物事の因果関係を疎かにする事は出来ません。」
「存在自体がまだ確定されていない女神様がいきなりリアルな話をしてきたよ・・。」
「で、気候に関する関係各位については『太陽』さんが元締めです。それと『海水』と『大気』、後は『地形』担当者があなたの交渉相手になるわ。」
「ますます持って、話がリアルになってゆく・・。」
そう、気候とは結局熱エネルギーの動きなのだ。そしてこの惑星上において最大の熱源は太陽というなの『恒星』なのである。
その太陽による熱により海水を含めた全てのモノは温度を上昇させる。ただ場所と季節によって受ける熱エネルギーの量は変わるので惑星のスケールでは場所ごとに温度差が生じる。
そして熱は常に高い方から低い方へと伝わるので、大気のように流動性の高い物質では『風』という現象となって現われるのである。所謂『気圧差』と言うやつだ。
勿論海水も熱によって移動するが、その変化は大気よりもずっとゆっくりである。
ただ海水は大気よりも単位重量当たりの蓄熱量が桁違いに高い。なので全体として平均海水温度が1度上昇するという事は相当なエネルギーが溜め込まれていると言う事なのである。
とは言え、そんな事を恋菜に説明しても理解してくれまい。なのでコロンディーナ・コロンデールは恋菜にやってもらう仕事の概要だけを説明してきた。




