第43話 襲撃者たちの末路
月夜だけに照らされる真っ白な砂浜で二人の男女が向かい合う。
しかし、お互い武器を構え合う二人の様子から、ロマンティックな雰囲気ではないことは一目瞭然だった。
やがて武骨な大鎌を構える女が口を開く。
「シュウテン? 何を言ってるのかよくわからないな・・・。」
女は穏やかな口調とは裏腹に少しイラついた様子で呟く。
コイツ・・・さっきまで地形のせいで上手く立ち回れないでいた事を、自分の力量だとでも勘違いしているのか。ならば・・・下らない、馬鹿な男だ。
女はため息混じりに、目の前で愚かな交戦体勢を取っている男の全身をもう一度、観察してみる。
この男の身のこなしから見るに・・・コイツの戦闘力など私には何の驚異にもならない。
私の力が10とすれば、この男の力はいいとこ2か3くらい。群れからはぐれた草食動物の様なモノでしかない。それに、これだけ開けた場所ならば、大いに獲物も振るえる。
そうして簡単に自分と男の力量を再分析し、今の状況の驚異の低さを再度認識する。
もう、さっさと終わりにしよう・・・。そして、久々のご馳走をゆっくり堪能するとしよう・・・。
一時、荒波打っていた感情を静かに鎮めると、私は腕に力を込める。すると、同時に男は動きを見せた。
まるで自分を翻弄するように過剰に横移動を繰り返している。
なんのつもりか・・・。更に見るとその手にはいつの間にか一本のナイフも握られている。あれで私の意表を突いて接近戦でも仕掛けるとでもいうのか・・・。
「・・・ふふ」
もし、そうならば全くのお笑い・・・浅知恵もいいところだ。
現に今のコイツが必死に見せている動作も私にすれば止まっているに等しいレベル。実に間抜けな踊りでしかない。
やがて何の動きも見せない私に痺れを切らしたのか、手にしているナイフを此方へ投げつけてきた。
私はそれを最低限の動作で、簡単に避けて見せる。思わず、ため息すら漏れ出す。それはそんな程度のつまらない攻撃だった。
恐らく、遠距離武器を持つ自分の優位を保ちつつ、距離を取っての牽制攻撃を繰り返すつもりなのだろう。
何と平凡な手段か・・・。
だがしかし、この男が持つあの不可思議な武器だけは多少注意が必要だ。体勢を崩した所へのあの攻撃は、いくら私でも避けることは難しい。
恐らく、それこそがあの男の狙い。だから、あの武器への警戒心は決して緩めない。
問題はヤツが私の体勢をどうやって崩そうとしているかだが・・・。
しかし、その答えにはすぐに辿り着いた。
そうか・・・ヤツはああやって体勢を低く取り、こちらの攻撃を全神経を集中し、私の攻撃の空振りを誘発させるつもりなのだろう。全く舐めてくれる・・・。それなら、敢えてその誘いにのってやろうか。
女はレンガを睨み付け、行動を起こそうと動き出す。しかし、そこで一つ、ある怪訝な点に気が付く。
そういえばこの男、あれだけ強力な武器を持っているのに、あまりそれを使おうとはしない。それは何故なのか・・・。
そこで昔にヒトの一団を襲った時に使われた厄介な武器を思い出した。
弓矢よりも遥かに連射性能の高く、小型の火の玉を次々と撃ち出す奇妙な杖。
あれには少々手を焼かされた記憶がある。威力こそ大したことはなかったが、接近しなければ攻撃の術を持たない私には非常に厄介な武器だったことを覚えている。
コイツのモノもあの武器の類ではないのかと考える。しかし・・・この男があの武器で行った攻撃はまだ一度だけ。まだ断定をすることは出来ない。
あれ程の強力な武器を使い渋る理由は、使用になにかの制限があるのか・・・。それとも、もっと別の理由でもあるのか・・・。残念ながら、これに関してはすぐに答えが出そうにない・・・。
女は一時そんな思考に囚われる。が、すぐに自嘲気味な笑みを浮かべながらその思考を振り払った。
私はこの程度の相手に何を臆病になっているんだ・・・。こんな弱者を相手に何を状況に呑まれているんだ。
私は待つのが嫌いだ。それにこの久々のご馳走を前に我慢するのは身体に毒。さっさと終わらせるのが一番の筈だ。
ヤツが反応できないだろうスピードで切り込み、あの厄介な武器をヤツの腕ごと斬り捨て、そして喰らいつく。これでいい。とても簡単な作業だ。
やがて女は、目の前の脆弱な獲物を相手に一気に仕留めるべく腰を落とした。
もう迷いは無い。一瞬でケリをつける・・・。
すると、レンガはその動きに反応してか、使わずにいた古式銃を素早くを女に構えた。
ダンッッ!!
そして二人の膠着状態を破る合図の如く、甲高い爆裂音が海岸に響き渡る。その銃口は女の胴体を正確に捉えていた。だが、女は驚異的な直感と身のこなしでその射線から身を翻した。
「甘いな!同じ攻撃を二度も貰うものかッ!!」
女は暴れる自らの重心を軽やかにコントロールすると、一気に踏み込もうと大地をしかと踏みしめる。
しかし直後、レンガの見せた行動に思わず目を見開く。
「ッ!?」
この男は何を思ったのか、自分の方へ真っ直ぐと向かって来たのだ。
しかし、その踏み込みスピードは平凡そのもの。コイツにとってはこれが奇襲のつもりなのだろうが、私にとっては自ら首を差し出しに来たに等しい行為だ。
私は薄く笑みを浮かべながら、目の前に迫る愚かな獲物を迎え撃つべく、柄を持つ手に力を込める。
一瞬、コイツの理解不能な行動に驚かされたが、もはや何の問題も無い。こちらの有効圏内に入った刹那・・・斬り捨ててくれるッ!
やがて、レンガは女の鎌の射程ギリギリまで辿り着く。すると女はその一瞬を見極めると、一気に踏み込む。その狙いはレンガの右手首。
「ふふ・・・これで終わりだッ!」
そう呟くと、厄介な武器を携える右腕に正確に狙いを定める。そして、神速の刃をなぎ払おうとした時。突然、視界から男の姿が消えた。
「なッ!?」
私は想定外の事態に一瞬、動揺したがすぐに男の現在位置を見つける。この男、こちらの動作に合わせて滑り込んで来た!?
しかし、砂埃を巻き上げつつ滑走してくるこの男の今の体勢は無防備そのもの。こんな状態であれば相手がいかに強者であっても、必勝出来る。まさにそんな無防備な体勢だった。
でも、今はそうはいかない。私はすでに攻撃の動作を開始してしまっているのだ。これだけの全力の攻撃動作に入ってしまっていては、いかに私と言えど中断することは不可能だ。
「このッ!!」
私は何とか攻撃の軌道を修正しようと試みるが、この男の体勢が低すぎる。とても、間に合わないッ!
ヒュンッッ!!
無常にも女の繰り出した斬撃は、レンガの毛先を掠め、大振りに空を斬り裂いた。それと同時に女の下へ辿り着いたレンガはその勢いのまま、足をぶつけて絡める。
「ぐッ!!」
女は突如として襲った鈍痛に声を漏らし、それと同時に視界が急激に回転、勢い良くその場に倒されてしまった。
ドタンッ!!
そして大地に打ち付けられた激しい衝撃が肩を襲い、思わず手にして大鎌を取り落としてしまった。ドスンと、砂ぼこりを巻き上げながら持ち主の手を離れた大鎌は夜の浜辺に寝そべる。
だが、私はそんな事には気を止めずに、すぐに次の行動に移そうとした。しかし、私はすぐにその動きを止めた。
「くッ・・・」
私の鼻を嗅いだことの無い異臭が支配していた。異臭を放つ奇妙な筒が私の目と鼻の先に添えられていたのだ。その時、私の背中に冷たい何かがゆっくりと駆け上がっていった。
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「ドミヤ、向こう・・・なんで明るい?」
ドミヤの前で馬に股がるユノは遠目に見える王国を指さした。
遺跡から無事、逃げ延びたドミヤとユノは王国を大きく外周するように駆けていた。先程まで行動を共にしていたダニーとは王国が目視出来た辺りで別れていた。
彼は最後に、何かあったらまた訪ねておいで、と言い残しそのまま王国へと戻り、ドミヤ達はその足で一直線に解放軍の村へと向かっていた。
「何でさかね? お祭りでもやってるんでさか・・・」
ユノに言われてドミヤも王国の空を眺める。かなり距離があるが、その空はほんのりとオレンジ色に照らされていた。
ユノは意識を取り戻してすぐは旦那がいない事をしつこく質問攻めにしてきたが、ようやく理解してくれた様子で落ち着きを取り戻している。ダニーさんの応急処置は無事に間に合ったらしく、身体の方も問題なさそうだ。
今後の事も考えて、ダニーさんから調合した聖水を幾つかストックに貰っておいた。当面はユノの身体も心配ないだろう。
これで・・・ようやく全ての問題は解決でさね。きっと・・・旦那は戻ってる。きっと・・・きっと大丈夫でさ・・・。
それは勿論、何かの確信がある訳ではない。でも、落ち着きを経たドミヤは何故か、そう考えることが出来ていた。
旦那は毎度毎度、無茶な作戦や行動を起こし続けてきた。でも後になってみれば、そのどれもが最たる確信を持って行ってきたようにも思える。普段はあいをバカにした発言を連発してくる様なアホでデリカシーの欠片も無いような男。でも、旦那は・・・窮地にて冷静なしたたかさを発揮してきた。
だから・・・今度もきっと何か策があるに違いないでさ。
そんな自分に言い聞かせる様な願いを抱きながら、何とかドミヤは自らの感情を落ち着けていた。
すると、どこかで見覚えがある景色がドミヤの視界に入ってきた。
森の中に小高い山が幾つもそびえるその土地。そこは・・・。
「ここは、工房の・・・」
ドミヤは無意識に小さな呟きを漏らした。
そこはまさしく、ドミヤが人生の長きを時間を過ごした場所、術具工房のある土地だったのだ。
勿論、馬で駆けている為、その森自体は迂回するつもりなのだが・・・ドミヤの視線はその森に釘付けになっていた。
今でも工房の仲間達はあそこで辛い時間を過ごしているのだろうか・・・。自分が勝手に抜け出したことで何らかの処罰を受けてはいないだろうか・・・。
ドミヤの頭の中をそんな想像が駆け抜けていく。そして、自分がやってしまった事、犯してしまった罪が鮮明に浮き彫りになっていく。
工房で働くドワーフがそこから逃げ出す事、それは大変な重罪。秘密を知っている者は追い詰められ、確実に処理される。それが本来の逃亡者の末路。
だが、今思えばあの工房で働き続けても同じことだったのかもしれない。真面目に働き、やがて老い、職務を全う出来なくなった時、どうなるのか・・・。
自分の記憶を辿っても、工房から無事に引退していった者に心当たりは無い。
ある者は懲罰の告知と共に姿を消し、ある者は突然に逃亡し、その消息を断った。にこやかにあそこから出ていった者など、誰も知らない・・・。
そしてそれが全ての答えなのだと今、悟る。それこそが、あの工房で働く者達の決められた末路なのだと・・・。
しかし、あいは幸運にもこの円環から抜け出ることに成功した。今、自分は晴れて自由の身なのだ。
でも・・・あそこに残っている仲間達は違う・・・。
今もあそこに捉えられ、先の見えぬ労働に追われる日々を過ごし、いつ切り捨てられるかと怯える毎日を送っている。
・・・あいは、これでいいでさか・・・。
楽しい時間を送れば送るほど、この罪悪感は膨らんでいった。自分だけが逃げ出した・・・そんな自分だけが、これでいいのかと・・・。
それは只の綺麗事だと、自分でもわかっている。今の恵まれた現状から来る、単なる偽善的な考えなのだと理解はしている。
しかし、頭ではそうわかっていても、そんな考えは膨らみ続けていく。
何か、あいに・・・あいにだけ出来ることがあるんじゃないか・・・。
そんな考えが頭の中を蛇のように掻き乱し、暴れ回る。
「ドミヤ、どうしたの? 大丈夫?」
そんな思考の海に溺れていたドミヤは、ユノの囁きで現実へと引き戻された。
「あ・・・いや、ちょっとボーとしてただけでさ。さ、さぁ、一気に村まで戻るでさよ!」
一時操舵手を失い、いつの間にか緩やかに歩いていた馬に渇を入れるように強めに手綱を引いた。それと同時に馬は軽やかな鳴き声を上げ、再び疾風の如く走り出す。
やがて、懐かしい土地は見えなくなっていった。しかし、それでもドミヤの中でのたうち回る蛇達の気配は消えるどころか、更に大きくなっていた・・・。
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「これは、一体なにが・・・」
王国に一人戻ったダニーは東城門に起こっていた惨状に驚き立ち尽くした。
王国を囲うように伸びている壁の間にかまえている城門。それは王国と外界を繋ぐ大事な出入口の一つ。その城門が完全に破壊されていたのだ。
高く築き上げられた壁面の上部が大きく崩落を起こしている。恐らくは複数の投石機を用いたのだろう。その証拠に今も幾つかの岩石が壁に突き刺さったままになっていた。
そして辺りからは激しい悲鳴や怒号が飛び交い、大量の衛兵達が血相を変えて行き来している。すると、その内の一人の衛兵が立ち尽くしていたダニーに気が付くと、声を上げながら走り寄って来た。
「ダニー様ッ!こんな所に居られては危険です!すぐに離れて下さいッ!!」
慌ただしい様子の衛兵はダニーの目の前まで来ると、両手を突き出してその場を制した。
「こ、これは・・・どうしたのですか?ここで一体、何が起こったか教えて下さいッ!?」
しかしダニーはその要求は受けず、衛兵の青年の慌ただしさに負けない様子で経緯の説明を要求した。そんなダニーの態度に青年は気圧され、困ったような表情を見せた。
「あ、いえ・・・まだ詳しい情報は自分にもわからないんですが・・・隊長いわく、先の養殖場を襲撃したと見られる解放軍を名乗る一団の仕業だという話なんです」
彼の話によるとまだ、実行犯は捕まっていないとのことだ。だが、ダニーは解放軍という単語を聞いて頭に浮上したことがあった。
フジワラレンガ・・・。ダニーが先程まで行動を共にしていた一団だ。
「先程の戦闘にて実行犯数名は排除しましたが、まだ残党が残っている模様で・・・ッ!?ダニーさん危ないッ!!」
青年がそう叫んだのと同時に、再び障壁近くの家屋が大きな音を立てて崩れ落ちた。
「キャーーッッ!!アナタッ!アナタッッ!!」
「奥さんッ!!危ないですッ!!離れて下さいッ!!」
「ワァァーーーーン!!」
それと同時に上がる女性のカナ切り声、怒号、子供の悲鳴・・・。
出発時に自分が潜って行った平和な城門付近の景色は一変、今やそこらから人々の絶叫が上がる地獄と化していた。
・・・こんなことを、彼らが・・・彼らの仲間達がやったというのか・・・。
と、先程までの怒号とは違う一際大きな叫びが上がる。
「いたぞッッ!!そいつを捕まえろッッ!!」
その声を合図に衛兵の一団がある一点を目指して集結していく。すると突然、その先、瓦礫の隅から小さな影が飛び出した。
「ぐあッッ!!」
先頭を走っていた衛兵の一人が絶叫と共に、その衛兵の背中から赤黒い液体を纏った刃が飛び出し、それと同時にその左右の衛兵が糸を切られた操り人形の様にその場に倒れ込む。
すると、その高速で動く影は群がる衛兵達を飛び越えるように高く跳躍した。そして、その影は上空で強い風に煽られ、頭から全身を覆うように身に付けていたボロ布のマントが捲れ上がる。
そこから現れたのは、まだあどけなさも残る小さなドワーフ種の少女だった。
少女は宙にその身を晒しながらも、まだ攻撃の手を休めようとはしなかった。空中でその身をやや屈めるとマントの下に隠し持っていた数本の短刀を固まっている衛兵目掛けて射出する。それと同時に幾つかの短い悲鳴が上がり、バタバタと更に数名の兵士達が横たわる。
その時、月光に照らされて露になった少女の表情を見て、ダニーは戦慄を覚えた。
「ダニー様ッ!危険です!下がって下さいッ!!」
青年はそう叫ぶと、両手を広げてダニーを護るように前に立ちはだかった。しかし、ダニーはその彼の肩先から見える戦闘の様子に釘付けになっていた。
ナイフの様に鋭い眼光に、怒りを具現化したかの様なその険しい表情。それはまだ幼さが残る少女とは酷く対照的で、酷く歪なものだった。
その彼女の表情から読み取れるもの・・・それはここから逃げ出す気など毛頭ないという固い意思を感じさせるには十分なものだった。
今、ここにいる衛兵の数は優に20は越えている。少女がどれ程の達人であったとしても、単独でこれを捌き斬るのは到底不可能だと思われる。
では、何故彼女は、こんな無謀な行動を起こしているのか・・・。
そして、少女は着地するのと同時に、その身をバネの様に弾くと陣形が乱れた衛兵の群れに突っ込んで行く。
「うッ! ひぃ・・・ぎゃあッッ!!」
更に幾つかの悲鳴が上がるのと同時に鮮血を巻き上げつつ、次々と兵達が倒れる。その血に染まる舞台の上で少女は両手の短刀を指揮棒の代わりに華麗に振るい続ける。
その光景を遠目に見ていたダニーは、そんな少女の織り成す劇場に思わず見とれていた。
だが・・・それと同時に強い恐怖も覚えてもいた。
あそこにいるのは、王国内の警備兵とはいえ、ある程度の訓練を詰んでいる兵士。それが亜人の、しかもあんなに幼い少女に完全に翻弄されてしまっている。
少し前までダニーは亜人の聖術体の研究に深く携わっていた。だから、亜人種の驚異的な能力はついては頭ではよくわかっていた。
また、亜人の村の管理していた兵からの話でも、ヒト種で亜人種と対等に渡り合える者など、ほんの一握りの実力を持つ者くらいしかいないとも、聞いていた。
だが、実際の彼等の戦闘能力はそのどちらも、遥かに凌駕するモノであった。
下手をすると、1小隊であれば、単騎で全滅させる勢いだ。
ダニーはそんな現実を目の当たりにして、心から震えていた。
「隊長ッッ!?」
すると、仲間達の亡骸を前に困惑した様子の兵達数人が救いを求めるように声を上げた。すると、隊長と呼ばれた兵は部下の不安を吹き飛ばすように大きく叫ぶ。
「構わんッ!捕縛は中止だッ!!弓隊!援護射撃開始ッ!!それと同時に槍隊!一斉突撃で目標を打ち倒せッ!!」
それを合図に少女、目掛けて複数の矢が放たれる。しかし少女はすぐにその動きを察知すると、水平に放たれた矢を飛び越える様に、再び宙に舞い上がり、それを避けた。
すると、隊長と呼ばれた男はその動きを確認し、再び声を張り上げた。
「よしッ!第二射ッ!!放てッッ!!」
その命令と同時に今度は無数の矢が闇夜へ向かって放たれる。そして慣性を失った矢達は、着地したドワーフの少女を中心に激しく降り注ぐ。
「グッ!うぐッ!!」
矢の雨に晒された少女は、苦渋の呻きを漏らながら、その場に片膝をつく。その小さな身体には無数の矢が突き刺さり、マントのいたる所から紅い染みが滲んでいた。
「今だッ!槍隊!突撃ッッ!!」
その言葉を合図に槍を携えた衛兵達が少女を囲うように次々とぶつかって行く。そして、水を含んだ果実が潰れるような音と共にその大地に朱のペンキがぶち撒けられ、やがて一つの川となり流れ出した。
「一体、何が・・・何が、彼女にここまでさせたんだ・・・。」
ダニーの脳裏には尋常ではない程に血走った眼光で、退く事など知らずに無謀な特攻を繰り返す少女の残像が残り続けていた。異常だと感じたの少女の奇行に、思わず漏れ出したダニーの問いに答える者は誰もいない・・・。
少女は何故、ここで闘う選択をしたのか・・・。あの少女の身のこなしと身体能力ならば、門を強行突破し、王国外へ逃げおおせる事も可能だった筈だ。
だが、少女が選んだ選択肢はこの場で闘い、そして・・・朽ち果てる事。そう、覚悟していた。私の目にはそう写っていた。
そこに、どんな意味があったのか・・・怒り。復讐。絶望。希望。
私にはわからなかった。少女の目には何が見えていたのか・・・。
そして、ダニーの脳裏にそれは深く刻み込まれていた。散り行く中で見せた少女の、まるで狂気に染め上げられ、血の色の様に妖しく瞬く二つの瞳の色が・・・。




