○18
その出来事は兵士たちにとっても不可解だった。
エクレールがあの少女を守る義理はないはずだけど、何が彼女を行動させるのか。
「どういうつもり?」
「ユリア、この子を殺す理由はないと思います。」
「その子の危険性が分からないの?貴方だって、この場所に捨てられている死体を見たんじゃない?彼女が撒き散らした腐敗した獣の肉は、まさに狼に虐げられた子羊なのに。」
「ユリア、この子は私とお喋りできるんです。」
「だから、何?」
「この子はただ誰にも、正しい生き方を教わらなかっただけなんです。本当に悪い子なら、私はもうこの場所には居ません。」
「意外と面白いこと言うのね。」
「ユリアだって、生まれてからすぐにナイフとフォークを持って食事していたんじゃないのに。」
「そうね。私からも質問を聞くけど。貴方は動物や人間の死体は見たはずだけど。その辺りはどうなの?」
「汚い、と思っただけです。」
「前から思っていたけど、貴方は本当にお馬鹿さんなのね。これで私は理解はできたわ。」
何を理解したの?とエクレールとその他は首を傾げた。
「装填用意!」
「え、待ってユリア!」
その声を待たずに、兵士たちは迅速に玉を籠める。
多少は時間はかかるが、しかしその間に逃げることは不可能だろう。
「いくら私が最初はナイフとフォークを持てなかったからって、獣のように生の肉を食べたことはないわね。エクレール、後ろに居る少女から離れなさい。」
「何で聞いてくれないんですか?!」
「貴方が馬鹿だからに決まってるじゃない?」
「そんな、何で?」
戸惑うエクレールの前に、少女は出ていた。
「私もそう思う。」
それはエクレールに対してなのか、それともユリアに対してなのか。
少女の右手の包帯が勝手に解け、その腕が長く伸びて地面に突き刺さる。
「まずい、全員後退!」
ユリアの号令は遅く、突き刺さった腕を中心に地面が真っ黒に染まって広がっていった。
その漆黒から、更に小さな無数の腕が伸びて高速移動し、逃げようとする兵士を捕らえる。
「このっ!」
ユリアは短銃を少女に向けて放つ。
しかし、それはエクレールにより防がれてしまった。
「この状況で誰が味方か分からないの!?」
「私はいつだって弱い人の味方だもの。だから貴方こそ何処かに行って!ユリア!」
「この馬鹿エクレール!死んでも知らないから!」
そう言って、更に広がってくる無数の腕を回避して逃げていく。
ユリアからすれば、今回ばかりは彼女を助けるのは無理かもしれないと思った。




