表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/58

第32話:ライカード・コミュニケーション

 ◆


「ねえお兄さん、壁とか床とか天井とか!これ何だと思う?」


 キャリエルの問いに、君は見たままの事を端的に答えた。


 すなわち肉である、と。


「それは見れば分かるんだけど!何のお肉かなあって。いや、やっぱり言わないで!」


 キャリエルの問に、君は考えていた事を端的に伝えた。


 すなわち人である、と。


「言わないでって言ったのに!」


 キャリエルの頬が膨れ、ルクレツィアが律儀にその頬を押して空気をぬいてやっていた。


 ・

 ・

 ・


「お兄さんは良く平気で居られるね、私なんかちょっと油断したら戻しちゃいそうだよ……」


 キャリエルが弱り切った声で言う。


 見ればルクレツィアやモーブも余り顔色は良さそうには見えない。


 君はと言えば平気の平左といった様子で、周囲に気を配って奇襲を警戒していた。その姿に油断は少しも見当たらない。


 君には確かに『会敵の予感』という奇襲察知の感覚が備わっているが、君自身はもはやその感覚をアテにするのはやめていた。先だっての下方からの奇襲を防ぎ切る事ができなかったからだ。


 ちなみに君が相手の気配を察知できない場合、いくつかの原因が考えられる。


 一つは相手が君よりも高い階梯を持っていた場合。しかしこれはあり得ないと君は思う。鎧袖一触とはいかないまでも、君と相手……ジャーヒルの間には大きな差があった。


 もう一つは──……


 ◆


 先へ進みながら君は説明をした。


「……すると、主様はあの大悪の、ええと、眷属?なのでしょうか。眷属が本体ではないと仰るのですね」


 ルクレツィアの言葉に君は頷く。


 アレは大方殺気だとか敵意だとか害意だとかの一部だろう、と君は答える。ただし、質量のある。不定形存在などとはまた別の、存在中枢を持たないモノを君の感覚は察知しない。



 質量のある殺気とは一体なんなんだ、という目で見てくる三人に君もうまくは答えられない。


 だが、と君はその場に向き直って一言断った。


 これから殺気を飛ばすが、それは本意ではないから許して欲しい──……そんな訳の分からないエクスキューズに三人は表情を硬くして身構えてから頷いた。


 そしてキャリエル、ルクレツィアは勿論の事、男であるモーブすらも頬を赤らめる程に色気のある声で君は囁く。


 焼き殺す、と。


 ・

 ・

 ・


 君は脳内でルクレツィア、キャリエル、モーブらに『核炎』をぶち込んだ。


 瞬間、純白の閃光があらゆるものを死の色で染め上げた。


 破滅的なエネルギー場が爆発的に膨れあがる。


 ルクレツィアは必死の構えで結界を張るも、君の『核炎』の烈光は一秒の数万分の一の時間で彼女の結界を破砕し、死閃となって彼女の白雪の様な肌どころか、肉、骨までもに浸透した。


『なぜですか、主様』という声が幽かに響き、破滅光の乱気流の中へと消えていく。


 それはキャリエルやモーブも同様で、可哀そうにキャリエルの赤く美しい生命力に溢れたかのような髪は一瞬で燃え尽き、そればかりか頭皮のみならず頭蓋骨、そしてその中身まで一瞬で灰にしてしまった。


 胸中で妹に別れを告げる事も出来ず、燃えて、燃えて、死んだのだ!


 モーブも同じだ。二人の女を守るため盾になろうとするが、神聖騎士の屈強な肉体、魔法耐性を以てしても君の『核炎』の前にはただの一秒も盾足りえなかった。


 死んだ!


 全員死んだのだ!!


 君の突然の裏切りによって、全員が死んだ!!!


 と、ここまではただの妄想なのだが、君はそんな妄想をまるで詠唱の様に吟じ、彼らの無駄な死に少しでも救いがあります様にと祈り、最後にそれらが可及的速やかに実現しますようにと念じた。


 ・

 ・

 ・


 そこで君は軽く息をつく。


 殺気の飛ばし方一つにも作法がある。


 ただただ殺意を抱くというのは三流であった、少なくともライカードでは。


 自分が相手をどうぶち殺してやりたいのかを囁き、詠い、犠牲者の無惨な死に祈りを捧げ、しかし慈悲は見せずにそれらが実現するように念じる。


 これがライカードの作法だ。


 君がなぜこんな事をしたかといえば、つまる所「殺気」という飛び道具の中で最もチンケなものでも、磨けば武器の一つにはなると言う事を示したかったのだ。


 か弱い人間に過ぎない君が扱ってもそれなりにはモノになるのだから、ましてや人間を超越する超常存在が「殺気」を扱えば形を持ち、実際に危害を加えに襲い掛かってきても不思議じゃなかろう、というわけだ。


 だが、君はそこまで真面目に実演する必要はなかったかもしれない。


 ルクレツィアとモーブは顔中から脂汗を流しへたりこみ、キャリエルに至っては顔色を蒼白にして横たわり、薄く微笑んでいる。


 その笑みは死を覚悟した人間の最期の矜持であると君は看破し、あわてて彼女を抱き起こして気付け薬を飲ませた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30以降に書いた短編・中編

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「逆張り病」を自称する天邪鬼な高校生・坂登春斗は、転校初日から不良と衝突し警察を呼ぶなど、周囲に逆らい続けて孤立していた。そんな中、地味で真面目な女子生徒・佐伯美香が成績優秀を理由にいじめられているのを見て、持ち前の逆張り精神でいじめグループと対立。美香を助けるうちに彼女に惹かれていくが──
「キックオーバー」

ここまで



異世界恋愛。下級令嬢が公爵令嬢の婚約を妨害したらこうなるってこと
毒花、香る

異世界恋愛。タイトル通り。ただ、ざまぁとかではない。ハピエン
血巡る輪廻~テンプレ王太子とお人よし令嬢、二人とも死にました!~

現代恋愛。ハピエン、NTRとあるがテンプレな感じではない。カクコン10短編に出したけど総合33位って凄くない?
NTR・THE・ループ


他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ