表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/57

第4話:奇襲鏖殺


「お前達は何者だ」とか「なぜ探索者を襲う」だとか。


君は──…いや、ライカードの探索者はそういう無駄な質問は一切しない。


そんなものは相手を皆殺しにしてからすればいいことである。


全員殺す。


然る後に、1人ずつ『生命』の魔法で蘇生していけばいい。


蘇生に成功しても、対象は這いずる事すら出来ないほどに消耗している状態だ。


反撃も受けないだろう。


まあ失敗しやすいというデメリットはある。


1度失敗すれば灰と化し、もう一度失敗すればその存在は消失する。


それが最悪の状態異常、消滅。


余程の事態でもなければ味方に使うべき呪文ではない。


だが君は楽観的だった。


恐らく何人か灰になるだろうが、5人もいれば1人くらいは成功するだろう……そんな事を思っている。



君は『転移』の後、すかさず『彫像』を放った。


範囲は君の眼前の賊、数は5人。


賊の足元には男の死体が2体と女の死体が1体あったが、検分は後だ。


『彫像』は特殊な呪文である。


呪文が成功すれば、相手は動けなくなる。


ただし、これは麻痺や恐怖といった状態異常ではない。


しいていうのなら強張らせるという感じだろうか。


びくりとさせる。


深く、長く。


従って状態異常の耐性では防げないのだ。


これを防ぐには魔法そのものに抵抗しなければならない。


だが、君の魔法に抵抗するというのは困難を極めるだろう。


何百何千何万という高位悪魔の屍を積み上げることで感得した魔法貫通の妙技は、並大抵の護りを容易に貫く。


パリンという甲高い破砕音が4つ同時に響くと、賊のうち4名がたちまちに動きを強張らせた。


どうやら1人は抵抗に成功したようだ。


みれば賊共の中心にたっていた賊が2匹の蛇が絡み合う鈍い錆び色のメダリオンを掲げている。


「ぐっ……!何者ですか?!ですがこのアミュレットの護りは破れませんよ!」


声を聞く限りでは女性のものだった。


だが君にとって敵が男であるか女であるかは関係がない。


君は賊のセリフが言い終わる前に懐に入り込んでいた。


──『鉄身』


そして「破れませんよ」の「よ」の時点で拳を賊の腹部へ叩き込む。


インパクトの瞬間、鉄身の呪文により君の総身が鉄塊と化した。


強力な魔法無効化能力があるにせよ、それはあくまで賊に及ぼす範囲に限る。


君が君に魔法をかけるのならば支障はない。


君の身長と体重は170センチ、60キロといった所だ。


つまり君の体積は57Lといったところであり、これに対し鉄の比重である7.85を掛けると…大体君のサイズの鉄の塊は477キロといった感じになる。


そしてこれが肝心なのだが、拳闘技術の1つにインパクトの際に全身、全関節を完全に硬直させることにより、その重量をそのまま打撃へと伝導するというものがある。


『金剛体』とよばれるそれは非常に難易度の高い技術であった。


関節を固定する、全身を硬直させる、というのは一言でいえば簡単だが戦闘中に意識してそれを行うというのは難しい。


なぜならこの技はその性質上、打ち終わりの隙が極大であるためだ。


技が完成するほどに全身を硬直させれば、再び動き出すのに時間がかかってしまう。


だがライカード魔導部隊きっての武闘派であるとあるニンジャ・マスターはその弱点を『鉄身』、及び『大鉄身』の変則利用で解決した。


『鉄身』及び『大鉄身』は全身を鋼鉄と化し防御能力を高めるという魔法だが、それでも攻撃を受ければ傷ついてしまう。


それはなぜか?


なぜなら通常の利用では鋼鉄と化すといっても、それは言葉だけのことで、実際は皮膚を硬化させるにすぎないからだ。


本来の効果は皮膚の鋼鉄化であるが、それをしてしまうと身動きが取れなくなってしまう。


だが件のニンジャ・マスターは金剛体と組み合わせることで、威力の向上、及び超硬質化による残心防衛で打ち終わりの隙を消すというまさに一石二鳥の戦術を考案したのだ。


つまり、殴った瞬間に全身を完全鋼鉄化させるという事である。


このミキシングにより生み出される破壊力は、賊の女の腹部に477キロの重さの鉄球が高速で衝突したそれに等しい。


しかもただ衝突したわけではない。


打撃力が内で拡散するように "徹す"様に打ったのだ。


その結果はご想像の通りである。



綺麗な花が咲いた。



探索者ギルドで尋問を受けている間、賊の1人は自分が生きている事を神に感謝していた。


(司祭様は気の毒だが…)


目を瞑るとアレが見えてしまう。頭から消えてくれない。


優しかった司祭様、美しかった司祭様。


弾けて赤い何かへ変わってしまった。


司祭様の下半身が地面に倒れたべちゃりという音が耳から離れない。


司祭様の体の中の肉が、やけに誘うようで…


「アグァァァアァアアア」


不意に恐ろしくなって頭をかきむしる。


遠くで声が聞こえる。


「やれやれ、またか。おい、ジム、尋問は暫く休憩するぞ」


「ああ、それにしてもあの兄さん、一体何を……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30以降に書いた短編・中編

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「逆張り病」を自称する天邪鬼な高校生・坂登春斗は、転校初日から不良と衝突し警察を呼ぶなど、周囲に逆らい続けて孤立していた。そんな中、地味で真面目な女子生徒・佐伯美香が成績優秀を理由にいじめられているのを見て、持ち前の逆張り精神でいじめグループと対立。美香を助けるうちに彼女に惹かれていくが──
「キックオーバー」

ここまで



異世界恋愛。下級令嬢が公爵令嬢の婚約を妨害したらこうなるってこと
毒花、香る

異世界恋愛。タイトル通り。ただ、ざまぁとかではない。ハピエン
血巡る輪廻~テンプレ王太子とお人よし令嬢、二人とも死にました!~

現代恋愛。ハピエン、NTRとあるがテンプレな感じではない。カクコン10短編に出したけど総合33位って凄くない?
NTR・THE・ループ


他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ